第12話 謁見
王宮に到着した後、取り急ぎ使うことはないハーティ達の荷物を積んだ馬車達はオルデハイト侯爵家のタウンハウスへ運ぶために向かっていった。
国王陛下は多忙な身の上、こちらも長旅から到着した直後であり、王宮に着いたからといっていきなり謁見できるわけではない。
ひとまず国王陛下への謁見は明日執り行われるということで、この日はオルデハイト家側は王宮の謁見を控える客人をもてなす為の部屋に案内された。
そして、簡単とはいえ豪華な王宮料理に舌鼓を打ちながら、その日は早めの就寝となった。
その翌日、いよいよ陛下との謁見である。
(・・・いよいよね)
ハーティは朝からユナを筆頭とした侍女団に磨き上げられ、清楚ではあるが豪華なドレスに身を包んで、父親であるレイノスと謁見の間へ続く扉の前に立っていた。
レイノスは宰相として普段王宮で着ている王国から支給された正装をしており、その胸には沢山の勲章が付いていた。
「緊張する気持ちはわかるけど、いつも通りにしていれば大丈夫だからね」
そう言いながらレイノスはハーティの頭を優しく撫でた。
ちなみに国王陛下への謁見には相応の身分が必要である為、ユナの同行は叶わなかった。
レイノスは謁見の間に設けられた扉の前に立つ衛兵に声をかける。
声をかけられた衛兵が先に単独で謁見の間に入り、それを見送った二人がしばらく待っていると・・・。
「レイノス侯爵及びその息女ハーティよ、入り給え」
扉の向こうから国王陛下が二人の入室を促す声が聞こえてきた。
間髪入れずに衛兵が扉を開き、二人はふかふかの赤絨毯の上を進んでいった。
謁見の間は白亜調の非常に豪華な部屋で、奥に向けて赤絨毯が敷かれている。
その絨毯の先に一段上がった場所があり、国王陛下と王妃陛下の玉座があった。
その玉座の高く聳えた背もたれ部分には、女神ハーティルティアが両腕を広げているシルエットをモチーフにした意匠の国章が刻まれている。
そして、玉座の背後にはさらに数段上がった祭壇があり、そこには高さ3メートル程の大理石を削り出して作られた女神ハーティルティア像があった。
ハーティはつい無意識に女神ハーティルティア像から目を逸らした。
玉座には国王陛下と王妃陛下が腰掛け、玉座を挟んで数人の人間が立っていた。
玉座に向かって左側の1番玉座に近い所にはユーリアシス側妃殿下が立ち、順にハーティの婚約者になるマクスウェル殿下、第二王子と並んでいた。
玉座に向かって右側には主要な重臣と見られる人物が並んでいた。
おそらく普段は父親のレイノスもこの中に並ぶだろうとハーティは想像した。
そして、ハーティは無意識に第二王子へと目をやった。
ハーティがマクスウェル殿下から聞いた話によると、第二王子の名はデビッド・サークレット・イルティアと言うらしい。
ハーティより二つ下の年齢で王妃陛下の実子である。
イルティア王室典範では王位継承順位は生誕順であるとされる為、王妃陛下の実子でありながらその王位継承順位は第二位である。
ふとハーティはデビッドの髪色が気になった。
マクスウェルが美しい金髪なのに対して、デビッドはユナほどではないが紺色の髪色である。
おそらく魔導の才能はそれほどないと思われたが、王族に魔導の才能は基本的に不要であったし、ハーティ自身がもともと漆黒の髪であるから、ハーティにとってそれ以上の興味は生まれなかった。
そのままぼやっと見ていて相手に気づかれても困るので、ハーティは再び意識を玉座に戻し、歩みを進めた。
ほどなくして二人が玉座の前に到着すると、即座に跪いて顔を伏せた。
(もしここにユナがいたら「女神様に頭が高いぞ!」とかいいだして三人まとめて切捨てになったかな・・)
ハーティがくだらないことを考えていたら、国王陛下が静かに口を開いた。
「面を上げよ」
「はっ!」
国王陛下の言葉を聞いて、二人は素早く顔を上げた。
「この度は我が娘をお招きいただき感謝を申し上げます。国王陛下、不肖ながらこの娘を紹介してよろしいでしょうか」
「良い」
一応第一王子の婚約者になるのでハーティのことなど、この場にいる人間で知らない者はいないはずだが、そこは国王陛下に謁見する時の様式美である。
「さあ、ハーティよ。陛下に挨拶なさい」
レイノスの言葉を聞いたハーティは予め習った口上を述べるべく口を開いた。
「お初に拝顔叶いまして恐悦至極に存じます。ご紹介に預かりました、オルデハイト侯爵家が長女、ハーティ・フォン・オルデハイトでございます」
「うむ、余はジル・グレイル・サークレット・イルティア。この神聖イルティア王国国王である。そなたの口上、感謝する」
国王陛下は壮年の美丈夫であり、レイノスに似たような明るい茶髪の人物であった。
その頭に戴く
「もったいなき言葉でございます」
「そなたは、わが妻とも初対面であったな。それ、挨拶をしたまえ」
そう言って国王陛下は隣に座る王妃陛下に声をかける。
「こんにちわ、ハーティちゃん。妾は神聖イルティア王国王妃のミリフュージア・グレイル・サークレット・イルティアよ。よろしくね」
そう挨拶する王妃陛下は同じ年齢であるユリアーナやユーリアシス側妃殿下に似て、年齢よりも愛らしくも美しい容姿をした、薄桃色の髪と瞳を持った女性であった。
彼女もまた、その頭部に豪華な
彼女の髪色を見るとハーティの母親と同世代である彼女もまた、かなりの魔導の才能があると思われる。
そういえばハーティは、父親に三人が学生時代の時は『華の魔道三姉妹』と呼ばれていたと聞いていたのを思い出した。
「お話に聞く以上に愛らしい女の子ね。幼いのにしっかりしているし」
そう言いながら微笑む姿は年齢を感じさせない愛らしさがあった。
「マクスウェルは妾も息子のように思っているのよ」
「ユーリアシス共々、あなたが成人したら入内することを歓迎するわ」
「この度は大変名誉なお話をいただき、心より感謝しております」
王妃陛下にもお墨付きをもらったので、ハーティは素直に感謝の意を述べた。
そして、ハーティが一通りの挨拶を終えると、再びレイノスが口上を述べ始めた。
「国王陛下。恐れ入りながら、この度わが娘がイルティア王家に入内することにあたり、先立って此度の婚約についてご承諾お願い申し上げます」
「・・あいわかった。これをもって余はジル・グレイル・サークレット・イルティアの名に於いて、第一王子マクスウェル・サークレット・イルティアとオルデハイト侯爵家息女ハーティ・フォン・オルデハイトとの婚約を承認する!」
それを聞いて、様式的ではあるが重臣達も「これは目出度い」といいながら拍手をする。
「今宵は祝いの席である。あらためて、その時に集まった我が国の主要貴族達にそなたを紹介したい」
「ありがたき幸せ」
そう言いながらハーティとレイノスは頭を垂れた。
「・・・・・・・」
しかし、その側で二人を眺めていた第二王子デビッドの表情は、恨めしそうな様子であった。
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