第16話

昨晩はのぶさんと交代で寝ていたが、相変わらず周りの喧騒が糞五月蠅かった。睡眠不足にならないよう今日はちょっと遅めに起床する。そして再び洞窟まで足を運んだのだが、俺たちは驚愕の事実に気が付いた。


洞窟の中の火は既に消えており、空気が通り抜けるのか煙やガスが残ってる様子も無い。だが・・焦げ臭っせええ。しまった。臭いのことは考えていなかったぜ。火事の後の部屋みたいな何とも言えない臭いが充満している。俺たち此処で眠れるのかな?


足元の灰にはまだ余熱が残ってるかもしれないので、俺達は慎重に洞窟の中を探索する。洞窟の中の蠢く昆虫どもは逃げるかほぼ絶滅したようである。臭いに目を瞑れば悪くない成果だ。天然バ○サンの威力はなかなかのものであった。


俺たちは結局、洞窟の中で燃やした生木の残骸が完全に冷えるまでもう一日待つことにした。昨日渓流で冷やしておいた巨大鼠を焼いて食べる。骨も石でガンガン砕いてバリボリ食った。カルシウム摂取しとかないと骨粗鬆症や歯抜けになりそうだしな。


今日はちょっと遠くまで探索の足を延ばす。俺はモグラみたいな生物を捕まえ、更にはのぶさんと二人掛かりで山芋みたいな芋を掘り当てた。芋はあてずっぽうに掘ったわけではなく、猪がやったような動物が地面を掘り返した跡を見つけたので試しに少し掘ってみたら出てきた。俺は芋に付いていた葉っぱの形を頭に叩き込んだ。これで今後も野生の芋が食える・・・かもしれない。





___俺たちがこの洞窟を拠点にしてから20日が経った。


俺達は倒木や河原から運んできた石などで洞窟の入り口を補強すると、洞窟の中の邪魔な石を放り出したり、生き残りの虫を焼いて腹に収めたり、竈を作ったりして洞窟内部の拠点化を少しずつ進めていった。焼けた臭いは割り切って我慢した。


実は森を何日か探索して分かったことがある。この森の人の手付かずの自然は、想像以上に豊かだという事だ。丁寧に周りを探索すれば、野生動物たちの痕跡に満ち溢れていることが分かるし、地球では見たことも無いような食えそうなものがゴロゴロしている。但し、俺はこの10日の間に野草に当たってまた死にかけたので油断は禁物である。


それに、図体こそ大きくはないが凶暴そうな猛獣の影もチラホラ見掛けた。その時はのぶさんが怯えてしまって大変だった。俺も怖かったけどな。そこで簡単には洞窟内に侵入できないように、洞窟の入り口に二人掛かりで川から運んできた岩を積んでさらに防衛力を強化しておいた。


更には俺達は様々な道具の作成に着手し始めた。手始めに縄の作成である。木の皮や草など様々なところから繊維になりそうなものを手あたり次第引っぺがして、葉っぱを重ねた即席の鍋で煮込んでみた。上手く繊維を取りだせれば良いのだが、今のところ上手くいっていない。繊維自体は取り出せているのだが、俺の求める強度には足りないのだ。これが出来れば強力な罠を作ったり、木の上に小屋を建てたりと生活の幅が劇的に広がるだろう。


あとは、河原で採取した粘土と砂を混ぜて捏ねて整形、乾燥した後に焼いて土器を作ってみた。これも上手くいっていない。野焼きで焼いていると直ぐに割れてしまうのだ。釜でも作ったほうが良いのだろうか。それとも土が・・。まだまだ試行錯誤の段階である。




そして今、俺は猪と対峙していた。

今朝から食い物を探して山の中を徘徊していた俺達とばったり出くわしたのだ。が・・・これって猪だよなあ。見た目はそのままに見える。ここ日本じゃないよね?

などと俺が余裕ぶっこいてられるのは、こいつがまだ小柄で成獣じゃないっぽいからである。体長はおおよそ80cmくらいか。これなら行けるか?俺。右手で握った試作品の石斧にちらりと視線を走らせる。


日本の猪はかなり警戒心が強いはずだが、この個体はそうでもないらしい。逃げる気配がない。どうやらヤル気のようだ。ちょっと怖い。

もし突進して来たらギリギリで躱して石斧を叩きつけてやろう。

などと考えてたら本当に突進してきた 速えっ!

ギリギリで躱


「うわぁおあ!」

「加藤!」


躱そうと俺が横にステップした瞬間、奴は頭を振って余裕の方向転換。無情にも俺は突進をそのまま足に食らってコケそうになる。ぐおお色々痛えし獣臭え。俺は猪のケツの上あたりを手で押さえながら猪と揉み合う。石斧はどこかに放り出した。振り回す余裕なんて一瞬で消し飛んだ。猪が頭を突き上げてくる。鋭い牙が見えた。あんなのが刺さったらやばい。うあああ助けて。


するとのぶさんが石を投げつけてくれたのか、猪が一瞬怯んでくれた。今だっ!

俺は全力でダッシュすると、近くの木に登ってしがみ付いた。奴も追っかけてきたがさすがに木には登れないようだ。あっぶねええええ。のぶさんに感謝のハンドサインを送る。すでに彼も別の木の上だ。


アホな俺は、ネット小説などで日本から異世界へ来た少年達が巨大な獣と死闘してるのを読んで、浅はかにも俺にもできらあ!と思ってしまいました。無理無理無理。申し訳御座いませんでした。俺も完全に岡田脳でした。所詮普通の人間の体力と身体能力じゃ野生の獣に勝てる訳なかった。そらそうだ。相手は俺より重心が低いし四つ足なのでバランスも良い。案山子じゃあるまいし、俺が横に動けて相手がそれ以上速く動けない訳無いのだ。しかも俺は素人で唯の中学生である。体力は僅か十秒くらいの揉み合いで息も絶え絶えだ。以前読んだ小説の、巨大猪の突進を華麗に躱し続けながら反撃する主人公とかどんな超人だよ。


俺を追い詰めた猪は、フゴフゴ言いながら暫くの間木の下をウロウロしていた。なかなか俺を諦めてくれない。早く何処かに行けよ。

その後、猪はたっぷり1時間くらい木の下をウロウロしていたが、漸く諦めたのか何処かへ歩き去って行った。は~滅茶苦茶怖かったし疲れた。あちこち擦り傷はできたが、大きな怪我をしなくて良かった。後で川で傷口を洗っておこう。

木の枝から降りた俺は、のぶさんと合流して放り出した石斧を回収すると、トボトボと帰路についた。のぶさんは猪と格闘した俺に興奮してるようだ。いや、一方的にボコられてただけだからね俺。


だが、次は必ずリベンジしてやる。何も相手の土俵に立つことなんか無い。人間には人間の強みを生かした戦い方があるのだ。畜生なんぞに舐められてたまるかよ。

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