第52話
かなでと静人はケーキ屋さんに行って大量に買った証に一人で抱えきれないほどに袋を抱え帰ってきた。
「ケーキ屋さんってあんなにたくさん種類があるのね。ちょっと悩んじゃったわ。結局いろいろ買っちゃったけど」
「みんなで食べる分にしても買いすぎなんじゃないかい?」
「大丈夫よ! 珍しいからどんどん食べてしまうと思うし、もし食べきれなくても私が食べるから!」
かなでの自信満々な態度に静人は心配そうな顔で見つめる。
「そうなるとかなでの体調が心配になるんだけど……。暴飲暴食はやめようね?」
「だ、大丈夫よ……。そんないきなりふと、太ったりなんてしないと思うし」
「太ってからでは遅いんだよ?」
「うぐぅ! 分かった。食べたらその分だけ動くから大丈夫! だから、ね?」
かなでの必死な様子にため息をついた静人はさらに心配そうな顔になる。
「いや、僕としては太るより病気のほうが心配なんだけど」
「ちょっと多く食べたからってすぐに病気になるわけじゃないわよ。次の日からはそんなに食べることもなくなるだろうし」
かなでの反論に静人は少し考えこんでから口を開く。
「……もし、もみじちゃんが作ってきたクッキーが目の前にあるとして食べるのを我慢できるかい?」
「何言ってるのよ。すぐに食べるに決まってるじゃない」
「それが一週間続いても?」
「食べるわね。で、でも一週間ももみじちゃんがクッキーとか焼ける環境にいると思えないのだけど」
即答した後に先ほどまでのやり取りを思い出したのか慌てた様子で言い繕ったが、静人は首を横に振る。
「明日から一週間うちにいるのに?」
「あ、だ、大丈夫よ! それにクッキーだけとかなら一日一回食べるぐらい何とも……」
「この機会に僕はたくさんデザートの作り方を教えようと思ってるんだ。料理もね」
「そ、そんな!」
「ちゃんと我慢できるかい?」
「いや、でも、そうよ! 食べるときは私含めて七人いるでしょ? ケーキのワンホールを作ったとしてもそこまでの量にならないんじゃ?」
その言葉に静人は安心した様子で頷く。そのあとにいつものように笑いだす。
「あはは、そこに気付けたならいいや。いや、かなでは意地でも一人で食べそうだったからね。ちゃんと分けるんだよ?」
「さすがに一人で食べたりしないわよ。みんなもいるんだし。その時は私も一緒に作るんだし。そういえばその時の料理って凝ったものを作る予定なの?」
「そうだね。いつもならちょっと躊躇うものというか。前に餃子を食べたときみたいに下準備が必要な物を作ろうかなって思ってる。あんまりそういうのは手伝ってもらってなかったからね」
「なるほどね。確かにそういうのは作ってなかったものね。それじゃあ下準備もあるし一日のうちほとんど料理になりそうね」
「さすがに毎日凝ったものを作るつもりはないけどね? 一応テレビもあるしそういうのを見てもらったり、ボードゲームとかしたり、いろいろできることはあるんだから」
「そういえばテレビとかあったわね。あまり見ないから忘れてたわ。あ、パソコンとかもみじちゃん達に見せたらどういう反応するかしら!」
静人は腕を組み悩んだ後に首を傾げて呟く。わざわざ顔は青藍のように無表情であった。
「……箱?」
「ふふふ、青藍ちゃんはそういう反応しそうね。もみじちゃんなら『なにこれ?』かしらね。桔梗ちゃんは『これはいったい何なのだ?』かしら。あ、テレビゲームとか買っておこうかしら」
「うーん、どちらかというとあっちでも出来ることのほうがいいと思うよ? こっちだけでしか出来ないことはやめといたほうがいいんじゃないかな」
「それもそうね。あっちで出来ないことを教えるのはね。あっちでできないことに気付いてしょんぼりさせたくないし」
「電気があればなんとかなりそうだけどね。まぁ、しばらくはあっちで村を作ることに専念しないとね。他のことを考える余裕はないだろうし」
「そうね。でも、村づくりは別に期限がある仕事という訳ではないんだし、遊びと並行してもいいと思うわ。それに青藍ちゃんが本気出したら家とかはすぐに作り終えちゃうし」
「さすがに青藍ちゃん一人だけに村づくりはさせないからね? まぁ、役割分担は出来てるからいいけど」
「役割って?」
かなでの質問に指を一つずつ折って伝える。
「もみじちゃんが料理、青藍ちゃんがものづくり、桔梗ちゃんはまとめ役かな? あ、人材を探しに行く役かな。みどりさんは商品の仕入れだし、茜さんは力持ちってことで運搬とか農業とかをするし」
「そう考えると沢山役割があるのね」
「そうだね。その中でも村づくりで青藍ちゃんと茜さんはしばらく忙しい……、あれ、そういえば何だけどもみじちゃんが前に言ってたおじいさん覚えてる?」
「おじいさん? あ、死神の?」
「いや、別に死神って決まったわけではないんだけどね? その人と会ったのって森の中で迷子になったからって話だったけど、その人も村に来るのかな?」
「あ、確かに。その人もあっちに住んでるみたいだし、もみじちゃんを助けてくれた優しいおじいさんみたいだし会えたら勧誘した方がいいわよね。それに森を切り倒して村を広げるんでしょう? やっぱり最初から住んでるのなら尊重しないとね」
「そうだね。このことはみどりさんにも伝えないとね。探せるのかは分からないけど」
「確かに探すのは難しそうよね。もみじちゃんがお礼言おうと探したときは見つからなかったみたいだし」
「そんな簡単には見つからないだろうね。あちらから来てくれればいいけど。さすがにそれは無理かな? まぁ、森の木は切ってもすぐに戻るらしいけど戻せるなら村づくりしても大丈夫かな」
「ホント不思議な世界よね。あら、もうそろそろいい時間じゃない! 早く行きましょう」
「ホントだね。それじゃあ手土産も持ったしそばとついでにうどんも持ったし行こうか」
「エビは大丈夫?」
「ちゃんとてんぷら粉も油も用意してるから大丈夫」
「それなら安心ね! よしそれじゃあ行きましょうか!」
静人の言葉に安心したのか笑顔で先陣を切るように突っ走るかなでの後ろで、大量の荷物を持った静人が向かうのはいつもの場所だった。
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