第6話

膝を抱えて絶望に震えていた俺はいつの間にか眠りに落ちてしまったらしい。

気が付くと既に空が明るくなっていた。碌に周りの安全確認もしていないのに迂闊な事である。


どうやらこの惑星は太陽のような恒星系にあり、それ自体も自転しており昼と夜が存在するようだ。1日の周期は24時間・・なわけないか。スマホで確認したいが、当然受信不能なので時間の表示は不正確である。機会があれば日時計でも作って、スマホのタイマー機能で1日の時間を計ってみたいと思う。



他のクラスメイトは空が明るくなったことで多少落ち着いたようだ。特に、才賀以外の男子は能天気というか、事の重大さが良く分かっていないようだ。異世界へ転移した自分達の凄さを陽気に語っている。岡田などまだゲーム感覚のようである。そもそも此処が異世界かどうかも定かではないし、お前ら死ぬかも、というかほぼ死ぬんだぞ。分かってんのか?マジで。ビビりまくって眼を真っ赤に腫らして青ざめている女子達とは対照的である。



完全に夜が明けた後、先生による点呼を終えた俺たちはまず、目が覚めた時にいつの間にか移動させられていたあの石室を調べることにした。元の教室に戻る手掛かりがあるかもしれないと考えたからだ。内部は暗いとはいえ左程広くも無い部屋なので、調査にはそれほど時間は掛からなかった。だが、結局床に描かれていた奇妙な紋様以外は何も見つからなかった。当然、俺たちはその紋様に期待を寄せて触ったり叩いたり掘ったりあれこれ試してみたが、結局何も分からなかった。


その後、俺たちはそそくさと石室の外に出た。何しろ俺たちはちょっと臭い。狭い空間にあまり固まって居たくは無いのだ。何故なら、排便した後拭くものが葉っぱくらいしか無いからだ。その葉っぱも肌に触れると何が起こるか分かったもんじゃないので、恐る恐る使用した。幸い尻穴が腫れ上がることは無かった。



それからは先生の指揮のもと、俺たちは石室のある遺跡?をベースにして周囲の探索を行うことになった。とにかく水だ。水が無いと早晩俺たちは全滅してしまう。

幸いここは森の中だ。日本じゃ見たことも無いような木が生えており植生も一切不明だが、ともかく木らしきものが生えてるんだから水もあるだろう。多分。どの道俺達に出来ることは座して死を待つか水をゲットして僅かでも延命するかの2択である。ならばやるしかない。


俺たちは5人ごとの班に分かれた。

俺の班のリーダーは才賀。頭が良くクラスメイトの信頼もあり、身体能力は最高クラス。そしてついでに超イケメン。こいつが居るのは超ラッキーだ。あとは山下と女子二人。うげえ、よりによってこいつと一緒かよ。昨日は大人しかったけど、コイツのウザ絡みはもう勘弁して欲しい。今はそれどころじゃないんだから。


女子二人はクラスメイトで小柄な新垣姉妹である。見た目猿に似ているので、俺は心の中でコッソリ子猿姉妹と呼んでいる。勿論口には出さない。そんなことをしようものなら、女子達から俺の容姿に対する誠に的確で心に刺さる表現が100倍返しになって返ってくるからである。


彼女らを見ると、下を向き青ざめて震えている。どう見てもこれから決死の探索に赴けそうな様子ではない。こいつらはベースに置いて行った方がどう考えても探索捗るだろ。こんな状態で何処とも知れぬ深い森の探索に彼女らを連れて行くと、下手をすれば逆に俺たち全員の身が危うくなるかもしれん。そう考えた俺は、それとなく先生に翻意を促してみたが、物凄い貌で睨まれて却下されたので直ぐに引き下がった。先生にも余裕がないようだ。



「新垣さんたちは俺の後ろに。加藤の前に入るんだ。二人ともゆっくりでいいから付いてきて。辛かったり俺のペースが早かったらすぐに声をかけてね。」

新垣姉妹は、優しく声を掛けた才賀に縋るような眼を向けて頷いた。

その様子を横目に、俺はこっそりベースに転がってる手ごろな石をポケットに収めていく。山下がそれを見咎めた。


「おい、加藤。それで何するつもりだ。」


「投石用だよ。もし危険な動物に襲われたらイザという時はこいつを投げて迎撃する。まあ気休めにしかならんかも知れんが、他に使えそうな武器が何もないからな。」


「フン」

不機嫌そうに鼻を鳴らした山下も、俺の真似をして石をポケットに収めていく。


「おい、欲張るなよ。重すぎると探索に支障が出る。」

一応注意しておくが


「けっ うっせーな。」

コイツは全然忠告を聞く気は無い様だ。


そして俺たちは水と食料を求めて一列縦隊となり、周辺の探索を開始した。







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