⑬
「もう大丈夫ね」
ルリカは、傷ついた健と島木を病院ではなく“ウィザードハウス”へ運ぶとすぐに健たちの手当てをした。
「ルリカさん。吸血鬼の牙には毒でも仕込んであったんですか?」
その様子を見ていた詩歌が尋ねる。
「どうしてそう思うの?」
「だって、それって解毒剤ですよね」
ルリカは先程健たちの傷口に塗った薬の入ったケースを手に取る。
「よくわかったわね」
「まあ、私のお父さん、お医者さんだったんで」
「あら、そうなの。たしかに毒よ、人を凶暴化させるためのね」
「『核』とは違うんですか?」
「『核』は『核』だろうな」
尚隆が口を挟んだ。
「そうよ。あれ自身、『核』に取り付かれているんだけど、あれに噛まれることで『核』を相手に植え付けることができるのよ。でも、実際に『核』ではなく、分身のようなものだから、すぐに処置すれば、化けものに変化することはないわ」
「そういうものなんですか? 海道さんって詳しいんですね」
「当たり前よ」
ルリカは薬の入った容器を救急箱に入れた。
「そういうものなんですね。それよりも……」
詩歌は、健に視線を向けた。
彼らしくなく、さっきから黙り込んでいる。
それは傷のせいなのだろうか、それとも、吸血鬼が彼の知人に似ているせいなのか。
「嶽崎……」
詩歌は、静かに話かける。
「なんだい」
詩歌の視線に気づいて、まるで自分をごまかすかのような笑みを向ける。
見たことのない健の顔に詩歌はかける言葉を失った。
「なんだよお。詩歌~」
陽気な口調だが、どこか違う。それが妙にその存在をかき消そうとしているように思えてならない。
「あんたらしくないから」
「え? そうかい? 俺は俺だけど~」
健は陽気にいってのけるのだが、詩歌は不安を隠せないでいた。
それを読み取った健は詩歌の頭をぽんぽんとたたく。
以前だったら、人に触れるだけで過去を読み取れたのだが、いまは力を調節できるために読み取るといったことはない。
されど、彼女が自分のことを心から心配していることだけは、力を使わずとも理解できた。
それがうらしくも思えた。
「詩歌~本当にいいやつ~俺にほれているんだねえ」
「だから~。」
「心配するなって。いくら俺でも一人で突っ走ったりしないからさ」
「それじゃあ、事情を話せ」
尚隆が真剣な眼差しを健に向ける。
「あの吸血鬼を『栄治』とか呼んでいたな。おまえの知り合いか?」
そういえば、確かに呼んでいたような気がする。
健は真面目な顔を尚隆に向けながら、眼を閉じて自分の頭をかいた。
「栄治っていうのは、俺の親友だった。小学校のころからのな。そして、その島木さんの息子さんだ」
健の視線がいまだに意識を失ったままでいる島木のほうへと注がれた。尚孝もそちらのほへと視線を向ける。
「そういえば、芦屋さんは、この人しらないの? 警視とかよばれていたけれど」
「いや。警察は広いからな。すべてを把握しきていない」
「たぶん、別の警察署の刑事だと思うわ」
ルリカが、治療をしながら付け加えた。
「それよりも続きだ」
健は一瞬顔を伏せたのだが意を決し話始めた。
「栄治とは小学校から中学二年までずっと一緒だった。一緒のクラスで、遊ぶのも一緒だった。けれど、中学二年になったころから、栄治の様子がおかしくなった………」
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