第40話
「朝だよー!」
「ふぐぅ!?」
眠っていたかなではお腹に飛び乗ってきたもみじに文字通りたたき起こされた。いきなりの衝撃を堪えることが出来なかったのか思いっきり息を吐くかなでだったがもみじは楽しそうに抱き着いたままだ。かなでは目を覚まして自らのお腹にしがみつくもみじに気が付いて少し涙目になりつつも嬉しそうに抱きしめ返す。
「もうー、急に飛びついたりしたら危ないわよ? 今度からはしないようにね?」
「はーい。えへへ」
「まったく反省してないなー? このこのー」
「うわわ、くすぐったいよー!」
嬉しそうに抱き着くだけのもみじにかなでは笑いながら体をくすぐる。もみじはくすぐったいのか体をくねらせて逃げようとするが、的確に狙いを定めてくすぐってくるかなでの手からは逃れられないようだった。
「ふっふっふー、今度からは飛び込んできたりしないようにね?」
「はぁはぁ、はーい」
「何してるのさ。もみじちゃん」
二人が遊んでいると青藍が顔を見せる。その顔はかなでを見た後もみじを見て呆れたような表情で見つめる。
「あ、青藍ちゃんおはよう。寝てるときにお腹に飛び込んできたからお仕置きしてたのよ」
「お腹に飛び込むのはダメ。あぶない。お仕置きってなにしたの?」
「くすぐり地獄よ」
「もはや拷問じゃないの? それ。というか逃げればよかったのに」
「お姉さんの手が私の逃げようとする方向にあるんだもん。逃げれなかったよ!?」
「……狐になればよかったんじゃないの?」
「あ、その手があった! 次からは……、あ、もうしないよ? ホントだよ?」
「狐になったぐらいで私のくすぐりから逃れられると思わないようにね?」
「う、うん。大丈夫。しないよ?」
かなでの気迫に押されたのか少し冷や汗を流すもみじはたどたどしく約束する。
「まぁ、別にもみじちゃんをくすぐるのはいいんだけど。朝ご飯は無いからおねえさんはおうちに帰らないと」
「あ、そういえば朝ご飯の用意してなかったわ。どうせならそれも持ってくればよかったわね」
かなでがしまったち言う顔をしながら帰り支度をしようと起き上がったタイミングでみどりがひょっこりと顔をのぞかせる。
「おん? なんや、なかなかこっちに来ないと思っとったら、こっちで遊んどったんやね」
「あ、みどりちゃん。おはよう!」
「おはよう、かなでさん。朝食作ったけどかなでさんも食べるやろ?」
「え、みどりちゃんが作ったの? 食べる食べるー」
「そうやろと思ってちゃんと作ってあるから安心せえ。もみじと青藍の分もあるからな」
「わーい。ありがとう! みどりお姉さん!」
「ありがとう。お腹空いたから早く食べよう。なにつくったの?」
「とりあえず日本の朝食と言えばというとこで、焼き魚とお味噌汁とご飯。そしてお漬物……。あれ、青藍どこいったん?」
「青藍ちゃんなら焼き魚って聞こえたときにはもういなくなってたよ?」
「ホントに魚好きなんやなぁ。まぁ、ええわ。ほな、さっさといこか。早く行かんと青藍のよだれで食卓がいっぱいになってまうわ」
「ふふ、そうね。早く行かないとね。しず君ちゃんと食べてるかしら」
「静人さんなら大丈夫やろ。今頃朝食も食べ終わって仕事でもしとるんやない?」
「あー、してそうね。今頃修正でもしてるんじゃないかしら。次の作品はもう書きあがってたし編集さんと殴り合いをしてる頃かしらね」
「ほーん。え? 殴り合い?」
「あ、物理的な物じゃないわよ? 議論を交わしてる的な意味よ」
「そ、そか。びっくりしたやん。静人さんが殴り合いをするイメージ湧かんけどな」
「まぁね、別に体を鍛えたりしてるわけでもないし。戦ったら私が勝ちそうね」
「あはー、確かにな。うちでも勝てそうやわ。あ、青藍が微動だにしとらん」
「ふふふ、少し遅かったかしら」
話しをしながら向かった食事の場には椅子に座り微動だにしない青藍の姿と、その横で青藍の頬をつついているもみじの姿だった。目の前にはまだ湯気が見えており温かいのが分かるお味噌汁と香ばしい匂いが食欲をそそる焼き魚がおいてある。青藍はかなで達の声が聞こえたのかゆっくりと目を開けて手を合わせた格好で固まる。その姿からは早く食べたいという声が聞こえてくるようだ。その姿にみどりとかなでは目を合わせた後クスリと笑って同じように手を合わせる。
「「「「いただきます」」」」
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