謀叛。
「正直ね、最初から違和感はあったの」
イチゴさんが言うにはこうだ、エッダが大型艦二隻が沈んだとして、即戦線崩壊に繋がるかどうか、答えは
なんなら今回はあの時のこった大型艦一隻という状況よりも鬼が三隻、エッダが一隻まだ残っている状況な上、5位以下のPMCにだって大型艦を所持しているところはある、コロニーを落とせるかどうかはともかく、少なくとも戦線を維持できるだけの戦力は残っていた筈なのだ。
「それでね、報道規制ってレオニダスの時もかかってなかったの」
今となってはイチゴさんが焦りよりも失望した理由がわかる、自分だって未だに信じられない情報だけど、イチゴさんからパンゲアが裏取りして証拠も一緒に送ってくれたから、どう考えても嘘じゃないとの説明を受けた。
「時系列でいうと10日目ぐらいから、エッダは消極的になってたそうなの」
それが一転して今日突然なんの連絡もなしにエッダ所属の三隻が前進しはじめ、
これも不審な点が多く、まるで内部に爆弾でも仕掛けてあったかのように断続的で連鎖的に小さな爆発が起こったんだそうだ。
「当然、鬼が救援を出すんだけど、ここでまた変で脱出艇が出てこない」
そこで鬼は自分達の脱出艇を救助艇にして回収しに行こうとしたがハッチも開かなければ中の様子も煙で見えない、そこで緊急事態だから止む無く装甲を破壊して中を覗いてみると内部は低酸素状態で空気が抜かれていて艦内は死屍累々、待機してた派遣社員だったり、雇われのArche乗りも酸素を共有して辛うじて少数が生きてる状態で、攻撃艦に至っては自動操縦のみで乗組員がいない。
「ここで鬼がこれが異常事態と確信、生き残りを全員三隻の救助艇に分けて入れて脱出しようってところで…エッダの旗艦からの艦砲射撃で救助艇二隻が撃沈」
「待って、それってウチの元同業ってエッダに殺されたんか?」
アイがガタリと立ち上がって怒りを顕にし、拳を強く握っている。
「アイ、落ち着いて最後まで聞こう」
そんなアイを後ろから抱きしめて、膝の上に座らしてなだめる。
「……うん、かんにんな」
まだ怒っているけど暴れだしたりはしなさそうだ。
「続けるね、そこで救助に行ってた数人も負傷してエッダに一応警告したら、識別反応をわざわざ同じく包囲していた100隻の艦隊と一緒に切り替えてきて、艦砲射撃してからエッダに正式所属している識別のArcheが出撃してきて、戦線の維持が不可能と判断しての撤退」
「…いつからだと思う?」
「今回の戦線の最初からかも、パンゲアとか参加させなかったのも、その場に居たらパンゲアが反撃してきて返り討ちにあっちゃうからとか」
「なるほどな、情報規制がかかるわけだ」
クガさんは腕を組みながら調理台へもたれかかってうつむき、質問を終わる。
「あんな、エッダ自体は元々嫌いやで、痛い目にあえっていうたで?」
怒りに震えながら拳を握り続けるアイの声は震えていた。
「でもな、崩壊して欲しくなかったんは、雇われ時代に仲ようしてくれたオヤッサンとか、一緒に飲んだり愚痴言い合った雇われ同期もおって……仲間やったり、良くしてくれて月の工場紹介してくれた整備士のオッサンとか、ええ人はおってん」
アイの目からは大粒の涙が溢れ出す、エッダへの怒りと悔しさに堪えきれず。
「みんなな、死ぬ覚悟はそらしてきてんねん、敵にヤラれるんやったらしゃあないって、でも味方に騙されて殺されるんはあんまりやん!!」
思いっきり拳を振り上げ、机を叩くかと思ったけれど、ものには当たらずにそのやり場のない怒りを拳とともに胸に抑える、もし机を殴って壊したとしてもこの状況だと誰も怒らなかったと思う。
「アイ…」
なにもアイにかける言葉が見つからず思いっきり抱きしめる。
「それで、エッダは」
長い沈黙が続いた後、ヤタさんがパイロットとして口を開く。
「追撃中、どっちの中継基地に来るかは現時点で不明だよ」
「そうか」
「………殺したる」
アイがボソリと呟く。
「こっちの基地きたらウチが全員殺したる、皆をエゲツない殺し方しよってさかい…死ぬまで後悔させてやるから…覚悟しぃや…」
アイの悲しみと悔しさは今度は怒りに変換されて、怨みに身を震わせている。
「…わかった、手伝うよ」
落ち着けというのは逆効果だろう、気にするななんて言うのは無神経過ぎる、例えばこれが自分だったらと思うと我慢できる自信はない。
「冷静さは失うなよ、無理と判断したら出撃はさせん」
クガさんはそんな自分達を咎めるかのように注意する。
「命令は聞け、指示は仰げ、相談もそろ、それならバックアップはする」
「………はい」
アイはクガさんに短く返事をする、クガさんだって怒っているのがわかる、いや誰も復讐を咎めない辺り、この場の全員エッダに怒っているんだ。
復讐は何も産まないと言う、復讐をしたって相手は帰ってこない、だけど
―――復讐する相手が敵にいる。
殺すべき相手がが復讐対象である以上殺さない理由もない、もしくは拘束して裁判にかければ間違いなく死刑だし、傭兵になった時、裏切った場合は軍機上その場で死刑という判断がくだされる程の重罪である。
戦場で裏切ることは、それ程に罪が重い。
「かんにんな、空気おもたして」
「構わん、気持ちはわかる」
クガさんがアイが落ち着いたのを見計らって肉を机に運ぶ。
「すまんな、ここまでになるとは思わなかった…食えるか?」
「食べます、食わへんと動かれへんし」
アイはクガさんが運んできたステーキにナイフを突き差して食べ始める。他の皆も無言で手を合わせてから黙々と食べ始めたけど、ここにきてここまで重い空気の食事は始めてだ。
「スノウ、ありがと」
アイが半分ぐらい食べた所で膝の上から降りる、膝の上に乗ったままだと俺が食べにくいというのに気づいてくれたんだろう。
「気にしなくていいのに」
「………」
アイはうつむきながら黙々とステーキを食べて言葉を返してくれなかった。
「いただきます」
ステーキを食べる、まだ冷めていなくて柔らかい肉はこれが高いお肉だと主張してくる、いつもなら美味しく感じられる肉なんだけど、今はテンションが上がらない。
「エッダを倒したらまた、これ食べようね」
「…あぁ」
黙りながらずっと情報収集をしていたイチゴさんがそっと呟き、クガさん頷く。
食べ終わって、クガさんが後片付けをし終わり再びソファーに座っても、あれから会話は一切なく、自分はアイの背中をなで続けていた。
「追加情報、エッダは鬼が逃げた方向と同じ、軍事衛星コルキス方面へ追撃」
軍事衛星コルキスは今自分達が向かっている場所と同じで、つまりはコルキスでエッダと戦うことがこれで確定した事になる。
「了解です」
各々それに返事をして、その会話はそれ以上広がらなかったけれど、アイが小さくガッツポーズをしていたのを見てしまった、後3日で冷静さを取り戻してくれればいいけど。
一抹の不安を抱えても、否応なしに艦は自分の意思とは関係なくコルキスへと進んでいく。
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