46話_白熱爆熱!奪還ウェディング2

天空列車に追いついた私達の乗る浮遊車ホバーワゴン

その列車に飛び乗る寸前の出来事―――。


私とミュウは、エルとアルによって服を着替えさせてもらっていた。


「婿を取り戻すのならば、この格好がよろしいかと」


着せられた衣装は、花嫁のような白いドレス。動きやすいように丈は短く調整されている。


「これはまた、大層な衣装を持ってきたわね……まぁ、悪くないわ」


ミュウはくるりと一回転しながら衣装の動きやすさを確かめる。


「ソフィア様は露出を抑えた仕様にしております」


「ありがとう、エル、アル」


エル達の気遣いは流石だ。けど、正直言えば結構恥ずかしい。


「結婚式を壊すくらいの勢いで行くのがいいだろうしね。2人とも似合っているよ」


「そういうあなたの格好はなんなの?」


「これかい?」


チャミュは紳士のような白いスーツに身を包み、顔を隠す仮面をつけている。


「今回、昔の部下を相手にすることになるからね。顔は伏せることにするよ」


「あぁ、そういうこと…」


ミュウは興味なさげに答えた後、私の方を見た。


「姉さま、武器はどうするのかしら」


「私は、今回はこれを使います」


私はそう言って折り畳まれたを棒取り出す。二つ折りにされていた棒は両側に

開き、1mほどの弓に変形した。


「エデモアが貸してくれました。矢はエネルギーで生成すればいいそうです」


接近戦はあまり得意ではない。弓なら、ミュウ達の援護をしながらシオリを救えるだろうと考えてのことだった。


「それなら大丈夫そうね。前衛は私に任せて。後ろは姉さまに任せるわ」


「お願い、ミュウ」


「皆、準備はいいかい?列車にスピードを合わせるよ」


浮遊車ホバーワゴンが天空列車の最後尾につける。私達は背中の翼を広げると、列車へと飛び乗った。


「開けるぞ、準備はいいか?」


「はい」


「いつでも」


チャミュが足で扉を蹴飛ばす。


「ぐはっ!!」


勢いよく蹴破られた扉が警備員を下敷きにする。近くにいた天使たちが気づいたので戦闘体制をとる。


「なんだ!!?お前らは!!?」


「名乗る必要もないわ。どうせすぐ気を失うのだから」


ミュウは両手に持った剣で天使たちの背後を取り、ダウンさせていく。


ザシュッ!!


「ぐはぁっ!!」


バタバタと倒れていく警備兵たち。


「私が心配するのもなんだが、弱すぎるな…。今の部隊は大丈夫なのか」


「今はもう敵なんだから心配もなにもないでしょ。さぁ行くわよ」


転がる天使を見ながら前の車両へと移動する。


「あいや、またれい」


次の車両には、大柄の男が長刀を持ち道を塞ぐようにして立っていた。横幅もあり、倒さないと前に進めなさそうだ。


「彼はベーン・Kだな。部隊の中でも壁役を多く引き受けていた」


「ねぇ、あなたの元部下なら、顔を晒して下げさせた方がいいのではないの?」


「いや、途中でいなくなった私にもは効力というものはないよ」


「使えないわねホント」


「ミュウ、そう言う言葉を使わないの」


「相変わらずの手厳しさだ、ミュウくんは」


「あいや!ワシの話を無視するでない!!ここから先は隊長に誰も通すなと言われている。お引き取り願おう」


「…そういう訳にもいかないんです」


私は弓を開くと、ベーンに向って構える。エネルギーでつくられた矢は徐々に光を増していき、眩い輝きを放つ。


「どいてください。先を急いでいます」


本気で戦わないとシオリは助けられない。せめて急所は外して…。


「ヌハハ、どけと言われてどくわけがなかろう!!」


「……では」


ごめんなさい、私達は先に行けないといけないから。光る矢を放つ。矢は螺旋を描き、ベーンに突き刺さった。


「グッハァァ!!」


矢は巨体に刺さると凄まじい勢いで奥の扉へと叩きつける。


ガコォォォン!!!


音とともに崩れ落ちるベーン。


「(姉さまって怒らせると容赦ないのね……)」


「(ベーンであの様か。ソフィアの能力がこれほどのものとは…)」


ミュウ、チャミュ、ともにソフィアの威力の凄まじさを感じていた。


ベーン・K。わずかの登場であった。


「さぁ、先を急ぎましょう」



◆◆◆◆◆



場所は変わって、僕が捕まっている列車内―――。


列車は、徐々に天界第二層に近付いていた。


リオの話によると、あと20分程で到着するらしい。


脱出のタイミングはその時だ。にしても、どうやって脱出をしようか。


部屋の外には、数人の天使がいるらしい。武器を持たず、女性になった今の状態はあまりにも非力だった。こんな時にシェイドがいてくれたらな……。


頬杖を突きながら窓を眺めていると、見慣れたワゴンが隣を飛んでいるのが見えた。


びっくりして周りを見る。

リオの座っている場所からは見えないらしく気付いていないようだ。


もう一度、窓の方を見る。


ワゴンの中にいる人物は、明らかにこっちに気付いている。

手を振っているのは、ソフィアの家にいたメイドではないだろうか。


手を振りたいところだが、リオに怪しまれてはいけない。

僕はできるだけ表情で反応をする。


ワゴンが近付いていきて、メイドの2人がカンペのようなものを取り出す。


『ソフィアさまたちが助けにきました』


『車両の後ろに移動してください』


ソフィア達が助けにきた!!その事実を知って心が高鳴る。


なんとかして後ろの車両に行きたいが…いや、ということはソフィア達は後ろから来ているということか。この部屋に僕がいることをどうやって知らせよう。


僕は、頭の中で必死に考えを巡らせる。


何か、部屋の外に出られる口実はないか―――。



◆◆◆◆◆



場所は列車に潜入したソフィア達一行へ―――。


助けを待つ人の気持ち、それはおそらく私が一番知っているだろう。

昔の私にはチャミュしかいなかった。でも、今は違う。大好きな人がいる。


大好きな人が助けに来てくれた、それだけで私はあの深い闇の中から抜け出すことができた。今度は私が助けたい。


大好きな、“あの人”のことを───。


ソフィアは列車内にいる警備兵たちを退け、前の列車の方へと進む。


前に進めば進むほど敵は強くなっていくようだ。3車両程進んだところでは、警備兵の格も1段上がったように思う。


「警備が厳重になったな。シオリくんが囚われている部屋も近そうだ」


チャミュは銃で警備兵を撃ちながら、前へと進む。


「あなたも結構容赦しないのね、昔の部下だっていうのに」


「別に殺しているわけではないから大丈夫。少し気を失っていてもらうだけさ」


息を合わせているわけではないが、以前私を救いに来てくれた時に互いの感覚は掴めていたのだろう。次々と敵を倒していく2人。私も的確に狙いを定めていく。


「だいぶ倒したようだ。近くの部屋を当たろう、おそらくシオリがいるはずだ」


そこに地を這う斬撃が2つ飛んでくる。


「ソフィア!!」


チャミュが間一髪、私を抱えて斬撃を避けてくれた。


「チャミュ、ありがとう」


「この斬撃は……」


そこにいたのは両手に鞭を持った天使だった。


「不法侵入者に告ぐ。今すぐ武器を捨てて投降しなさい」


獣のような荒々しく尖った長い髪の毛、目つきも鋭くこちらを見据える。まるで獲物を狙っているかのようだ。以下にも神経質な女性という雰囲気を漂わせる。隊服はジャケットに短めのスカートを履いている。


「キルトか、こいつはベーン・Kと対象的に好戦的な奴だ。サディスティックな面があるからな、あまり相手にはしたくない」


「随分とまぁ部下をやってくれたじゃないか!!」


憤りを見せるキルト。鞭をしならせ壁に叩きつける。かなり好戦的な人物のようだ。


「こんなところでグズグズしてられないわ」


ミュウが両手に剣を構え、ゆっくり歩いていく。


「そんな武器で!!私に勝てるわけが!!」


シュンッシュンッ。


双方の鞭から放たれる斬撃がミュウ目掛けて飛んでくる。それをミュウも同じように斬撃を放つことで相殺していく。


距離を詰めながら行われる相殺合戦。


「あなたの専売特許と思わないことね。このくらい別段難しいことでもないわ」


「くっ…クソッ!!」


ミュウに距離を詰められたことで焦り出すキルト。斬撃を出す間合いではなくなり、鞭と剣が直接弾き合う。


キィンッ! キィンッ!


「ミュウくんがここまでやるとはね…。キルトも部隊の中ではそれなりの使い手なんだが」


「ミュウ、凄いわ」


「このっ!!なんて奴!!」


キルトの鞭を全てさばききるミュウ。表情一つ変えずキルトを見据え、近付いていく。


「私は先を急ぎたいの。あなたの芸を見ている暇なんてないわ」


「この!!」


ザシュッ!!


激昂したキルトが振り下ろした鞭。ミュウの剣が鞭を根元から叩き切る。


「終わりよ」


「何故……何故なの!!」


膝をつき、悔しそうに床を叩くキルト。

その姿を横目で見ながら、ソフィア、チャミュも次の車両へと移動する。


「彼女にとっても良かったかもしれないな。これで上には上がいることがわかっただろう」


「シオリ、待っていてくださいね……!」


3人が次の車両にたどり着いた時、室内が白い煙で充満していることに気付く。


「これは…」


「2人ともまずい!!息を止めてここを出るんだ!!これは…ね、むり……の……」


バタッ。


しまった。気が付くのが遅かった、これは眠りの……。室内に充満した睡眠を誘う煙に

気が付いたのも遅く、私達は眠りに入ってしまった。

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