第32話 出陣

時は流れ、遂にフロン帝国学園との決闘祭の当日。


普段と同じ時刻に登校した生徒たちは、とある場所に集められていた。


この学園で全校生徒が入るスペースがあるにも関わらず、普段使用禁止とされ、厳重に施錠されていた建物だ。


その内部に、全校生徒は集められていた。

周りには教授たちも居る。


生徒たちは密着しなければ入り切らないような空間。

そのため、女子と男子で2つに別れながら入っていた。


足元には巨大な魔法陣が白い文字で描かれている。


歪な空間に生徒たちの表情は曇っている。


「皆、集まったようじゃの。」


生徒たちの前へ学園長であるニックが歩み出る。


「これより決闘祭会場、「龍虎の間」に行く。」


ニックの声と共に魔法陣が青く光出し、

光が全員を包み込んで視界が真っ白に染まった。


大規模な空間転移魔術。


徐々に視界が鮮明になって行く。


そこで見たものは——。


「「「「「わぁ…。」」」」」


初めて来たであろう一期生の生徒が感嘆の声を上げる。


晴天の下、原っぱに転移した生徒たちを待っていたかの如く威風堂々とそびえ立つ、巨大なドーム場。

そしてそれを守護するように周囲に設置されている巨大な石像たち。

古びた石や傷でさえ、偉大な伝統と長い歴史を誇っているかのように輝いて見える。


これこそファマイル王国学園とフロン帝国学園が共同で管理し、時に改修をしながら維持してきた、年に一度決闘祭でのみ使用される「龍虎の間」。

各学園の信念と自尊心を賭けた決闘の場である。


「代表の3名以外は、速やかに観客席へ移動しなさい。各クラス、事前に配布した通りの場所で規定されている席へと座ってください。」


ロイドの声に促され、続々と建物の中へと入っていく生徒たち。

ライト等3人がその場にポツンと残された。


「ライトくん、エレンさん、シオンさん。」


ロイドに名前を呼ばれる3人。


「頼みます。」


「「「はい!」」」


たった一言。しかれど、その一言にどれほどの期待と思いが込められているか、3人には容易に伝わった。


今年負ければ3年連続で負けた事となる。

しかも、たった1人の人間によって。


毎年、大々的に勝敗は両国に報道されていた。中でもここ2年、アラン=レオンハートの活躍は大きな記事となっている。


実を言うと両学園の決闘戦が行われることとなってから今まで、どちらかが2年連続で勝ったことは無かったのだ。


理由は簡単。教授陣と生徒たちの自尊心プライドだ。


将来国を代表する生徒たちが募る学園同士の闘いだ。

自分たちの敗北は即ち国家の敗北に等しい。


昨年負けたのならば、来年は絶対に勝つ。


使命ともいえるような思いと共に血を吐くレベルの猛特訓の末、お互いに勝ち越しを許さなかった。かと言って勝って兜の緒をしめよ。どちらの学園も初の「勝ち越し」をするために勝者側も努力した。

(よって近年になるにつれて、生徒たちのレベルも上昇していっていった。)


…彼が、アラン=レオンハートが現れるまでは。


2年前、一期生としてフィールドに現れた彼は他の先輩方を差し置いてキングに選ばれていた。


一見、他の代表生徒たちとの実力の差はあまり感じられなかった。

しかし、要所要所で的確な行動や指示をし、何度もチームの危機を救っていた。


自分が狙われた時も敵と互角に渡り合っていた。


つまり、彼は手加減をしていたのだ。周囲になるべくバレないように。

学園側でそのことに気が付いたのは…ロイドを含めた数人の教授だけだった。


観客席にいる学園側の生徒たちも、アランが手一杯に見えただろう。しかし、絶対に彼は負けなかった。


そんな彼を前に学園側は成すすべなく勝ち越しを許した。




選手控室で待機するライト等3人。


「ここにいるのは学園関係者のみだ。市民はおろか貴族でさえ観戦することはできない。」


ライトが呟く。


「…報道されるのは勝敗。いくら擁護記事を書こうとも実物を見てない状態には焼け石に水。ただの言い訳にしか聞こえないよね。」


「お母様でさえ言ってたわ。決闘祭だけは見られない…てね。」


基本自由奔放な王妃マリーでさえ、見ることが出来ない。

卒業生として思うところもあるのだろうが。


「…俺はロイド先生に対して多大な恩がある。恩人に報いるためにも、絶対に勝ちたい。」


「そうね〜。私もやるからには勝ちたいな!あんなに練習したんだし!」


ライトとシオンが気合を入れる。


「私は学園のプライドがどうどか信用を失おうと別にどうでも良いわ。」


フンッと顔を背けるエレン。そのまま控室から出ようとする。


「おい、エレン!どうしたのか?」


「ただ、私がやらなきゃいけないことがあるだけよ。」


初めて彼女にあった時、湧いてきた親近感。


今なら分かる。

彼女の目は…の自分とそっくりだったから。


「そろそろ時間よ、行くわよ。2人とも。」


そういうと、カツカツと音を立ててフィールドへと続く廊下を歩いていく。


「エレン…。」

「エレンちゃん…。」


2人もエレンの後に続いた。



「これより、フロン帝国学園対ファマイル王国学園の決闘祭を始めます。」


今回、司会進行を務めることになったロイドが拡声魔術を使用しながら声高に宣言する。


一辺約300メートルの巨大な正方形のフィールドを観客席がグルリと囲んでいる。


かなり大きい会場であるため、両学園合わせて1000を越える生徒を収容しても、席はかなり余っていた。


決闘祭に開会式や学園長挨拶などはない。

各学園、いや、各国の未来を担う代表選手同士の決闘だ。神聖な闘いに、それ以外は要らないだろう。


あるのはただ、「決闘」だけ。

残るのは勝者と敗者のみ。


言うならば学園同士のチェス。


「それでは、各学園代表選手は入場してください。」


その言葉と同時にフィールドに向かい合うかのように、端に設置された大きな虎の頭と龍の頭の口が煙を上げながらそれぞれ開く。


その途端、拍手喝采、大声援が会場を包み込んだ。


虎の口から出てきたのは…


「エリスさ〜ん!!」

「エリス様ぁぁ〜!!!」

「カズ〜!頑張って〜!!」

「兄貴ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


フロン帝国学園代表選手、エリスとカズ。


そして反対の龍の口からは…


「シオン〜!!」

「生徒会長〜!!!」

「エレン様ぁぁぁぁ!!」

「エレン様〜!愛してる〜!」

「エレン様ぁぁぁぁ!!」

「エレン様ぁぁぁぁ付き合ってぇぇぇ!!」

「ライトぉぉぉぉぉ!!俺とレインがついてるぜ!!」

「兄貴の言う通りだぁぁぁぁ!絶対勝てよぉぉぉ!!」


ファマイル帝国学園代表選手、エレン、シオン、そしてライト。


「チッ…何がエレン様付き合ってだ…。」


自身らに向けられた声援の一部にイラっとするライト。


「まぁまぁ…そう怒らずに。」


それを苦笑いでシオンが宥める。

普段なら何か言うはずのエレンはと言うと、じっと敵側を見つめているだけだった。


そんな中、満をじして、虎の口から彼は現れた。


「アラン〜!!!」

「アラン様〜!!」

「アランンンンンンンンン!!!」

「キャー!!アラン様ぁぁぁぁ!!」

「アラン様ぁぁぁぁ頑張てぇぇぇ!」


さらに大きな声援が会場を包み込む。


フロン帝国学園生徒会長、学園代表、キング。

アラン=レオンハート。


その様子、威風堂々。


「相変わらず人気ものだな!アランよ!」

「全く。私たちが霞んでしまいます。」


苦笑するエリスと快活に笑うカズがアランに言う。


「そうでもないさ。」


そんな彼らに言葉を返すと、持ち場に付きながら遥か遠くにいる敵へと視線を送る。


ライトとアランの目が合う。


と同時に。


「決闘、始めっっっ!!」


闘いの火蓋が切って落とされた。

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