第21話
「今日は部屋の掃除をするぞー!」
「急に元気になってどうしたのだ?」
「もうそろそろ調理場所を作りたいと思って」
「確かにキャンプ道具で作り続けるのも変な感じなのだ。せっかく家があるのなら家の中で料理したいのだ」
「でも家の中にはかまどしかない」
青藍は桔梗の言葉に首を振り残念そうな顔で告げる。それを聞いて意外そうな顔をした桔梗だったがすぐに納得した顔になる。
「かまどだけなのだ? お米は炊けるけど、フライパンとか使えないのだ」
「ふらいぱん。鉄板とかはあるけど作れるのかな?」
「うーん。作ったことないからわからないのだ」
「おにいさんたちに手伝ってもらう」
「それがいいのだ。とりあえず掃除はするのだ。……かまどのところを掃除するのだ?」
「うん! 先にそこを掃除しないとね」
「掃除、それじゃあまずはお風呂の準備。私がするから、桔梗たちは掃除よろしく」
「分かったのだ! もみじもそれでいいのだ?」
「はい! 頑張りましょう!」
もみじが元気に返事をすると、桔梗が嬉しそうに手を引いてかまどの所に向かう。青藍はそんな二人を見送った後水を汲みに用水路に向かう。
「うわ、ほこりが酷いのだ。いったいいつから使ってないのだ?」
「うーんと、覚えてないくらい前だよ!」
「まぁ、使ってないからしょうがないのだ。よし、掃除を頑張るのだ」
かまどのある場所を見て顔をしかめる桔梗は、もみじの言葉に諦めた顔で頷いた後、拳を握り締めてやる気を見せる。しばらく掃除を続けていると青藍がやってきた。
「お風呂の準備終わった」
「あ、おかえり! 青藍ちゃん。こっちはまだまだだよ」
「うむ、気になった場所を掃除してたら時間が全く足らんのだ」
「最初よりは綺麗になった。手が付けられないほどじゃないから頑張る」
「そうだよね! 少しずつでも綺麗になってるのが分かると楽しくなってきたの!」
「うむ、気持ちはわかるのだ。綺麗になっていくのは気持ちいいのだ」
「うん、わかる」
三人で頷き合いながら掃除を続けていると、少しずつだが部屋が綺麗になっていく。ある程度では満足できないのか、汚れているところを徹底的に綺麗にしていく。
「よし、綺麗になったね! お風呂入る? それともほかの所の掃除する?」
「お風呂!」
「わしはどちらでもいいが……、うむ、お風呂でよいのだ」
青藍が即座に反応して手をあげながら主張すると、桔梗は青藍を流し見しながら口をはさむ。もみじはそんな二人に微笑み、先頭を切って風呂場まで走っていく。
「じゃあ、先に行ってるね!」
「あ、ずるい。私が一番風呂」
「結局三人一緒に入るのだから急がなくてもよいのだ」
もみじが走り去った後を不満顔で追いかける青藍を見ながら、桔梗は呆れ顔でついていく。桔梗が付いた先ではもう二人とも湯船に浸かっていた。
「遅い、桔梗」
「あ、まだあと一人は入るよ! 桔梗お姉ちゃん!」
「うむ。ちょっと空けるのだ」
青藍がジト目で桔梗を見つめる隣で、もみじが嬉しそうに桔梗を呼ぶ。青藍ともみじは分かれその間に桔梗が浸かる。浴槽に浸かり体がポカポカしていくのが気持ちいいのか三人は顔を緩ませる。
「気持ちいいねー」
「うむ、気持ちいいのだ」
「気持ちいい」
「明日はどこを掃除するのだ?」
「明日は残りの部屋。最優先は書斎?」
「書斎なんてあったの?」
「なんでもみじよりも青藍のほうが知ってるのだ……」
「あはは、あまり本は読まないから……」
「もみじちゃんは興味あるのしか読まないから。今は料理。けど書斎にはそういうのは無い」
「なるほどの。まぁ、とりあえず明日は書斎の片づけなのだ。そのあとは他の部屋なのだ?」
「うん! 一つの部屋は終わらせたけど他の所も終わらせたいし。お外の掃除もした方がいいかなって思うけど、この前掃除したから今は家の中をしようと思って」
もみじは桔梗の提案に頷き自分なりの考えを伝える。それで青藍が思い出したのか呟く。
「この前の焼き芋? おいしかった」
「なんで、焼き芋なのだ?」
「外の掃除をしたときに集めた落ち葉で焼いたからかな?」
青藍に唐突に焼き芋の話をされて、頭の上に『?』マークが見えるくらいには困惑していた。そのあとのもみじの言葉に不満顔で桔梗が頬を膨らませる。
「むむ、そんな楽しそうなことをしておったのだ? ずるいのだ。わしもするのだ!」
「確かにもう一回したい」
「青藍ちゃんは食べたいだけでしょ?」
「うん。美味しいのは何回食べてもいい」
「むむむ、わしも食べるのだ……」
桔梗は自分だけ仲間外れをされてる気分なのか、頬を膨らませたまま不満げに二人を見つめる。二人はそんな桔梗の顔を見た後、顔を見合わせ笑うと頷く。
「うん! お兄さんたちが来た時に頼もう! 今度は桔梗お姉ちゃんも一緒にって」
「そうだね。美味しいものは平等に食べないと」
「おお、青藍のはちょっと違う気がするが……、二人ともありがとうなのだ!」
桔梗は二人にお礼を言いながらも、自分の今までの行動が恥ずかしくなってきたのか、いつもよりも少し大げさな表現だった。二人はなんとなくその理由が分かったからか、特にからかいもせずにお礼を受け入れる。話は変わり、今から来る静人達のことになる。
「今日はお兄さんたちどんな料理を作ってくれるかな?」
「とりあえず美味しいもの」
「食べたことのないものかのう? 美味しければ嬉しいのだ」
「お兄さんたちだし美味しいのは間違いないよ! 今までもいっぱい作ってもらった全部美味しかったもん!」
「そういえば静人達とはいつ出会ったのだ?」
「えっと、二ヶ月ぐらい前?」
「用水路作ったのがそのぐらい前だから、大体合ってるはず」
「二ヶ月か、まだそのぐらいしかたっておらんのだな……」
桔梗はもみじから月日を聞いて苦笑する。それは自分ともみじ達の今までの年月よりも短く、それでいて自分ともみじ達との距離感よりも近い二人と比較して、自分はいったい何をしていたのだろうと思ってしまったからか。
そんな桔梗の顔を見て青藍が無表情で淡々と話しかける。
「桔梗、何を考えているのか分からないけど、おにいさんたちが今よりも昔、それこそ桔梗と出会うくらいに今のように接してきても、私は追い返していたと思うよ、もみじはともかく私はそこまで人を信じていないから」
「な、なんなのだ? いきなり?」
「でも、ここには悪い人は入って来れないと、もみじを助けた桔梗が言ったから、私は受け入れることができた。だから、桔梗が私たちに長い時間をかけてやってくれたことは無駄なんかじゃない」
「は、はは、急にどうしたのだ? まったく、わしを褒めても何も出んぞ?」
「ううん。ただ、それが言いたかっただけだから」
「まったく……。…………ありがとうなのだ」
青藍と桔梗が話す内容に口をはさむことができなかったもみじは、オロオロしながら見ていたが、悪いことではないと最後小さく呟いた桔梗を見て感じたのか、最後まで黙ってみることにした。青藍はなんとなく自分らしくないと思ったのかお風呂から上がると、顔を見せずにそのまま風呂場から出ていった。耳を赤くして。もみじはそんな青藍を止めることなく見送ると、少し時間をおいてから自分も上がる。一緒に桔梗も上がる。
「暇だね……」
「そういえばお兄さんが来ると鳴る風鈴は出来たの?」
「何それ?」
「うむ、出来たのだ。この前作ったのだ、もみじ以外にも来たのが分かるものがいないと大変だと思っての」
「え? 青藍ちゃん達は分からないの!?」
「うん、なんとなくで理解してた」
「わしは分からなかったから作ったのだ」
もみじは自分だけしか分かっていなかった事実に驚いていた。そんなとき綺麗な風鈴の音が鳴り響いた。
「お、これが来た時の音なのだ……って、もういないのだ」
桔梗が風鈴を見上げて、自慢するように話しかけたときには二人ともいなくなっていた。聞いてほしかった桔梗は不貞腐れた顔でもみじ達が向かった鳥居を見つめる。しばらく経っても帰ってこなかったもみじ達に不貞腐れていた顔から、寂しそうな顔になり結局自分から鳥居のほうに向かう桔梗だった。
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