徹甲弾。
最初に出撃命令が出たのはヤタさんだ。
ヤタさんがカタパルトに上がりブリッジ方面に慎重に進み、無重力空間でないと到底持ち運びができない重火力武器の電源を、自分達の母艦であるワダツミと電源ユニットを接続し、近くにあるArcheがスッポリと隠れれる程の湾曲した四角形の形をした物理シールドを前面に設置し、砲身をそのシールドの切れ目にある部分にガッシリとはめ込んでロック、そこから360度旋回できる事を確認し動作チェックは完了。
「こちらヤタ、対艦砲の設置完了した」
「了解、弾薬等確認は?」
「オーケーだ」
この155mm対艦砲は、電源と装弾を接続したワダツミ本体から供給できる高火力武器だ、戦艦のものとの一番の区別点はArcheに乗ったパイロットが直接狙いを付けて直線に飛んでいく点にあり、汎用性が高いところだ。
「本当にこれで貫けるのか?」
「さあ? あくまで試作段階の武器らしいし」
この武器のコンセプトは実弾でのRKS貫通、この一点に絞られている。
とある科学者は言いました
「RKSの発するエネルギーは外からのエネルギーには抵抗し、内側から外へ向かうエネルギーは加速して弾き飛ばす、ならば砲身に超高密度のRKSを張れば超加速するのではないか?」
なんとも単純な発想だが、コロニーの
ただし、試作段階で色々問題が起き凍結していた、理由は様々だが一番の問題は戦艦やArcheに搭載した時に使用者のRKSと干渉し、守るために残しておきたいシールドまで消してしまうところだ、使用準備にも使用後にも5分間はシールドは復活せず、その間無防備になるのでは話にならないと、いくつかの試作機を残し凍結した。
その廃棄された対艦砲を見て次に変なことを思いついたのはクガさん。
「だったら戦艦のシールド内からArcheのシールド消費して撃てばよくね?」
そうして廃棄されていた対艦砲を買い取り、設計もし直して実戦投入されたRKS搭載対艦砲が、今現在ヤタさんが構えている。
「安心しろヤタ、撃てはした」
「火力は?」重火力武器。
「本当に大丈夫なんだろうな」
「対物試験は出来るタイミングと標的が確保できなかった」
「…行きあたりばったりなのはわかった」
ヤタさんが気持ち程度に設置されている物理シールドを触りながら溜息をついている様子がヘルメット越しに見える、珍しくかなり不安そうだ。
「本当はもっと時間あったからな、仕方ないと諦めてくれ」
「安心しろ、最初から諦めてる」
覚悟を決めたようにヤタさんが対艦砲と自身のArcheを接続する。
「おい、つなげた瞬間に俺のRKS消えたぞ」
「仕様だから大丈夫だ」
「どういう仕様だよ」
「なぁに、Archeの機能自体は使えるから安心だぞ」
ヤタさんは渋々ながらArcheの機能を使って砲身を動かしたり、かなり遠くに恐らくズーム機能で見えてるであろう敵艦に向かって標準を定めたりしている。
「試し撃ちしてみるか?」
「おい、今試し撃ちって聞こえたんだが」
かなり接敵し始め、パンゲアとエッダがミサイル合戦を始めてた頃クガさんから提案があった、現在撃ち合っているミサイルの数はかなり多く両者のArcheが出払って迎撃を始めている、自分もArcheで出撃しオモイカネのカタパルトの上からそれを援護していく、ちなみにアイはレールガンぐらいしかミサイルを遠くから撃ち落とせる武器なんて盛ってないので格納庫でお留守番だ。
「ミサイルの迎撃はいいのか?」
ヤタさんも手持ちの対物ライフルでその場からミサイル迎撃を手伝っていたのだが、クガさんの提案を訝しみながら確認する。
「大丈夫だ、迎撃数に余裕がある」
「…お前が対艦砲の威力みたいだけだろ」
「わかってるじゃないか」
取り繕う事を一切せず同意する姿にヤタさんは呆れながら対艦砲に手を出す。
「お前はそういう奴だったよ」
「褒めるなよ?」
「…褒めてないのが解ってて言うな」
「ターゲットロック、目標移動なし、命中補正なしでいいな」
「あぁ、なんなら小型艦からやってみるか」
「だな」
エッダの小型艦をヤタさんは狙っているのがわかる、自分もミサイルを迎撃しながらになるがヤタさんの動きに注目していた、一体どのような威力を出すのだろう。
「喰らえ」
ヘッドホンからドン! という重低音が鳴り響く、ちょっと音量が大きすぎるなと思いSEの音量を下げようとしたところで次はドォォォォンとかなり遠くでミサイルの物とは違う長い爆発音がヘッドホンから流れてきてソッチのほうを見る。
「ん………なんだろ」
なにが爆発しているのか理解できずにズーム機能を使って拡大して確認してみれば、どうやら爆発しているのはエッダの小型艦のようだ。
「クガ、お前な」
「…さすがだろ?」
「腹は立つがな」
ヤタさんが次の弾の装填を待っているのがわかるのだが、それよりも今の会話の内容だ、もしかしてあの小型艦を落としたのはヤタさんなのか?
「アイ、見てた?」
「見てたで、今度ウチも使ってみたいわアレ」
なるほど、あの対艦砲のお陰で間違いないらしい。
ちなみに連射性は劣悪で一分間に撃てる数は一発かかるみたいで、その間に砲弾のSE設定を探してそこだけ音量を下げるのに成功した、全体音量を下げれば肝心の音を聞き逃すかも知れないし、音量を下げなければ鼓膜が破れるところだったので危なかった。
「…いくぞ」
第二射、こんどは鼓膜が破れそうな音量ではないが身体に響くような重低音が聞こえる、次にヤタさんが狙ったのは中型艦、今度はヤタさんが狙っている対象がどれかわかったので、よく観察しておく。
「ヒット」
ヤタさんが冷静なトーンで宣言する、ヒットさせられた中型艦を見ればコクピットが爆散している、一番戦艦として脆い所を的確に撃ち込んだのがこれでわかる。
「
コクピットの窓はとても分厚い防弾ガラスに覆われていると言えども、やはり合金製の装甲よりも柔らかい、一時期は全面カメラを使って窓をなくして全てモニターで管理しようとした事もあったが、電波妨害などの弱点で何も見えなくなりすぎて頓挫した過去をもつ、いまでは大きさはまちまちだけれども、どの艦も分厚い防弾性の強化ガラスを使っているし、そもそも
そんな強化ガラスに、貫通力の高い弾が命中すればひとたまりもない。
「あぁ、だが被断面にシールドを集中されたら一発破壊は無理そうだ」
「だろうな」
ただ、それでも全方位型のシールドにしてあったから防げたのであって、これ以上シールド強度を上げられれば厳しいようではある。
「次はHEAT弾じゃなく、徹甲弾だ動力部を狙ってくれ」
「了解した」
三発目、今度はまだ反応していない中型艦の動力部を狙っての砲撃、こっちは先程のHEAT弾が着弾後爆裂することを目的とした弾ならば、徹甲弾は貫通することが目的の弾だ、つまり先程よりも貫通力が高くなる。
「いけるな」
うまく動力部に命中して燃料に引火、中型艦が爆発しながら崩壊して行くのがわかる、これで戦艦を三隻落としたことになり、敵陣営が慌てだしたように動き出したのがレーダーでわかる、何をされたのか調べていることだろう。
「さすがに次は厳しいか、小型艦だけを狙っていくか」
「了解だ」
相手からしたら一分に一度戦艦が破壊される、しかも原因が不明ときたもんだからパニックになってることだろう、なにせなにか光る線は見えるので、攻撃を撃ち込まれた事自体はわかるのだが何を撃ち込まれたわからない、それがかつて地上戦で猛威を奮ってあった兵器であっても宇宙戦争では産廃扱いになり見向きもされていなかったもので、なんなのか理解する為の時間が足りない、人が恐れるものは未知だから。
「あー、こちらキシャル艦長マエル、再び失礼」
「こちらイチゴ、なんでしょ~か」
「今度はオタクらなにやってんの?」
「試射会してる」
「おいおい、なんて冗談だそりゃ」
何を使ってるのかわからないが、オモイカネが撃っているのは理解したマエルさんが気になったのか通信をしてきたが、意味がわからなくて混乱してるようだ。
「今、モニターで見てっけど、んー、そりゃ榴弾…いや対艦砲かそんなんで戦艦のシールド貫通できないよな、どういう手品使ったんだい?」
「ちょっとした改造品だよ、ひみつへ~き」
「あー、なるほど、オーケー理解した」
多分どういう仕組みか理解したわけじゃなく、理解できないことを理解したんだろうなって。
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