90話_サキュバスと大泣きお姉さんと傲慢男7

両手を鎖で縛られ、身動きがとれない車内。

僕は頭に銃を突きつけられた状態で後部座席に座らされていた。車内には僕を含めて4人。全員軍人かのような屈強な肉体の持ち主だ。


「これはどこに向かってるんだ?」


「我らがリーダーの元だ」


「リーダー?お前達は組織なのか?」


「そうだ、俺たちはアンチヘルプリンス。邪帝・ザ・ギャングROXをあるべき姿に戻す存在なんだ」


「そうは言ったってマッドマックスはもうやめたんだろ。ヘルプリンスを排除したところで元通りにはならないだろうに」


「代わるくらいならやる必要などない!!それに、マッドマックスがやめたのも邪帝、お前が原因だろう!!」


「だから邪帝じゃないんだって!!」


「見え透いた嘘をつくな!!」


突きつけられた銃でこめかみのあたりを強く押される。


「マッドマックスが脱退したのはお前との仲が悪くなったことが原因だと聞いているぞ」


「だから、知らないって」


「あくまでシラを切るつもりだな。まぁいい、リーダーの元に連れて行ったら然るべき処置をとっていただく!!」


車は乱暴な運転を続け、スピードを徐々に増していく。


「(随分と極端なファンのようだが。邪帝のファンはこんな奴らばかりなのか?)」


僕の疑問をよそに、車は倉庫のようなところに入っていく。


「到着だ。降りろ」


ドアが開き、後ろから銃でつつかれる。

命令されるままに降りると、そこには数人の男女が待ちかまえていた。誰もが邪帝のようなトゲのついた服やズボンを身に付けている。世○末覇者の世界か何かなのか、ここは……。


「リーダー!!邪帝を連れてきました!!」


後ろで僕に銃をつきつけている男が、僕の目の前にいる大男に向かって大声をあげた。


「おう、ご苦労」


椅子に座っていた男は立ち上がるとゆっくりこちらに向かって歩いてきた。切れ長の目に腰まである長い髪。前髪は左半分を隠すくらい長くて見えない。この人は長いスカートにトゲのついた服を着ている。そういうファッションなのだろう。


男は近くまで来て、僕の顔をまじまじと見つめる。そして、チッと舌打ちをしたかと思うと僕の後ろにいた、ごつい天使の顔面に躊躇ちゅうちょのないストレートを喰らわせた。


「この馬鹿やろうがぁ!!」


「ぐはぁっ!!」


突然のパンチをまともに食らい吹き飛ぶ天使。他の天使たちは何が起きたのかわからず騒然とし始める。


「邪帝に似てるがこいつは本物じゃねぇ!!何偽者連れてきてんだぁ!!」


僕を連れてきた天使たちに向かって声を荒げる。2人の天使はすっかりおびえた顔を見せていた。


「あんた、僕が邪帝じゃないってわかるのか?」


「あぁ、そんなの一発だろ。何年ファンやってると思ってんだよ」


男はそのぎらついたら目を僕に向ける。目で人を殺せるとしたら、この人なら殺せる。僕はそう思った。


「じゃあ、他人だとわかったら話は早いな。これを解いてくれ、僕は家に帰らなきゃいけないんだ」


「そういうわけにもいかねぇんだ。これはあいつらのヘマだが、このアジトを知ってしまった以上、帰すわけにはいかねぇ」


男は僕の顔を見下ろす。


「こいつを部屋にぶち込んでおけ!!」


「へい!!」


両脇にいた筋肉質の天使達に抱えられ、隅にあった部屋へと放り投げられる。


ドサッ!!


「いってぇ……もう少し優しくしてくれよな……」


叩きつけられた痛みを感じながら、僕は体を起こす。明かりはついておらず薄暗い部屋だ。物置か何かだろうか。普段使われている形跡は見当たらない。なんとか脱出する手掛かりを見つけたいところだが……。


僕は今まで起きたことを頭の中で整理してみる。


サマァの屋敷にミミ宛の爆発物。邪帝の家を張り込み、ヘルプリンスを待ち伏せ。倉庫にはエビルクラウンのアジト。なんだろう、何かが引っかかる…。奴らの行動に一貫性がないように思う。ヘルプリンスを消し去ることが目的なのか。だとしたら、僕を邪帝と間違えたとしても、何故連れてきたのだろうか。ただ統率がとれていないだけなのか。


色々考えてみたが、結局答えとなる物は見つからなかった。

考えても仕方ないか。体を近くにあった箱に寄りかからせる。


そのうち、僕は緊張が解けたのもあって少しの間眠りについてしまった。



◆◆◆◆◆



シオリが捕まっているアジトにあと数km先というところまで来たところで、ソフィアの携帯に着信が入った。


「はい、シェイドですか」


「先ほどは連絡どうも。実は、十数分前からシオリのGPSが変な動きをしているのはこちらでも感知していてな、あと数分で合流できると思う」


「本当ですか。どうやら敵は武装しているみたいなので、シェイドがいると助かります」


「私だけではない、ネツキとチャミュもいる。2人とも快く引き受けてくれた」


まかせといてやー、と小さくネツキの声が聞こえる。


「ありがとう、3人とも。それじゃあ数分後にアジト前で」


「あぁ」


電話を切るソフィア。


「誰と電話していたんだ?」


「頼りになる仲間たちです。これでもう大丈夫」










それから数分後―――。


シェイドの言っていた通り、ソフィアとシェイド達はアジト前で合流を果たした。


「時間ぴったりですね」


「早めに動いておいて良かったよ。チャミュが気になると言っていてな」


「べ、別にそれはシェイドがシオリの話を出したからで」


「シオリの話をしていたのですか?」


「え、あ、あぁ話の流れでね」


「しどろもどろになっとるんよ、チャミュ」


「う、うるさいな」


ソフィアの質問に珍しく動揺した姿を見せるチャミュ。


「とにかく、シオリくんを救い出さないと。彼はこの中にいるのか」


「おそらく、この建物の中にいます」


ソフィアは奥に見える建物を指さす。


「ならば、早めに助けた方が良さそうだな」


シェイドは手袋をはめると、アジトに向かってゆっくりと歩きだす。


「そやね、見た感じそこまで脅威な敵も感じへんし」


ネツキも鉄扇を取り出しシェイドの後を付いていく。


「まったく、仕方ない」


拳銃を取り出し、チャミュも続いていく。そんな彼女たちを見て、爺の車の中にいた邪帝とヘルはソフィアに尋ねた。


「あの姉ちゃんたち、大丈夫なのか」


「えぇ、その辺の天使隊より何倍も強い人たちですよ」


心配そうな彼らに、ソフィアはにっこりと笑顔を見せた。

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