人跡未踏生存限界編

第14話

クラスメイト達が居住するベースに別れを告げた俺達は、伊集院の発見した小川へと向かっていた。今日の目標は食料と拠点の確保である。一見無謀とも思える目標ではあるが、俺には目算があった。何もノープランでベースから飛び出してきたわけじゃない。


既にこの辺りの地形は頭に叩き込んだので、野生動物を警戒しながらもずんずん進む。一服盛られたダメージや疲労と空腹であまり動けないのではないかと危惧していたが、切り札の飴の効果が思いの他大きかったのか、身体はそれ程重くはない。


暫く歩き続けると、程なく見覚えのある小川に到着した。俺は背後を歩くのぶさんに声を掛けた。

「ここから上流に向かうぞ。」


上流に向かうのには理由がある。この場所より下流を俺達の拠点にはしたくなかったからだ。此処から更に下流だと、例えばクラスメイト達が尻穴を洗った水が俺たちの汲んだ水になる可能性がある。心情的に無理であった。尤も逆ならどんと来いだ。因みにに今の俺の身体は様々な分泌物を様々な穴から発射したせいで超臭い。野生の危険な獣もこれなら嫌がって寄り付かないかもしれない。そういえば、昨夜の才賀もちょっと俺から離れ気味だったように思う。


そのうち機会があれば、川で綺麗に服と身体を清めたい。濡れて体温が低下した身体を晒して風邪を引くリスクを考えると今は無理だが。


もうすっかり開き直って二人で川の水をグビグビ直飲みして水分補給を済ませた俺たちは、そのまま歩いて上流へ向かった。


・・かれこれ2時間ほど歩いただろうか。俺たちは渓谷と思しき場所に到達した。周囲は斜面となっており、俺達の眼前には幅3mくらいの渓流が流れていた。先程まで遡っていた小川は、此の渓流の支流だったのだ。俺達は歩いている間にも何か食えそうな物をひたすら探していた。その結果、先日捕まえた蟹モドキと謎の木の実、バッタのような虫を捕獲した。デカい百足のような虫も発見したが、のぶさんと顔を見合わせた結果、捕獲は断念した。毒持っていそうだし。のぶさんも納得のスルーだ。

そして、更に渓流の周囲を歩き回った俺は、遂にお目当ての場所を発見した。


「おお~、凄いね加藤。」

お目当ての物を遠目に視認すると、のぶさんが思わず歓声を上げた。


それは渓谷の、恐らく岩盤が川に浸食された跡に地殻変動で出来たのであろう。岩でできた巨大な崖に目視で幅2m、高さ5mほどの亀裂があり奥に続いていた。いわゆる構造洞窟である。この洞窟、実は先日の探索の際に発見していたのだが、探索時間のことがあり中まで調べることもなく早々に引き返していたのだ。


「あそこなら雨水も凌げそうだし、出入り口を補強すれば野生動物からも身を守れるだろう。あそこを拠点にしようぜ。」

俺が洞窟を指さしてのぶさんに提案すると


「でもあの中はどうなってるか分からないんだろ。もしかすると猛獣とか居るかも。」

のぶさんが不安そうに答えた。


「どの道調べてみないと分からんし。慎重に中を確認しよう。」

仮にあの中に猛獣が居たとしても、どうにかして排除しなければ俺たちがこの付近で生き残ることはできないだろう。それにその場合は、いずれ襲われる事になるだろうから遅かれ早かれである。勿論超怖いけどな。


俺達は、洞窟の中を調べる前に付近の地形を調査することにした。勿論、洞窟の中から猛獣が現れた場合の逃走ルートを確保するためだ。脚の速さは俺達などより野生の獣の方が遥かに上だろうから、俺達の逃げ道は専ら上。つまり木の上である。そこで、周囲の巨木や枝の張り方を二人で確認した上で、実際に何度も上に登ってみる。幸い、手付かずの自然のおかげで周囲の巨木には俺たちの体重を支えるのに十分そうな枝が数え切れない程伸びている。


幾通りかの逃走ルートを十分に検討した後、牽制用の投石を鞄とポケットに入れ、更に杖兼槍替わりの木の枝を手に持った俺は、慎重に目標の洞窟に近付いた。のぶさんは後方から石を持って近付く。仮に俺がいきなり襲われた場合は、後ろからのぶさんが石をぶん投げる作戦だ。ただ、その時誤爆されないかかなり不安だ。のぶさんに才賀程の身体能力とコントロールが有れば心配ないのだろうけど。


洞窟のすぐ側まで近付いた俺は、いきなり中に踏み込むことはせず、とりあえず牽制で石を投げ込むことにした。入り口から光が差し込んでるとは言え、中は暗いし逃げ場も無さそうだったからだ。


カツーン カンカン・・


俺は持ってきた石を一定間隔で洞窟の中へ投げ込む。岩盤で出来たの穴のせいか、割と派手な音が響いた。


・・・・何も出てこないな。

暫く其の場で様子を伺った後、俺は慎重に洞窟の中に入ってみた。だが、暗くて入り口以付近外良く見えない。仕方ないので、俺は電源を入れたスマホのライトで周囲を照らした。


・・おお 意外と中は広い。幅5m以上はあるんじゃないか。あと奥行きは其処まで深く無い。おおよそ10mくらいか。岩の亀裂で出来た穴なので天井はそこそこ高い。何より、先客が居ないのはかなりの幸運である。あと床は岩がゴロゴロしているのと岩盤がかなり不規則にせり出している。まともに寝るにはそれらの処理と幾らかのリフォームが必要だろう。あと猛獣の姿は無いのだが、良く周りを見渡すと色々な虫が蠢いている。うへええ。ゾッとした。正直滅茶苦茶キモい・・だが待ってほしい。ほんの数日前に芋虫をモリモリ食べてた俺に今更怖いモノなどあるだろうか。いや無い。そうだ、所詮こいつらは貴重なタンパク源なのだ。


ただし、毒持ちに刺されては大変なので後で燻して全滅させてやろう。


俺は、後ろでやきもきしているのぶさんに向かって腕で大きくマルを作ってこちらに呼び寄せた。早速中の様子を説明して火を起こすことにする。最初は洞窟の前に竈を作り、中がある程度片付いたら中に竈を作ろう。天井が高いから煙も上手く外に抜けそうである。


俺達は、洞窟の入り口付近の草を毟り、石を並べ粗末な竈を作った。本来ならもっと周囲を綺麗にしたいところだが、一気に片付けるような体力は俺たちには無い。少しづつやることにする。また、夜は昼間に目を付けておいた巨木の木の枝の上で寝ることにした。木の上も虫刺されや蛇なんかがこの世界に居た場合の危険はあるかもしれないのだが、見たことも無い外見の虫どもが蠢く洞窟の中でいきなり寝る勇気は無かった。雨が降らないことを祈る。


火起こしは簡単に出来た。周囲には木屑はいくらでもあったし、火種は木屑をナイフで削って生産した。そして何より活躍したのは切り札のライター様である。燃料を浪費しないよう慎重にシュボった結果、あっという間に火が付いた。摩擦熱などでシコシコ火おこしをすることを想像するとゾッとする。そんなハードな火起こしに身を投じたら、それだけで時間と体力が尽きてしまいそうだ。文明の利器様様である。


のぶさんは俺のナイフを見たときも驚いていたが、取り出したライターを目にした時には何故かドン引きしていた。理由を訊くと、どうやら担任の吉田のライターを盗み出したと勘違いしたらしい。いや、吉田の物とは色も形も違うでしょ。俺のはキャンプ用に買った長持ちする優れモノだよ。1本\1,000くらいしたからな。しかも3本持ってるし。必死で説明すると、のぶさんはどうにか納得してくれた。


火を起こした後、俺たちは此れまで捕獲した食材達を焼いて食うことにした。直接炙るとそのまま炭になりかねないので、適当な葉っぱに包んで蒸し焼きにする。其れでも何個か失敗して炭になってしまったが、どうにか腹を満たせ・・・全然足りないけど今は仕方ないか。


そうこうするうちに周囲が薄暗くなってきた。俺達は慌てて大木の方へ移動する。出来合いの竈には木屑をまとめて投入して地球の神に祈っておく。朝まで火種が保てばラッキーだ。



さて、

明日は洞窟の虫どもの燻蒸をしてくれようか。









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