リハビリ。

「アカン! メッチャ身体なまってる!!」


 アイが悲痛な叫びをあげる、第二次調査隊の話をしてから一週間経ち、予定より早くアイのギプスが外れたので、軽いトレーニングから始めたアイだったけど、右腕の動きにまだキレがなく、トレーニングに苦戦していた。


「まあ、まだ三ヶ月とか半年治療にかからないだけマシだから」

「せやけどなー…」


 早く治ったのは最先端医療のおかげだが、それでも一ヶ月腕を動かさなかった代償は大きく、左腕に比べてて右腕の筋力がかなり落ちていた。


「折れてる時は役得やと思ったんやけどなぁ…」

「なにが」

「ずーっと世話してくれるやん?」

「なんなら続けようか」


「やめーやー、シラフでされると恥ずいんやって」

「そういうもんかな?」

「そういうもんやで」


 正直な話、怪我をしていてもしてなくても、やっている内容に変わりがないので差なんて無いと思うんだけど、アイは気にするらしい。


「ところでヤタさんは? 最近見ないけど」

「ヤタはですね、機体改造に行きまして」


 比和子さんが言うには、ノルドやパンゲアが手に入れたコロニー技術を使って機体改造試験の手伝いに行っているらしい、特に腰部キャノン砲をヤタさんは気に入って、エネルギー砲をどうにか使おうと思っているらしいが、エネルギー消費量の問題が立ちはだかって難航しているらしい。


 ちなみにエイリークがどうしてたかというと、高温を伴うエネルギー大容量パックを搭載し暑さを我慢して戦っていたらしい。どれぐらい暑かったかと言うと真夏の炎天下でキグルミを来ながらパフォーマンスをするぐらい暑いらしく、ヤタさんは長時間コレに耐えるのは無理だと諦めて別の方法を模索している。


「いやはや、その我慢は素晴らしいですが…」

「ようするに、気合やん」

「気合と根性は素晴らしいけど、もっと別の事に活かしてほしかったなぁ」

「ホンマやで」


 そんなこんなで今日の基礎トレーニングは終わり、二人がお風呂に向かっていった、遠心力で作られた重力下なのでシャワーも普通に浴びれるし、檜風呂もあるので女性陣には大人気で、一度お風呂に入ると中々帰ってこない。自分もお風呂に入ってゆっくりして出てきたけどまだ二人共帰ってこないので、ラウンジでどうにか暇をつぶそうとするけれど何も思いつかない。


「んー…」


 艦内だと料理を作ったり、艦内作業の清掃をしたりして時間を潰せるのだけど、ここだと本当に何もすることがない、しょうがないので何か面白い情報でもないかな…パンフレットでも見て時間をつぶすと、パンフレットは観光スポットの特集が組まれていた、そう言えば日本では行楽シーズンが終わった頃だ。


「でも宇宙で観光もなぁ…」

 月面も宇宙ステーションも結構周りきったので今更行くところも少ない。


「なにみとんのやぁー?」

 ぼーっとパンフレットや観光雑誌を眺めてるとアイが背中からもたれかかるように抱きついてきて、雑誌を覗き込む。


「デートスポット探し?」

「いや、ただの暇つぶし」

「なぁんや、どっか連れてってくれるって、おもたんやけど」

「どこか行きたいとこある?」

「せやなぁ…」


 とペラペラとページを捲るとリゾートコロニーでアイの手が止まる。


「ここは?」

「えーっと…」


 それは地球に反乱してないコロニー…というか居住コロニーじゃないので反乱しようもないのだけど、軌道エレベーターの静止衛星と月の間にあるリゾートコロニーで、片道で1日かかる場所にある。


「ダメじゃない?」

「やっぱアカンかなー…」


 さすがにリゾートコロニーを日帰りというのは寂しいので最低でも二泊三日ぐらいは楽しみたい、そうすると三日は休みを取らないといけない。しかし次の双子座は21日からで、今日が5月8日、どんなに急いでも双子座までに一週間はかかることを考えると時間的に余裕がないし、いつ緊急事態が起こるかわからない。


「しゃあない、諦めよっか」

「だね…今度時間がある時に行こう」


「なになに~? なんのはなし~?」

 そこに少し遅れてお風呂からイチゴさんが出てくる、一緒に入ってたのか。


「ちょっと遊びに行こうかなって話を」

 そう言ってイチゴさんに観光雑誌を手渡すと、イチゴさんは今自分達が見ていたリゾートコロニー『クジラ』の情報に目を通す。


「いいね~、ここ行きたい」

「でも、時間ないから無理やな~って」

「時間…あ~、双子座か~急いでも一週間かかっちゃうしね」


 そう言うとイチゴさんはタブレットでスケジュールを確認すると、クガさんに電話をし始める、どうやらここに呼び出しているようだ。


「何の用事だ?」

 電話をしながら、クガさんが宿泊スペースから出てきてイチゴさんを見ると通話を切って、腰に手を当てる。


「ね~、遊びに行こ~よ~」

「お前な、そんな時間無いのわかってるだろ」

「え~、ほら今ワダツミって改造中じゃん?」

「改造中だな、もう終わるけど」


 現在ワダツミは改造中だ、内容は出力アップと装甲強化、それに内装のリフォームをしている、特に比和子が加入したので専用部屋を二部屋増やて、他にも物置になっていたデッドスペースを見直しているらしい。


「あの機能付けていいから納期伸ばそ~」

「…本末転倒だろうが」

「でも、付けたいでしょ?」

「………つけたい」


「それに、パイロット三人のリハビリに水泳は有効です」


「確かにな…」

「じゃあ決まりで」


 休暇を取るために戦艦を改造して休暇を増やすのは、目的と結果が逆なのでクガさんははじめ拒否しようとしていたが、一瞬で折れた。


「じゃあ決まり、社員旅行だ~!」

「よっしゃ!!」


 アイとイチゴさんは嬉しそうにハイタッチするけど、会社としてどうなんだろうと、クガさんを見ると既に電話でなんか発注し始めている、一方で比和子はこの会話に入ってこなかったので乗り気じゃないのかと思っていたら、既にヤタさんに電話して無理やり休みを取らせようとしている。


「…よし、楽しむか!」


 もうこれ考えても仕方ないな、準備でもしよう宇宙空間で必要になると思ってなかったら水着持ってきてないし、買いに行くか。


「宿泊費用と予約は経費で出す! 高い部屋なら空いてる!!」

「よっ! 太っ腹や!!」


 このVIPラウンジもそうだけど、こういう時イチゴさんのお金の払い方は豪快だと思う、経営は大丈夫か不安になってくるんだけど。


「いつからだ?」

「明日、さすがに納期伸ばしたからって言っても早いほうがいいでしょ」

「…予約の空きあったのか」

「あった」


 流石に明日となると今から準備をしないといけないので、クガさんがVIPラウンジを急いで出ようとする、今から明日の準備をしなきゃいけないので余り時間がない。


「準備してくる」

「あ、俺も行きます」


 自分も急いでエレベーターに乗り込むと、その場に居た全員が乗り込む。


「とりあえず何買ったらええやろ」

「俺は水着を買いに行くよ」

「…うちも水着持ってへんわ」

「持ってるほうが少ないと思うよ」


 宇宙で水着を着る機会なんて殆どない、明日行く予定のリゾートコロニーも、開業したのは先月だし、予約が取れたのも戦時中のリスクで避けられたのと、イチゴさんが言っていた高い部屋だからという理由だろう。


 そんな時になんでリゾートコロニーが開店したんだと不思議になるが、仕方ない部分はある、なにせリゾートコロニーの開発が開始したのは戦争前で、コロニーの維持費を考えればむしろ、利益が少なくても開業しなければ倒産する。


 それに月よりも更に地球側なので安全性は確保できていると主張しているし、宇宙ステーションや月、軌道エレベーターからの直通便も出ているから客は呼び込めるとの判断なのだろう。


 実際こうして娯楽があるのは、兵士のメンタルケアにも役立つし、傭兵や軍人に割引サービスもある、それでもタイミングが悪い時期の開業なのは否定できないけど。

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