45話_白熱爆熱!奪還ウェディング1
家の玄関で行われていたミュウとアナの喧嘩。そこに突如現れた新しい天使。
あの時の詳しい記憶がない。
気が付くと、僕は目隠しをされてどこかに連れて行かれていた。
振動からして、おそらくなにかで移動している。なにがあったんだっけ?
アナが投げた白い煙が玄関に立ち込めてきて……。
……。
………。
ということは、僕は捕まったということになるな。
なにか妙に納得し、僕はそのまま起き上がる。もうトラブルに巻き込まれるのは慣れっこだった。
「誰かいますかー?」
幸い、口は閉じられていないから喋ることは問題ない。なのだが、違和感がある。
誰だ、この声は。
僕ってこんな可愛い声してたっけ?やけに声が高いような。
「あ、起きたッスね。隊長、お嫁さん起きたッスよ」
聞きなれない女性の声。でも、この声とも違う。
「ご苦労、少し彼女と2人で話したい。外してくれるかな」
「了解ッス」
扉が開閉する音が聞こえる。
「お、ハニー目覚めたようだね。手荒な真似をしてすまない。もうすぐ着くから我慢してくれ」
今度はアナの声だ。
「そのハニーってやつ、やめてくれよ。女じゃないんだから」
「心配することはない。君はもう立派な女性だ」
「へ?そんなわけが……」
目隠しを外して鏡を見せられる。そこには首筋まで髪の伸びた可愛らしい女の子が映っていた。
「え?」
もう一度言う、鏡には女の子が映っていた。
「これでわかっただろう。ハニーはもう女性なんだよ」
「ええええ!!!?どういうこと!?どういうこと、これ!!」
自分の髪、顔、胸と触っていく。今までの自分の体では感じたことのない感触。ぷにぷにしてて柔らかい。
「これからハニーはその姿で暮らしてもらうよ。なに、2人きりの時は元に戻してあげるから心配はいらない」
「あ、アナ…これは……一体」
「これのおかげだ」
アナはそう言って、僕に龍のモチーフがついた青いボタンのような物を見せる。
「これは天使の持つ特殊な道具でね、これのおかげでハニーの性別を自由自在に変えられるんだ」
「そんなのがあるなら、自分に使えば良かったんじゃないのか?」
「これにはグレードがあってね、上級天使には効かないんだよ」
さりげに自分が上級天使であることをアピールするアナ。
「これって列車だよな?どこに向かってるんだ?」
後ろを振り返ると、窓の向こうに空が広がっている。どうやら、列車が空を飛んでいるらしい。
「もちろん、ハニーと式を挙げるための式場だよ」
アナは自信たっぷりにそう答えた。
◆◆◆◆◆
場所は代わってシオリの家―――。
アナにシオリを奪われた私たちは取り乱していた。
「ミュウ、落ち着いて。どうするかを考えないと」
「姉さま、落ち着いてなんていられないわ。シオリがさらわれたのよ。早く連れ戻さないと面倒なことになるわ」
「まぁ、ミュウくん落ち着いて。シオリくんが連れて行かれたところは大体予想できる」
「どこだっていうのよ!?」
「アナは仕事が早い子だから、式場のセッティングをもう済ませている頃だと思う。天界の式場に向っている最中だろう」
「ということは……第二層にまた行かないといけないのね……」
軽くため息をつくミュウ。ミュウにとっても楽しい思い出はなかったから
無理はないと思う。
「契約を結ばれる前にシオリくんを取り戻したいところだね」
「それまでに間に合いますか?式場に」
「となれば、“あの人”に頼むしかないだろうね」
「いるでしょうか……」
「とにかく聞いてみるよ。2人は出発する支度をしてエデモアのところに向かってくれ」
シオリ、無事でいて―――。
いつもシオリに助けられていた。今度は私が助ける番。
シオリの家を出発し、エデモアの骨董屋へと向かう。
エデモアは既に準備をしてくれていた。
第一層の扉の前まで案内される。
「来るかしらね、彼」
「来れると言ってましたから、信じて待ちましょう」
「まったく、あんなのに捕まるなんて…。シオリ、帰ったらお灸を据えてあげないと」
「シオリ捕まっちゃったんだってね~。大変だね~」
「今度は私がシオリのことを助けます、待っててください」
「ま、元はと言えば私の方にも責任の一端はあることだし。今回のことは目をつぶろう」
そこに、ババババ!!というけたたましい音とともに
「おーい、待ったかーい!!」
博士が窓から体を乗り出して大きく手を振っているのが見える。運転しているのはエル、アルだった。
「あら、あなた達までいたの?」
「はい、最近は博士の家にもおりまして。シオリ様が捕まったと聞いたものですから。私たちもお手伝い致します」
エル、アルが重なって喋る。2人とも元気そうで良かった。
「あなた達がいれば心強いわ」
「ソフィア様も、すっかり元気になられたようでなによりです」
私に向かって微笑むエルとアル。2人が協力してくれて本当に嬉しい。
「さぁ、皆乗って。シオリくんの後を追うよ」
博士に促されて私たちは車の中へ乗りこんだ。
「博士、この箱は?」
後ろにある箱が気になり博士に
「良いところに目を付けたね。エデモアが面白いものをつくっていてね、今回使わせてもらうことにしたんだよ」
「??」
子供のように無邪気な瞳で私を見つめる博士。
「飛ばしていくからね、皆シートベルトはちゃんとしてね」
「では、行きますよ」
エルはギアを初速に入れてアクセルを踏む。
ブォォォォン!!
激しい音とともに発進する
激しく振動しながら
◆◆◆◆◆
話は僕の乗る列車内へ―――。
部屋の中に囚われている僕は、アナの部下(リオと言うらしい)にウェディングドレスに着替えさせられていた。
特殊な効果がかかっているらしく、自分の意志で動くにはかなりの体力を使うらしい。着替えをする際に自分の体を見てみたが、やはり完全に女性になっていた。恐るべき、天使の道具。
気付けば、自分はアナの花嫁になるよう着々と外堀を埋められていた。なんとかここを脱出したいところだが、動いている列車から飛び降りるわけにもいかない。そんなことをしたら、地面に叩きつけられてぺちゃんこだ。チャンスはこの列車が目的地に着いた時、それに賭けるしかない。
同じ部屋には、監視役としてリオが同席していた。前髪で片目が隠れている上に表情が読みづらい。何を考えて監視をしているのだろうか。
「あの~、この列車はどこに向かっているんでしょうか?」
「ん?天界の式場ッスよ」
「式場というと、結婚式場…?」
「そうッス。隊長と結婚するんスよね。驚いたッスよ!まさかあの隊長が結婚するなんて」
「ぼ、僕も驚いてます……」
「ま、アタシは隊長に言われて監視してるだけなんで、おとなしくしてれば何もしないッスよ」
遠回しに、下手なことをしたら知らないぞ、と脅されているようだ。
「は、はい…。じゃあ、ちょっと質問してもいいですか?」
僕は出来るだけ情報を集めようと部下に質問をしてみることにする。
「なんスか?」
「アナさんってどんな天使なんですか?」
「隊長は、そりゃーもう優秀な方ッスよ。とにかく仕事が早い!段取りが完璧なんで、アタシがやってると遅いって言われるくらいッス。言っとくけど、アタシの仕事が遅いんじゃないッスからね、隊長が早すぎるんス」
「なるほど…(この手際の良さから見て、たしかに仕事は早そうだ)」
「あとはそうッスね、規律が第一なお方なんで、その点に関しては一番厳しいッス」
「規律ってそんなに守らないといけないものなんですか?」
そこは最初から聞いた時にも気になっていたところだ。
「うーん、教えによりけりなんじゃないッスかね。最近だと、わりとゆるいと思うッスよ。隊長のところはお家柄とか、そんなんじゃないッスかね。アタシはだいぶ適当ッス」
「ふ~む」
どうやら、天使全般というよりはアナの家の問題みたいだな。アナには申し訳ないけど、やっぱりあの時の記憶を消すのが一番早いような気がしてきた。ソフィアに頼んで記憶を消してもらったりとかできないだろうか。
「ま、隊長なんでもできるから、忙しいんスよ。だから、支えてやってほしいッス」
「アナが結婚することには反対じゃないの?」
「なんで反対する理由があるッスか?本人たちで決めたことに口を出すことはしないッスよ」
一方的に決められたことなんだが…。
にしても意外だ、天使と人間の結婚というものはわりと
種族間の問題には寛容で、
教えが極端なような気がするが。このまま式場まで行った日には一生逃れられないことになりそうな気がする。男に戻るのと結婚阻止を心に決めた僕は、相手を油断させるためにもおとなしくしていることにした。
◆◆◆◆◆
場所は変わって
激しく揺れながら、列車に追いつくため猛スピードで空を駆け抜ける。
「これなら列車に追いつけるんじゃないかな」
「結構飛ばしているようだけれど、この車大丈夫なの?揺れがひどいわ」
ドライバーは博士に代わり、エルとアルは後ろで私たちの世話をしてくれていた。
「そこまでスピードを出すようには考えていなかったからね。今のでわりと限界だろう、まぁなんとかなると思うよ」
「この前はゆっくり帰ってきたからな。慣れないのも無理はない。皆、追いついたら列車へと移動する、準備はいいな?」
「大丈夫です、いつでも行けます」
「私たちも、微力ながらお手伝い致します」
「エルとアルがいると心強いわ」
「さぁて、列車の後ろが見えてきたよ」
博士はアクセルを踏み、更に加速させる。
「シオリ、待ってて。もうすぐです―――」
私たちはアナとシオリの結婚式を阻止するため列車に飛び乗るのであった。
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