97話_測るあなたの好き調べ

人は絶えず選択を迫られる。人生は選択の連続だ。

今思えば、その場から逃げるという選択肢もあったのだが、その選択を取れたのかといえばまた別物だ。今回は忘れた頃にやってくる“あれ”のお話────。





「ただいまー」


玄関で靴を脱ごうとして、異様な靴の多さに違和感を覚える。ソフィアとシェイド、ミュウの靴くらいまではわかる。あとは誰だ?


リビングに上がるとソフィア、ミュウ、シェイド、チャミュ、ネツキ、スカーレット、エデモアの7人がそれぞれ座っていた。


なぜか皆の頭の上には数字が浮かんでいる。どういう構造なのかまではわからない。


「あ~、よーやく帰ってきたね~」


「エデモア、家に来るなんて珍しいな」


「新しい発明が出来てさ~上手くいってるか確かめたくて~」


少しずつ漠然とした嫌な予感が形になっていく。


周りの皆の顔もハメられた。という顔を一様にしている。ネツキは違うな、あれは面白がってるだけだな。


「へ、へ~発明ねぇ。で、また今回はどんなのだ?」


「ずばり~熱情ラブハ・カールだよ~。相手の好意を数値化、可視化できるようにしたものだよ~」


なるほど、それで皆の頭の上に数値が出てるのか。もうイヤな予感しかしない。


「にしても、よく皆エデモアに協力する気になったね」


皆、あさっての方向を向きながら


「エデモアからドーナツの差し入れがあってな」

「美味しそうなドーナツだったので…」

「ドーナツに釣られてしまったわね」

「差し入れだと思ったんだ…」

「なんで私が実験に付き合わないといけないのよ。久しぶりにシオリに会いに来たのに」

「味は悪うなかったやんね」

「ドーナツで~釣りました~」


そのうちソフィア、ミュウ、シェイド、チャミュは頭の数値がピピッと上昇する。


「あ~、早速反応が出てきたね~」


「今、何人か数値が上がったけど?」


「シオリが話しかけたから、それに反応したんだろうね~」


「は?なんで?」


「だって~シオリに対する好意を可視化してるからね~」


「え?」


皆の方を見る。


ミュウ、シェイド、スカーレットは目を合わせてくれる。ソフィアとチャミュはうつむき、ネツキはにんまりと笑顔を見せている。エデモアはそれをじーっと眺めている。


「僕?」


「そう~、皆がどれだけシオリのことが好きか~わかるんだよ~」


「うえええぇぇぇ!!!」


改めて皆の数値を見回してみる。


ソフィア 10000

ミュウ 5400

チャミュ 1800

シェイド 1200

スカーレット 500

ネツキ 10

エデモア 2


突出して抜きんでている2人。

上位4人に至っては喋っていない今も数値が上がり続けている。

ソフィアに至っては桁が違うな。それはそれでありがたいことなのだが……一種の羞恥プレイではないのか。


「ソフィアの値がえらい高いんやねぇ、流石シオリが好きだけ言うはあるわぁ」


ニヤリと笑うネツキ。顔を真っ赤にしてうつむくソフィア。


「ソフィア」


ピピッ。上がる数値。


「シオリ、今は話しかけないでください……恥ずかしくて……」


ピピッ。数値は黙っている時よりも速く上昇していく。


「なかなか興味深いんだよ~。1000の桁にいくのでもなかなかだと思ってたんだけど~」


「あんた、そんなにシオリのこと好きだったの?私より値高いけど」


スカーレットの言葉に耳を真っ赤にするチャミュ。数値が徐々に上がり始める。


「シ、シオリくんのことはソフィアの大事な人として私も信頼している(う、嘘ではあるまい)」


「チャミュ個人としてはどうなん?」


意地悪そうな顔をするネツキ。


「ネツキ!!」


「ふふっ、そんな怖い顔せんでも。数値上がってるで?」


チャミュの数値は上がり続け2000を超える。


「興味深いね~。喋ってる言葉と数値は比例しないのかな~」


「私はシオリのこと、好きよ」


まっすぐこっちを見つめるミュウ。彼女はブレないな。数値も徐々に上がっていく。


「姉様にここまで数値を引き離されているとは正直意外だわ。一番好きな自信があったものだから」


「なぁシオリ、皆に好き言うてくれへん?それでどんだけ数値が上がるか見てみたいわあ」


「ネツキ!!」


「まぁまぁ、言うだけやったら無料タダなんやし。な、ええやろ?」


「エデモアからも~お願いしたいんだよ~興味ある~」


「なんやったらウチからでもええで」


僕の目の前に来るネツキ。


「ほら、一言好きって言うだけでええから。言うてくれたら後でええことして あ 

げ る」


ええことに反応してしまう。ミュウ、スカーレットからは冷たい視線を向けられているのに気付き、慌ててネツキから離れる。


「わかった。とにかく、これは早く終わらせた方がいいな」


ネツキの顔を見つめる。ニコニコ笑顔なネツキ。意地悪だが可愛い顔をしているので不覚にもドキッとしてしまう。


躊躇ちゅうちょしていても仕方ない。

ネツキには世話になったこともあるし、そのニュアンスでいけば大丈夫だろう。


「ネツキ、好きだ」


ピピピピピッ


物凄い音を立てて数値が一気に上昇した。


ソフィア、ミュウ、チャミュの数字が。ネツキは1上がっただけだった。


後ろを振り向いて笑いをこらえられないネツキ。


「くふふ、好きの言葉に反応して……そんな上がるやなんて、おもしろ過ぎやで」


ソフィア、ミュウ、チャミュの顔は真っ赤。特にソフィアとチャミュは最早茹でダコ状態だ。


「シオリ、楽しいもん見せてくれてありがとう。寂しうなったらいつでもお姉さんのところに来てくれな」


「ネツキは流石に冷静だな」


「ウチはシオリのこと好きとはちゃうからなぁ。良い男とは思っとるよ。けど、ほら倍率高いやんか?」


カラカラと笑うネツキ。


「ほら、チャミュも言うてもらったらええ。間近で言うてもらうのもなかなかええもんやで?」


ネツキに話しかけられただけでピピッと上がる数値。


「話を聞いてるだけで上がるなんておかしくないか。どこか不具合があるのでは」


「相手のことを想うと数値が上がる仕組みだから別におかしくないよ~」


「ほらほら、ウチも手伝ってあげるさかい」


ネツキに押し切られ、僕の前に立つチャミュ。いつの間にか大量に汗をかいていて、艶やかな印象を与える。


「はい、どうぞ」


「チャミュ…」


「見ないでくれシオリくん、頼む…」


目をつぶって恥ずかしそうにするチャミュ。彼女がこんなに顔を真っ赤にしたのをあまり見たことがないのでドキッとする。


「チャミュ、いつもソフィアを守ってくれてありがとう。そういうところ、本当感謝してる」


ピピピピピッ。上昇する数値。


「ほら、好きって言わんと」


「あ、あぁ、好きだよチャミュ」


ピコーーーーーーーーーーン


14000。1万超えを叩き出す数値。

あまりにもわかりやすい上昇の仕方に腹を抱えて笑うネツキ。


「わ、わ、わ、私は急用を思い出した!!す、す、すまないが、これで失礼する!!」


顔を真っ赤にして退席するチャミュ。


「チャミュってあんなにシオリのこと好きだったの?」


少しムッとするミュウ。


「姉様より下なのは仕方ないけれど、あの女より下なのは嫌」


ミュウは僕の前に立つと僕の腕を掴む。


「シオリ、好きよ」


ミュウの数値がググッと上がる。8000強まで上がる数値。


「言葉は誰よりもあるみたいだけど~数値は上がりきらないみたいだね~。なんでだろ~」


「シオリのことが好きなんじゃなくて、シオリを好きな自分のことが好きなんじゃないの?」


スカーレットがミュウを見下すような目で見つめてくる。


「豚は黙って草でも食べていなさい」


「だ、誰が豚だって!!?」


激昂して鎌を取り出すスカーレット。それを抑えるシェイド。


「そんなに吠えるとますます豚になるわよ。自重なさい」


「言わせて置けば…!!!」


ミュウはスカーレットを無視すると僕の胸元まで近付いてくる。


「シオリ、私はあなたのこと好きよ。あなたは?」


一点の曇りもない澄んだ瞳。


「ぼ、僕は……」


「嘘でもいいから好きって言ってみて欲しいんだよ~。数値のサンプルが欲しいよ~」


「シオリ」


ソフィアの方をちらと見る。膝を抱えて顔を隠しているソフィア。頭の数値は凄い勢いで桁数を稼いでいる。その数247800。群を抜いている。


「ミュウ…いつもありがとう。ミュウのまっすぐさに救われてるよ。好きだ、と思う」


ピコーーーーーーーーーーン


100000。10万に到達した。その勢い、うなぎのぼり。


「上がったねぇ~」


「も、もう1回」


「ダメだよ~、1人1回にしないとデータがずれちゃうから~」


「シオリ、もう1回言ってほしいわ。あ、ちょっとこら…離しな……」


エデモアの装置で拘束され身動きがとれなくなるミュウ。


「なら、次は私が言ってもらおうか」


シェイドが立ち上がって僕の前にやってくる。見慣れたとはいえ、改めて見ると綺麗で困るんだよな。


「やっぱ、言わなきゃダメか?」


「私はそうしてもらえると嬉しいが。私はシオリのことが好きだぞ」


シェイドもまっすぐな性格をしている、それ故にその瞳がまぶしい。


「僕も、好き、うん……」


照れてうつむいてしまう。ピピッ。数値は3000を指し示す。


「うむ、実に良い言葉であった」


シェイドは満足そうに笑うと、またソファに戻っていった。


「じゃあ、次は私!!」


満を持してスカーレットが近付いてくる。


「最近全然相手にしてもらえてもらえなかったから、私怒ってるんだからね!!」


怒り心頭のスカーレット。最近は学校でも彼女の相手をしていなかったのだから

仕方のないことだ。数値も500から徐々に下がり始めている。


「ごめん、最近色々あってさ」


ピピッ。数字が少し上向きになる。


「値が上がってるね~」


「言葉でああは言うてるけど寂しかったんやねぇ」


いつの間にか審査員のような立ち位置になっているエデモアとネツキ。


「こらそこ!!いちいちうるさいわよ!!」


噛みつくスカーレットだが、数値は少しづつ上昇していく。


「さぁ、私にも言って。好きって」


「好きだよ」


ピコーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン


数値は50000を叩き出す。


「(チョロイ……)」


「(チョロイわね)」


「(サキュバスってチョロイんやなぁ、おかしうて腹痛いわ)」


皆がスカーレットをチョロイと思いながら見つめる。


「な、な、な、なによ!!!」


顔を真っ赤にしながら反論するスカーレット。


「なんでシオリも、さっきはあんなに恥ずかしそうにしてたじゃない!!」


「いや、なんでかスカーレットにはすんなり好きだって言えるんだよな」


ピコーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン


+100000。


「わかった!!わかったから!!この数値消しなさいよエデモア!!」


「無理だね~、効力の時間までは続くから~」


エデモアの襟を掴みガクンガクンと揺らすスカーレット。


「無理なものは~無理~」


エデモアを揺らすスカーレットを放っておいて、僕は一息つこうとテーブルの椅子に腰かける。


ネツキが近くに寄ってきて、ちょいちょいと肩を叩く。


「(なぁシオリ)」


「(なんだよ)」


「(あれ、見てみい)」


ネツキが指差した先はうずくまるソフィア。1

頭上に並び立つ0000000の数。

0が壁に突き刺さって正確な桁がわからない。


「(さっきから見てたんやけど、えらい勢いで増えてな、くくく)」


「(笑うなよ)」


「(せやかて楽しくてなぁ)」


皆も黙ってソフィアの頭上の数字を眺める。

周りが静かになったのが気になったのか、ソフィアもおそるおそる顔を上げる。


「あ、もう終わりました?」


ツンツン。


姉に頭上を見るよう鏡を渡すミュウ。


「………!!!!!?」


想像を超えた数値にソフィアの顔が恥ずかしさで紅潮の臨界点を突破した。


「シオリ、この状況で好きって言ってみてや。どうなるか気になるで」


「エデモアも気になる~。ここまで桁がいくなんて予想外~」


「流石姉様ね、文字通り桁が違ったわ」


「納得の数字だな」


「なによ、なによソフィアなんて。私にだってできるわよ」


数字を見ながら口々に喋る。


「さぁ~言うんだよ~」


エデモア他数名に引っ張られてソフィアの前へと連れてこられる。

ソフィアは更に丸くなり、一切に見えない聞こえないという姿勢をとっていた。


「ソ、ソフィア?」


「……」


「いつもありがとう。大好きだよ」


ピリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ


今まで聞いたことのない音が響き渡る。


皆が桁数に注目する中、現れた結果は







それは無限。限りがないことを表していた。


「(無限だ)」


「(無限~)」


「(無限)」


「(そうきたかぁ)」


「(おかしすぎるやろ、ひーっひっひっひ)」


「(完敗ね)」


皆無言のまま、ソフィアの頭の上に浮かぶ文字を眺めていた。






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