第13話 私の不思議な婚約者 ~マクスウェル殿下視点~

神聖イルティア王国第一王子であるマクスウェル・サークレット・イルティアは、以前より話に上がっていたオルデハイト侯爵家令嬢との婚約締結の話が本格的に内定したということで、初顔合わせをすることとなった。


王位継承順位第一位であるマクスウェルは、国王陛下の嫡男であったがその実は側姫の子である。


皇位継承順位については王室典範に則っているために、マクスウェルの立太子について現状は中央貴族からの表だった反発はない。


しかし、水面下では王妃陛下の子を差し置いて側姫殿下の子を立太子するという現状の王室典範そのものに疑問を感じる声が出ているのも現実である。


そのことからも、将来的に第二王子を支持しようとする貴族側からの反発が発生する可能性が考えられる。


そこで王室は、マクスウェルを確実に立太子して無駄な後継者争いを生まないようにする為に、現王国宰相であるオルデハイト侯爵側の後ろ盾を今のうちに獲得しようと画策した。


その為には、以前から考えられていたオルデハイト侯爵家令嬢との婚約を早急に進めて既成事実化する必要があった。


そんなことから、王都の中央貴族から反対の声が上がる前に王家側からオルデハイト侯爵領に赴いてマクスウェルと侯爵令嬢の親交を深め、そのまま王都での国王陛下による婚約承認まで執り行おうとしていた。


そして、その初顔合わせはあくまで公務ではなく、マクスウェルと母親のユーリアシス二人によるお忍び訪問という形が取られた。


とはいうものの、王族二人が乗る馬車は王族専用の豪華なもので、それを護衛する車列も大規模なものであった。


オルデハイト侯爵領への行程は途中悪天候に見舞われはしたものの、概ね順調でもう間もなく侯爵家の屋敷へと到着しようとしていた。


「陛下と王妃陛下も今回の婚約については賛成していただいているし、王室の問題はないのだけれど、正式に立太子するにはオルデハイト侯爵家があなたの後ろ盾になってもらわないといけないのだから、ちゃんと仲良くするのよ」


馬車に同乗したユーリアシスにそのような話をされたマクスウェルは、美しい金眼と金髪を持った美少年である。


彼は成人していないので、貴族の夜会には公式行事や王室の誕生会を除いてはまだ出席していないが、王都にて昼間に開催される貴族子息子女が参加するお茶会などにはよく顔を出している。


そして、彼の肩書とその容貌から、お茶会の度に出席した貴族子女からの熱烈なアピールを受けるのだ。


また、そんなお茶会には大体貴族子女を婚約者に押し込もうと画策している親が同行しており、その親からもしつこくその子女を売り込まれる為、彼は同世代の女性との会話に心底うんざりしていたのだ。


そんなこともあり、マクスウェルは8歳という幼い年齢であるにも関わらず、恋愛という面では非常に達観していたのだった。


そして生まれながらの王族である以上、政略的な婚姻については納得しており、相手がどのような人物であってもそれが政略的に必要であれば愛想よく対応しようと思っていた。


(まあ、未来の王妃である以上はある程度容貌も美しいだろうから大丈夫だろう・・)


マクスウェルがそんな考えを巡らせていると、程なくしてオルデハイト侯爵家の屋敷へと到着した。


オルデハイト侯爵家の屋敷に到着すると、二人はオルデハイト侯爵家と王室に随伴した侍女や従者達によって、浴場にて旅の汚れを落とすための入浴をした後にお召し替えをされた。


そしてお召し替えが終わると侯爵家の屋敷で一番格式高い客室へ案内され、そこで一休みをした後、早速オルデハイト家によるお茶のおもてなしがされた。


案内されたお茶会の会場に彼らが向かうと、そこにはまだ件の令嬢は来ておらず、レイノス侯爵とユリアーナ侯爵夫人が待ち構えていた。


早速お茶会が始まると、ユリアーナとユーリアシスは二人の学生時代の昔話に花を咲かせていた。


マクスウェルがその話に耳を傾けると、どうやら学生時代の時に二人の間で娘ができたらお互いに義娘に貰おうと冗談交じりに約束していたそうだ。


そして、マクスウェルはレイノスと件の侯爵令嬢について話をすることにした。


レイノスは本当に娘であるハーティを溺愛しているようで、話の節々からそのことが感じられた。


そして、そうしている間にいよいよオルデハイト侯爵令嬢であるハーティがやってきた。


「はじめまして、ユーリアシス側妃殿下、マクスウェル王子殿下。私はオルデハイト侯爵家が長女、ハーティ・フォン・オルデハイトでございます」


そういいながら彼女は小さい体でカーテシーを行った。


彼女は侯爵家令嬢らしい上品さをもっていて、噂に違わぬとても可愛らしい女の子であった。


マクスウェルはひとまず自分の将来の妻になる人物が可愛らしいことに安心した。


そして彼女をよく見てみると、その髪は濡れたように艶やかで美しい漆黒の色をしていた。


マクスウェルは今までたくさんの人間を見てきたが、ここまで暗い髪の色をした人間は見たことが無かった。


おそらく彼女は魔導の才能は皆無であることはもちろん、どんな簡単な魔導も碌に発動することすらままならないと想像できた。


ふと、マクスウェルは自身の腹違いの弟である第二王子デビッドのことを思い起こした。


貴族令嬢、しかも自分の婚約者になる予定だからよかったものの、もし彼女が市井で生まれていたなら生きていくのに苦労したに違いない。


思えは、デビッドも時々自分の髪色に悩んでいる様子であったと彼は思い出した。


そして、彼女の髪色が原因で、心や性格が歪んでいないことを切に願うマクスウェルであった。


その後、ハーティとお茶会で話をしてみてわかったことだが、彼女はマクスウェルに対面したものの彼に対して特別な感情を抱いているようには感じられなかった。


マクスウェルが今まで知り合ってきた貴族子女と言えば、初対面から自分の身上を語り出し、必要以上に距離を詰めてきてはべたべたとくっ付いて来ようとしていた。


そして、母親が選んでいるのか本人の趣味かはわからないが強いコロンの香りが漂って来て非常に不快に思っていたのだ。


しかし、彼女はそんなことが一切ない。


そして、ハーティと話をしていると彼女はとても愛想が良く笑顔も可愛らしい。


その笑顔はとても自然なもので、マクスウェルの気を引きたいという打算的なものは感じられず、マクスウェルが多くの貴族子女に対してする、上辺だけの笑顔でもなさそうであった。


そんな自然体の彼女に対して、マクスウェルは不思議な魅力を感じるのであった。

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