下は向かない


 私はビニール傘が好きだ。


 透明な膜の上で踊る雨粒。


 静かに移り行く落ち着いた曇り空。


 視界が俯きがちな雨の日に、それだけで視線の留め先を上向けてくれる。


「あ」


 数十メートル先。早くも閉まったパン屋の軒先で、雨宿りをしている彼が見えた。


 ほらね。雨の日こそ。

 前を、上を見ていないとね。

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