第38話 ライトの処分と王室の権威
お昼前、ライトはニックに学園長室に呼び出されていた。
学園の教授達やフォルトに囲まれる。
「ライトくん。『君の処分』が決定した。」
「は?」
意味不明な言葉にライトの思考が真っ白になる。
「君は明日から1ヶ月の停学処分だ…。すまない、本当にすまない。」
ニックが申し訳なさそうに俯く。周りの教授たちも皆同様だ。ロイドとフォルトに至っては怒りで顔を歪め、震えている。
「な、なんで!?俺が!?」
ライトはニックに詰め寄る。
ニックはそんなライトに淡々と告げる。
「…今回の事件は、許嫁同士の『合意』の行為であり、その現場を目撃した君が、嫉妬のあまりフラインくんに斬りかかり、エレンくんを無理矢理奪い取ろうとした。それが、今回の『事実』となってしまった…。
クレザーノ家いや、フラインの力によってな。
「場所をわきまえなかった我々にも否あるが、日々、婚約者を奪おうとするライト=ファーベルの態度を考えると、ライト=ファーベルの退学を要求する」、というのがクレザーノ家から正式に届いた。ワシらも全力を尽くしたんじゃが、すまない。ここまでが限界じゃった…。」
ダァン!!という音と共に机が真っ二つに割れる。フォルトが殴ったのだ…。
「ちくしょう…ワシにもう少し権力があれば…隠居などせねば…」
顔を真っ赤にさせたフォルトが呟く。
元剣聖といえど既に引退した身。
フォルトはもう権力を持っていなかった。
ロイドも第一公爵家長男。しかし、まだ家は継いでいない。クレザーノ家正式な要求となれば、手出しが出来ない。
「エレンは!?何か言ってませんでしたか?」
「…エレンくんは何も言えないんじゃ。詳しくは分からんが、フラインに薬を盛られておる可能性が高い。先程までの様子から見て、自分自身の意思を伝え、喋ることは困難な状態になっておる。彼女が弁明するのは今現在不可能じゃろう…。」
心に傷を負い、尚且つ薬まで盛られた。
精神状態的に喋ることが出来るとは思えない。
「…フラインは…?」
「神聖な学舎で『そういう行為』を行おうしたことに対して、厳重注意で終わった……。気休めにしかならんだろうが、君が見た「血」はフラインの血じゃ。エレンくんの純潔は守られておるぞ」
ライトはニックの言葉に安堵するが、すぐに怒りが込みあげてくる。
何故、自分が罰を受けないといけないのか。
何故、あの外道が平然と生きているのか。
唖然とするライトへ、マリーが涙ながらに頭を下げた。
「本当にごめんなさい。これは私たち、王室の責任です。すぐにでも、貴方の無実を証明したい、フラインを捕らえたい。しかし、私たちにその力はありません。現在、王家の勢力はクレザーノ家の足元にも及びません。表面上友好関係を築いていますが、いつ、何が火種となってクレザーノ家が私たちを潰しにかかるか分からない状態なのです。もし、今ここで下手なことをしたら、エレンは殺されてしまうかもしれません。私は王妃として、母親として、エレン(王女)を守らなければなりません。本当に、本当にごめんなさい…。」
「マリー様…」
「…君に、こんなことを言う資格などないとわかっております。傲慢で自分勝手な我儘だと分かっております。ですが、もう私にはこれしかできません。ライトくん、貴方だけが頼りです。エレンを…どうかエレンを救ってください。」
そう言うとマリーはライトに土下座した。
ようやくライトは理解した。何故、エレンが大きく抵抗できなかったのか。
どうして、あんなに震えていたか。
本来ならクレザーノ家は潰されてもおかしくない状況。しかし王室は手出しが出来ない。
婚約者というのも、クレザーノ家がほぼ一方的に決めたものだと見て間違いないだろう。
王妃の涙に学園長室が静まり返る。
どうして娘を傷つけられた親が何もできないのか。どうして、傷つけられた本人が何もできないのか。
何故こんなにも娘思いの母親が泣き寝入りをしなければならないのか。
こんな世の中のために…
あの時◼︎◼︎◼︎は死んだのか…。
プツン。ライトの中で何かが切れる。
「…学園長、今日エリちゃんは?」
「エ、エリ?今日は来ておらんが…」
唐突な質問にニックは少し不思議に思う。
「そうですか…それは良かったです。では…」
そう言うとライトは学園長室から出て行く。
「お、おい!ライトくん!?」
ニックの呼びかけも無視してライトが向かったのは試合会場。
丁度第四試合を行なっている最中だった。
3期生のトップ同士が激しくぶつかり合う。
そんな中で、一際目立つ存在。
優しい顔に自身の狂気を隠した悪魔に向かってライトは呟いた。
「良かった…エリちゃんが来てなくて…」
こんなにも怒りで歪ませた、
醜い『僕』は見せたくないから—
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