51話_サキュバスと入れ替わり姉妹の受難

エデモアの骨董屋。そこは、街の中で一番トラブルが起きやすい場所。

そこに現れた少女が1人。不敵な笑みを浮かべ骨董屋の中へと入る。


「おや~、珍しいね~。ルゥ1人でこんなところに来るなんて~」


「まぁね。ねぇエデモア、ひとつ頼まれてくれないかしら」


「なんだい~?」


ルゥは懐からなにやら設計図らしきものを1枚取り出す。


「こんな物をつくってほしいの」


「ふむふむ~、まぁ別に構わないけど~。何に使うんだい~?」


「そりゃもう楽しいことよ♪」


「なんだか怪しいね~」


「いいからつくるの!ほら、美味しい物持ってきてあげたから!」


「おお~!!これはタイガー屋の高級どら焼き~!!これは頑張るしかないな~」


「でしょ!頼んだわよっ」


「(これがあれば、私とユースケは……)」


「くふふ…あはは、あーはっはっは!!!」


「なんだかわかんないけど、あっはっは~」


骨董屋にエデモアとルゥの笑い声がこだましたのであった。



とある放課後、授業が終わり掃除をする俺とスゥ達。


なんだかんだでスゥ、ミュウも同じクラスになり、俺のまわりに集まる美女、美女、美女。この世はまさにハーレム戦国時代と化していた──。

という冗談はさておき、サキュバス美人3姉妹と美人天器スカイケイスに囲まれるという言葉上はとても羨ましい学園生活を送っていた(実態は仁鶴さんもまぁるく収められないほどのトラブル続きだったが)。


丁度家に帰ろうとスゥ達と話をしていたところに、ルゥがやってきた。


「ユースケー!!」


熱烈なハグをしようとするルゥの頭をシェイドが掴む。


「ふぎゅっ」


「学習しないな、お前も」


「あー!もー!!」


じたばた。じたばた。


シェイドの手を蹴り上げて、くるりと縦に1回転、華麗に着地。その際に水玉のパンツがはっきりと見えた。


「いいじゃないのハグくらい!なんでそう毎度邪魔をするのよ!」


「ユースケに害を成すものは排除すると言ったはずだ」


「誰が害を成すのよ!」


「お前だ」


「ぐぅー!!」


「またか……」


「飽きないわね、この2人も」


呆れる俺とミュウ。鞄をとってそそくさと帰ろうとする。


「待って、ユースケ!わかったわシェイド、今日はユースケに触れないから」


「本当だな?」


「本当も本当、ただユースケに渡したいものがあるの。それだけ」


「怪しさ以外の何者でもないわね」


ジト目でルゥを見るミュウ。


「あんたは黙ってて。さ、ユースケこっちに来て」


「なんなんだ一体?」


「あーって言ってみて♪」


「うん?あーーっ」


ポイッ


ルゥがユースケの中になにか丸っこい飴のような物を放り込んだ。


ごくんっ。いきなり物を放り込まれて思わず飲み込んでしまうユースケ。


「な、、なんなんだ一体ルゥ。今のは?」


「へへ、すぐわかるからっ」


そう言ってもうひとつ飴玉を取り出し、自分の口に放り込んだところで、


ヒュッ。


シェイドがそれをかすめ取った。


「なんだこれは?ユースケに今食べさせたみたいだが」


「あー!!もういいから返して!」


邪魔をされて頭にくるルゥ。飴のような物を取り返そうとシェイドに食ってかかる。


「またどうせよからぬ物なんだろう?」


「あんたが決めることじゃないわ!それ返して!」


「あっ」


シェイドの手から飴が離れミュウの手元に渡る。


「飴玉?」


「返しなさい!」


「……イヤよ。ユースケに食べさせた、そしてあんたも食べようとしている、なにかあるに違いないわ」


少し考えて疑いの眼差しをルゥに向けるミュウ。


「なにもないったら!さぁ、返して」


「イヤ」


「……この分からず屋!」


「あっ」


「あっ」


ルゥの手で弾かれた飴玉がミュウの手から飛んでいく。


飴は放物線を描き、ユースケの様子を見ていたスゥの口の中にホールインワンした。


「!?」


ごくんっ。


いきなりのことに飲み込んでしまうスゥ。


「あーーっ!ちょっとあんた吐き出しなさいよ!!」


スゥに駆け寄り、肩をガクンガクンと揺らす。


「姉さん、今のは何?あまり揺らさないで」


「もー!なんでこうなるのよ…」


飴がすっかりスゥの中に入ってしまったことがわかると、がっくり膝をつくルゥ。


「一体何を企んでいたのかしら?」


「私も知りたいところだな」


うなだれるルゥに詰め寄るミュウとシェイド。


「スゥ……」


その時、ユースケがスゥの腰を抱き自分の方へと強く引き寄せる。


「ユ、ユースケ…」


トクン。トクン。スゥの心臓の鼓動が強くなる。


見つめ合う2人。


「スゥ、好きだ」


臆面もなく、スゥに告白をするユースケ


「……////!?」


「好きだ。スゥ、君しか考えられない」


「ユースケ、あの、わ、わた、しも、あっ、、」


スゥの言葉を遮って唇を奪うユースケ。ユースケからの熱いキスに目を閉じて応じるミュウ。


「んっ…あっ……」


突然繰り広げられるイチャイチャムードを、少し離れたところで眺めながらルゥに白い目を向けるミュウとシェイド。



「ねぇ、あんたユースケに何もしないって言わなかった?」


「言ってないわよ!触れないって言ったの」


「屁理屈はいいわ。これ、あんたの仕業でしょ?どういうことか説明してくれるかしら」


さらに詰め寄るミュウ。


「ぐっ……」


「あの飴せいだな?」


「……そうよ!ユースケとイチャイチャするために用意したものだったのにー!!」


「うわーん!」


事態をどうにも出来ないと悟り、泣き出すルゥ。


「それでこうなってるわけね…」


ユースケとスゥはまるで恋人のように手を絡めながら海外の映画のように激しくキスを交わしていた。


今までに見たことのない、恥も照らいもない純粋に愛をぶつけ合う2人。


「熱々だな」


「ラブラブモード全開ね」


「ちょっと!なんでそんな黙って見てられるのよ!」


「主人がスゥと仲良くなる分には問題ない。この場所でというのは公序良俗的に褒められたものではないが、じきに家に連れて行けばそれも解決するだろう」


「姉さまとユースケ、全然進んでなかったみたいだし。いいんじゃないかしら」


「よくないわよ!予定では私がなるはずだったんだから!」


「それはそうと、その飴の出所教えてもらえるかしら?」


「内容次第では、処罰の対象が増えることになるな」


「ひっ……」


手をパキパキと鳴らしながらルゥに詰め寄るミュウとシェイド。


互いに抱き合いながらイチャイチャするユースケとスゥを後目にルゥは白状するまで追いつめられるのであった。



「なるほど、これはまぁ厄介なことになったな」


「まったくね」


シェイドとミュウはリビングの椅子に座りながら、状況をどう解決しようか悩んでいた。


ルゥは体を縄でぐるぐる巻きにされ、ソファに投げられている。

ユースケとスゥは手を繋ぎながら、互いを見つめ合ったりキスをしたりしてラブラブなカップルみたいになっている(お互い好きではあったが、それが表面上に出てきたと言った方が正しいか)。スゥがこんなに惚けた顔を見るのも珍しい。


「これ、いつまで続くのかしら?」


「さぁ、飴の効力がなくなるくらいまでじゃないの?いいからこれほどきなさいよ!」


「あんたは黙ってなさい。元凶なんだから。今回は姉さまとユースケだったから良かったものの、薬でユースケをなんとかしようとしたことについては許してないから」


「そうだな。その点については厳正に処罰する必要がある」


「ユースケがこっち向いてくれないのが悪いんじゃん!」


「シェイド、こいつを永久に天界に戻す方法はないの?」


「なくはないが、それもエデモアに頼めば……」


「わーっ!!わかった、わかったから!反省してます!」


「本当か?」


「本当、本当の本当。神に誓います」


「あんた半分サキュバスよ」


「じゃあ悪魔にも誓います」


「……ハァ、もうこいつのことは面倒になってきたからもういいわ。私はこっちの方が気になるし」


スゥとユースケの方を見るミュウ。


互いに目がハートマークになっているのがわかるくらいイチャついている。


首筋や手の甲に軽くキスしたりじゃれ合ったりしていて、見ているこっちも恥ずかしくなるほどに初々しかった。


「まさか薬でここまで進展するなんて」


「薬が切れた後の反動が怖い気もするがな」


「有り得るわね」


「ちょっと、ミュウ。あんたなんでそんな冷静なのよ、ユースケのこと好きじゃないの?」


「好きよ、大好き。それと同じくらい姉さまも好きなの。2人が好き合うことについては大歓迎よ。むしろどうしたらこうやって仲良くなるかわからなかったくらいだもの。あなたに感謝しないとね」


「きーっ!!ライバルの手助けをすることになるなんて、ルゥ一生の不覚だわ…」


縛られた状態で縮こまるルゥ。


「その状態で少し反省していることだな」


「ユースケ…」


「スゥ…」


「あっ…」


スゥがユースケの上に乗り、熱いキスを交わす。


「ま、たまには良いでしょう」


「これくらいわかりやすいと、こちらも心配しなくて済むのだがな」


シェイドとミュウは穏やかにユースケとスゥの熱々な行為を眺めていたのだった───。



「熱々な行為を眺めていたのだった──。じゃないよ!!」


バァン!


リビングのテーブルが勢いよく叩かれる。


「なんで止めてくれなかったのさ!」


薬が切れ、理性を取り戻したユースケがミュウとシェイドを前に鼻息を荒くしていた。


スゥは我に返ると今までで一番というくらい顔を真っ赤にして、今はユースケの隣で放心状態になっていた。


「なんでって、止める理由もなかったから」


「あっただろ!あんな、あ、あんなことになってたら」


「あんなことって?なにかしら」


「そ、そ、、それは、それだよ!!」


今までのことを思い出し恥ずかしさが噴出するユースケ。


「スゥの腰に手を回して『君以上に可愛い人はいないよ、スゥ』って言ったこととか?」


「『ユースケの顔、ずっと見てても見飽きません』とか」


「あぁぁぁあ…////」


「のわぁぁぁ!!!」


「『スゥのキスってこんなに甘いんだね。ずっと食べていたいくらいだ』って言ったこととか?」


「『ユースケ、もっと……もっとください///』なんてのもあったか」


「きゃー!!シェイドー!!」


「やめてくれミュウ……心が…心が軋む…」


胸に手を当てて悶えるユースケと顔を真っ赤にするスゥを見てニヤニヤするミュウ。


「ミュウ、楽しんでいないか?」


「なんのこと?ユースケと姉さまに事実を伝えたまでよ」


「とにかくだ、ユースケ。ルゥの話によると、あの飴玉aを食べた物は飴玉bを食べた物を愛さずにはいられなくなるという代物らしい。だから、気にするな。これは薬のせいだ」


「そうは言ったってさ…これからスゥと話したらいいかわかんないよ…」


「私、お嫁にいけません……」


「いや、いけるだろ(隣に旦那いるんだし)」


「はぁ……」


テンションがいつものように戻ったユースケ。それを微笑みながら眺めるミュウ。


「(強気なユースケも新鮮で良かったけれど、やっぱりいつものユースケが可愛くていいわね)」


「やけに上機嫌だな、ミュウ」


「あら、そう?気のせいよ」


シェイドにそう応えるミュウはふふっと軽く笑ったのであった。


一方、エデモア宅では……。


「にしても~、ルゥに渡した飴は何に使ったのかな~。あれただの感情発露剤だから~設計に書かれてたのとは効果違ったんだけど~。まぁいいか~」


そう独り言を呟きながら、タイガー屋のどら焼きを頬張るのであった。

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