バトル4 過ぎし季節は変わりゆく
①
「崎原くんってどうして誰とも付き合わないの?」
それはまだ
クラスメートの一人だった
なぜ、そんなことを聞いてきたのか最初はぴんとこなかった。
けれど、彼女の言葉の意味を理解するまでにはさほど時間は要することはなかった。
大悟は頭脳明晰で運動神経抜群。それを誇張することもなく、人付き合いもよい。仏のように怒ったことがないと評されるほどに穏やかな性格だった。そのうえ、顔立ちもいいものだから、それなりにモテており、何度となく女の子からの告白を受けている。
そのたびに断るものだから、友人たちからは「なぜ断るんだよ。もったいない」と言われることも多い。だからといって、なぜか僻みというものをうけることなかったのは、大悟が断った女の子がいつの間にか大悟の友人と付き合っていたりしたこともある。
まあ、どういうなりゆきでそうなったかはよくわからないが、なぜかそうなるのだ。
そのおかげか、「お前が断ってくれたおかげで付き合えたぜ」と感謝する友人さえも出てくるぐらいだ。なんと上手くできているなあと思ったりもする。
そんな中、比較的親しかった玲奈がそんなことを言い出したのだ。
いままでそんなこといったことのない彼女からの質問に珍しさを感じずにはいられなかった。
「崎原くんはどうして、だれとも付き合わないの? 幸のこと可愛いっていってたじゃないの。なのにどうして断ったの?」
そういうことか。そういえば、彼女の親友から告白を受けた。
「それは悪いことしたなあ」
大吾は困ったような顔をした。
「本当よ!」
玲奈は少々怒ったような顔をする。
それもそうだろう。
玲奈と幸は親友同士、
親友の幸がふられたとなると我慢できない。
それも振った相手が以前幸のことが可愛いといっていた相手である。
「けど、本当にどうして? 崎原君って社交的に見えて、じつは他人と距離を置いているでしょ~? 学校以外では友達と遊びに行ったりしているの?」
大吾は彼女に背を向けて、黒板の文字を消し始める。
「そうだねえ。この学校の友達とは遊ばなな」
「それじゃあ、別の学校の人?」
「そうだね~。別の学校のひと」
大吾はニッコリと微笑み返す。彼女はその表情の頬を赤くした。
「もしかして、外に彼女とか」
「いないよ。男の友達だよ」
「へえ」
彼女はそれ以上なにもいわなかった。
大吾は彼女のことが好きだった。
クラスメートで同じ学級委員。
明るくてしっかりした性格の彼女には尊敬さえも覚える。
けれど、大吾には彼女に好きということがいえない事情がある。
大吾は恐れているのかもしれない。
自分が人とは異なる特殊能力を秘めていることに……。
生まれながら持つ先祖より伝わる能力。
それも大吾には最も強い能力を持って生まれてしまったのだという。
大吾は彼女にだけは知られたくはなかった。
だから、彼女に好きとはいえなかった。
けれど、彼女は好きといった。
卒業式の日に彼女は大吾にそういった。
けれど、大吾にはそれを受け入れることが出来なかった。
大吾はすぐにごめんと謝った。
「本当に誰でも断るんだね。あなたって一生彼女できないかもね」
彼女はそういってぎこちない笑みを浮かべる。
「そうかもしれない」
大悟もまたいつになく静かな口調で答えた。その様子に彼女は首をかしげている。いかにもふったくせになぜそんな悲しそうな顔をするのだと言いたげだ。
「これでさよならね。元気でいてね」
「うん、そっちもね」
そして、彼女は大悟に背を向けてゆっくりと歩きだす。
大悟がしばらく彼女の小さくなる後ろ姿を見ていたが、一度も振り向くことなくやがて走り出した。
大悟は思わず足を一歩彼女の方へと踏み出した。その瞬間に風がふき、すぐそばにあった桜の木から花びらが舞い、大悟の視界を遮る。
気づけば、彼女の姿はどこにもなかった。
あれ以来、
彼女と会ってはいない。
もう十年も前の話だ。
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