第85話


 一週間経ち約束の日になり、もみじ達は神社に戻っていった。みどりに連れられて向こうの世界に消えていくもみじ達を見送った静人達は、飲み物を用意してリビングに二人で座りゆっくりとした時間を過ごす。




「みんなあっちに行っちゃったわね……」


「この一週間ずっと家にもみじちゃん達がいたから、寂しい気がするね」


「そうね……、あ、今日からはしず君と一緒に寝るからね!」


「え、あー、そうだね。一緒に寝ようか。もみじちゃん達は今頃あっちで眠っているころかな?」




 寂しそうに笑うかなでを見た静人はゆっくりと頷き、優しい笑みを浮かべて先ほどまでいたもみじ達のことを思い浮かべる。




「ううん。どうかしら? もしかしたら今頃、持って帰ったボードゲームとかで遊んでいるかもしれないわよ?」


「あはは、興味津々だったからね。みどりさんがついていったからルールも完璧だろうし」




 静人達はいろいろなボードゲームが出来る遊び道具を渡したことを思い出す。かなでは中身を指折り数えつつ名称を呟く。




「将棋、チェス、リバーシ、囲碁。他にもいろいろと出来るものを買ったからね」


「さすがに麻雀は難しいかなと思って渡さなかったけどね」


「麻雀はねー、役をそろえたりするのはまだ簡単だけど点数計算がねー」


「分かる人がいるとまだ覚えやすいんだけどね。それこそインターネットでやる麻雀だと機械がある程度サポートしてくれるから楽なんだけどね」




 麻雀の話をしつつ、インターネットに関しては諦めているからか、首を横に振り飲み物を口に含む。




「さすがにネット環境は無理だからねー。しょうがない。あ、そういえばネットで調べ物できないけど青藍ちゃんとか大丈夫かしら。結構いつもパソコンで調べ物をしていたイメージがあるんだけど」




 そういえばと、一週間いつものようにパソコンを使っていた青藍のことを思い出す。一緒にいた静人も思い出したのか苦笑いで頷き返す。




「あー、魚の動画とかをずっと眺めてたりしてたね……。まぁ、そこはもう諦めてもらうしか」


「そう、よね……。さすがに電波を届くようにとかは私たちには無理だものね」


「電波塔を建てるわけにもいかないし、立てたところで電波を拾うのかと言われたら無理だと思うしね」


「ま、そこらへんは我慢してもらって、どうしても使いたくなった時は私たちの家に来たときにってすればいいわよね」




 青藍が自分の家に来るかもしれないと、嬉しそうな笑顔を見せるかなでに、静人は少し呆れた視線で見つめる。




「……あわよくば家に居座らないかなと思ってたりしないよね?」


「何を言ってるのよ。もちろん思ってるわよ!」


「あー、そこで力強く頷かれるのは予想外だったかなぁ」




 力強く頷くかなでを見た静人は呆れた視線を止めて、乾いた笑みを浮かべる。




「まぁ、できればあっちでも使えるようになった方が私たちも楽なんだけどねー。調べものするのに世界をまたがないといけないのは正直めんどくさいし」


「まぁ、それはそうだろうね」




 静人もインターネットを使いたいと日頃から思っていたからか否定することもなく頷く。しばらくそんな会話をしていた静人達だったが、かなでが今更だけどと前置きを作ってから話し出す。




「そういえば何だけど私たちがいつもあっちの世界って言ってる場所って、何か名称があったりするのかしら」


「どうだろう? でも、あるんだったらさすがに桔梗ちゃんとかみどりさんが教えてくれそうだけど」


「たしかにそれもそうね。それじゃあ、村を作るんだしいい加減名前を付けたいわよね。村の名前何がいいかしら?」




 みどりたちから何も言われてないことを思い出したかなでは、名前は付けられていないと考えて自分たちで考えようと提案する。




「そうだね。世界の名前というか村の名前を決めるって考えたらまだ気が楽かな」


「えー? どうせなら世界の名前も村の名前も決めましょうよ。こんな機会なかなかないわよ?」


「まぁ確かに、世界の名前どころか村の名前を決めることすらなかなか体験できないだろうね」




 止めることは出来ないと悟った静人はかなでの提案を了承して考え出す。




「二人きりのうちに決めましょうか。とりあえず村の名前からね!」


「村の名前か……。もみじちゃん達の住む場所だしそれが分かるような名前がいいのかな?」


「もみじちゃん達と言えば巫女よね。巫女村?」


「なんというかそのまんまだね」




 あまりにもそのまんまな名前に静人は困ったように笑う。それを見たかなでは口を膨らませて腕を組み顔を逸らす。




「だってそれ以外で思いつかないんだもの。あとは動物になれるわよね」


「なるほどつまり動物巫女の村? いや、なんかそれは」


「さすがにそこまで直球なのはねぇ。狐巫女の村とか?」


「それだともみじちゃんだけになるよ? 元々は桔梗ちゃんのものだったらしいし、犬巫女の村かな」


「うーん、巫女まではいいけど動物のことは忘れましょうか」




 しっくりこないからか首を軽く振りいったん動物のことを忘れて名前を考え直す。少しして、静人は巫女と何度か呟いていた口を一旦閉じて、少しずつ思い出すように口を開く。




「巫女って確か『かんなぎ』って儀式をする人たちだったと思うんだけど。このかんなぎって名前を使って『かんなぎ村』とかじゃダメかな?」


「かんなぎかー。うーん、うん! 分かりやすくていいかもね!」


「まぁ、必ずそうなるとは限らないけどね。もしかしたらもともと決まってる名前があるかもしれないし。世界の名前はどうする?」




 静人の考えた名前を聞いてなんとなくしっくり来たかなでは納得したように頷く。




「ま、その時はその時よね。後で考えてみたらかわいい名前を思いつくかもしれないし。それにしても世界の名前かー。いい感じの名前は思いつかないわねー」


「そうだね。ぴったりの名前があると良いんだけどね」


「それこそ世界樹とかみたいにシンボルがあれば分かりやすくていいんだけどね」


「確かに。世界樹があればなんだろう、ユグドラシルとかになるのかな?」


「おー、なんかそれっぽいわね! まぁ、見たことないけど」


「そうだね」




 世界樹の名前を出したものの見たことないかなでは落胆したように肩を落とす。そんなかなでの後ろからみどりがひょこっと顔を出して口を挟む。


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