⑬
「崎原くんの 知り合い?」
後ろから健が尋ねると、大悟は振り向くことなく頷く。
知っている。
たしかに高校時代の同級生である吉川玲奈だ。されど、記憶に残る彼女とは少し様子が違う気がする。それは単純に十年という月日のなかで生まれるものなのかもしれないが、そうではないことはなんとなくわかる。
大悟に懐かしそうに微笑んでいるように見えてまったく別のものを見ているように見える。いやなにも見ていないのかもしれない。思考を停止させて、だれかが考えてインプットされたプログラム通りに話すロボットのように機械的に思えてならない。
かといって無機質ではない。
そのうちにあるものは確かに生命を感じられるのだ。
先程まで人形のように佇んでいた彼女は大悟をみると隠れていた感情の動きだしていくのがみえてきた。
それなのに彼女の背後にへばりついて離れようとしない存在が大悟たちに刃を向けている。
その刃がいつ大悟たちに襲いかかってくるこかわからない状態だと感じた淳也や健はその場から身動きひとつとれずに、ただどす黒いなにかを探すかのように彼女を凝視する。
「吉川さん」
大悟もまたいつになく緊張しているようすで口調が普段の穏やかさをなくしており、どうにか絞り出したものが彼女の名前だった。
「崎原くん。ほんとうに久しぶりね。ありがとう。来てくれて」
微かな感情だったものが突如として吹き出させながら、彼女は大悟のほうへと近寄ってくる。
大悟は思わず後退る。
それを見た彼女の一瞬見開かれた目から光が消え去る。
「……どうして崎原くん……」
しばらくの沈黙の後に絞り出したような声が彼女からもれていく。
彼女はうつむく。
「……吉川さん……」
大悟は彼女へと手を伸ばした瞬間に
「どうして!? どうして逃げるの!? 私が何をした!? なぜ受け入れない? あなたはまた拒絶するの!?」
彼女は堰を切るように叫び始めた。
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