11話_三つ巴スクールカースト
なんでこんなことになったのか、どこで選択を間違えたのか──。
僕は窓際の席から遠くの景色を眺めながら、数時間前のことを思い出していた。
◆◆◆◆◆
話は数時間前のこと―――。
スカーレットが現れたことで、僕の生活はわや(大変)面倒なものになった。
なにかと僕にちょっかいをかけてくるようになったミュウとスカーレット。
2人の仲が最悪なもんだから、鉢合わせると場所関係なくバトルへと発展する。
ソフィアを連れ戻すと行った話はどこへやら、というのはこっちとしては忘れていてもらって問題ないので放っておくが、こう毎日毎日バトルの日々にもいい加減うんざりしてきたところだった。
「シオリ、お茶どうぞ」
「あ、ありがとう」
ソフィアにいれてもらったお茶を飲みながら、軽くため息をつく。
「ミュウとスカーレットのせいですよね、ごめんなさい」
「あ、まぁ、そうなんだけど……ソフィアのせいじゃないからさ」
笑ってみせるが、蓄積している疲れのせいか、微妙な顔になっているのは自分でもわかる。
「それにしても、スカーレットとミュウ、仲良くないね」
「はい……天界でもソリは合わなかったので。スカーレットはれっきとしたサキュバスなんです。天界にいた時は、サキュバス側につくよう誘われていたのですが、私はそうはなりたくなくて。そこでミュウが間に入ってくれた結果、あんな感じに……」
「まぁ、そうなるよなぁ」
ソフィアの話をしながら、天を仰ぐ。
「苦労してるようだね、シオリくん」
「あれ、チャミュ来てたのか」
ピザの配達員の格好をしたチャミュがリビングに上がってきていた。
この天使、いつも何か仕事してるな。
「彼女たちの行動は、私の予想としては結構イレギュラーなものでね」
「そうだろうね、こっちに来るいきさつも、ソフィアから教えてもらったよ」
「そうか、それなら話が早い。本当なら私からきちんと話をするべきだったが。ソフィア、すまないね」
「いいえ、私からシオリに聞いてほしいこともあったし、良かったと思っているわ」
「そう言ってくれるとありがたい」
チャミュはソフィアに礼を言った後、僕の方に向き直った。
「ある日、私とソフィアは天界での暮らしに疑問を感じたんだ。「本当にこの選択肢しかないのか?」と。シオリくん、君だったら、よく知りもしない人大勢に四六時中付け回されたらどんな気分になる?」
「それは落ち着かないね……」
「そうなるだろう?ソフィアは望まない能力のせいでずっとそんな生活をしていた。隣で見ていた私だってそうだ。ソフィアと一緒にいたいだけだというのに解決しなければいけない問題が多すぎた」
「天界ではそれが解決できないと」
「そういうことだ。ソフィアの姉妹たちには、そのことは説明せずにソフィアをこちらに連れてきた。理解してもらうための時間もなかったからだが。それで私が恨まれても仕方ないと思っている」
「だが、ここに来て最近の流れに変化が起きていると私は思う。それがシオリくん、君だ」
「僕?」
「そう、スカーレットもミュウも君のことに興味を抱いている。理由はどうあれ、それが問題解決のひとつになるんじゃないかと私は思っている」
「2人の仲を僕が取り持つってことか?」
チャミュが意味するところはそこなんだろう。
「そうだ。2人はソフィアを天界に連れ戻したい筆頭だからな」
「そうは言ったってなぁ。出来るのか、僕に……」
「彼女たちも、どちらかというとソフィアと似ている。サキュバスの力ゆえに、相手との距離の取り方を知らないんだ。だから、君からそれを教えてあげてほしい」
「そうは言ったって…」
ソフィアの方をちらりと見る。
「私からもお願いします」
そんな目で見ないでくれ、断れるわけがない。
「一応、努力はしてみるよ」
「君ならそう言ってくれると思っていたよ」
握手を求めてくるチャミュ、渋々それを返す。
「期待しているよ」
◆◆◆◆◆
回想終了。
スカーレットとミュウの仲を取り持つ、それを考えていたんだった。
そして、今僕が置かれている状況はというと……。
ちらと隣の席を見る僕。ニッと笑うスカーレットの姿。
それは学校の朝の出来事。
唐突に転校生を紹介される流れが始まり、このタイミングで転校生?
珍しいなと思っていたのだが……。
「初めまして、天界高校から転校してきましたスカーレットって言います。よろしく~」
沸き上がる男子の歓声。それを冷ややかな目で見る女子たち。
おいおい、マジかよ。
スカーレットは、白いシャツにネックレス、ミニスカと
今時のギャルでもなかなかやらなさそうな格好を着こなしていた。
ルーズソックスって見たことないぞ………。
教師はもう既にサキュバスの能力でどうにかなっているらしい。
矛盾だらけのこの状況が、全くもってスルーされている。
言ってしまえば、この教室内もスカーレットの力で支配されてきていると言っていい。
僕が話せる数少ない貴重な男友達の伊達も、スカーレットの魅了にやられたらしく、ずーっとスカーレットの方を見てはにへらにへらしていた。
しかし、
結局、
1日にしてスカーレットは男子を色気で
見事なスクールカーストが出来上がり、僕はその中のどこにも属さない特異点と化した。
そのせいで、スカーレットに呼ばれただけで暴動が起き、血の雨が降り注いだ。
この世はまさに、地上にいながらにして地獄の様相を呈していた。
永遠に続くかと思われた魔女裁判のような学校もようやく終わり帰ろうとした時、
急に何人かの男子生徒に捕まり、僕は体育倉庫まで拉致されたのだった。
「ありがとねっ」
男子生徒に投げキッスをするスカーレット。
それを受けて次々と気を失う純情ボーイズ。
悪魔だ、悪魔がいる。
早くここから逃れようともがくが、手足をガムテープでガチガチに縛られ、身動きが取れない。
「やっと2人きりになれた」
スカーレットは僕の上に乗っかるとスカートの中をチラリと見せた。
エメラルド色の腰の紐パンがかすかに見える。
「学校って結構面倒なんだね」
「お前が面倒にしたんだ…」
「え?そうなの?だって皆うるさいんだから黙らせるしかないでしょ?」
自覚ナシだった。さも当然のように言っていることが恐ろしい。
「アタシはただ君のことを知りたいなって思っただけ。それがいけない?」
「だったらもっと他のやり方があるだろう」
「どんなやり方があるの?」
スカーレットは体をより密着させてくる。
体全体を滑らせるような動きをするスカーレット。
肉体の誘惑が最近多すぎて麻痺してきているが、
スカーレットのはちきれんボディの威力はなかなかの破壊力がある。
「そ、それは普通に会話するとか」
「もうしてるじゃん」
「だから、これは普通じゃないんだって」
「そうなの?」
「そう、どこに相手を縛ってから仲良くなろうって奴がいるんだ」
今、僕の目の前に1人いるわけだが……。
「だって、シオリが私の方を見てくれないから」
「あの状況で関われば僕が集中放火を浴びるのはわかるだろう!!」
「んー、わかんないっ」
ケロッとした表情で答えるスカーレット。
ここに来て、ようやく互いの価値観の大きなズレに気がついた。
スカーレットは本当にこれを当たり前と考えている──。
「……なぁ、スカーレットって天界はずっとこんな感じで暮らしてたのか?」
「うん、そうだよ。ソフィアから聞いた?私たちサキュバスはこうやって生きてるの。アタシは邪魔されるのがイヤ、自分の力で全部変えてやったの」
「そうか……」
これはスカーレットなりの自衛の手段だったわけだ。
「スカーレット、わかった。でもここではそのやり方じゃダメだ。本当にはお互いを理解できない」
「へぇ、どういうこと?」
「サキュバスの力じゃ、お互い対等にはなれないってことさ」
「アタシ別になりたくないよ?」
「僕がなりたいのさ」
スカーレットの方を真っ直ぐ見つめる。
「ふっ!あはは、おかしい」
僕の上に乗ったまま、笑い転げるスカーレット
「そんなのよりアタシの能力にかかった方がずっと早いじゃん。シオリはアタシのことを好きになる、アタシはシオリが気になる。でしょ?」
「そうしないと、落ち着かないんだろ?自分が優位に立てないと安心できなくなってるんだ」
スカーレットはずっとそうやって生きてきたんだ、ちょっとやそっとで変えられるものじゃない。核心をつかれ、ちょっと怒った表情になるスカーレット。
「気に入らない、今の言葉。もういい、君のこと知ったら少しは変わるかもと思ったけど、勘違いだったみたい。バイバイ」
そう言って、僕の目を見つめる。
魅了の力。スカーレットの目が赤紫に光る。
でも……。僕の中でひとつの確信があった。
「それは、効かないよ」
「………なんで!?」
予想外の言葉に驚きを隠せないスカーレット。
「……どうして……これが効かない相手なんて…今まで…」
「スカーレット……まだ間に合う、一から始めよう」
「イヤ!そんなのイヤ!!」
スカーレットは体を起こすとシャツを脱ぎ、ブラジャーを軽く外し両手で押さえる。
そのまま体を倒してくる。
「ねえ、どうしてアタシのこと好きにならないの?魅力ないの?どうして?」
「言っただろ、相手のことを理解しないと好きって気持ちは生まれないって」
「……」
「………わかった」
「スカーレット…」
「……………絶対好きにさせる」
「…えっ?」
「君を絶対好きにさせる。アタシがいないと困るって、言わせてみせる」
スカーレットはいつの間にか目にためていた涙を拭うと、ニッと笑った。
「今日のところはこれで終わりにしてあげる。でも、次からはこうはいかないから」
スカーレットはそう言うと服を整え、体育倉庫を出て行った。
うーん……。
………。
またなんか面倒なことになったぞ。
僕は選択肢を間違えたのか?
どうしたものかと思いながら、僕はまずこの場をどうしようか考えていた。
「スカーレット?あの、スカーレットさん、ドア開けてください!!スカーレットさーん!!」
僕の間抜けな声は体育館にむなしく響くだけだった。
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