ミーティング。(3)

「やっほ~」

 コッチに気がつくと元気に手をふるイチゴさん、クガさんは反対に紙の資料にずっと目を通し続けていて、コッチに気付くと軽く手で挨拶するだけだ。


「来てたんだ」

「なんかエースパイロットやからどうぞって」

「なるほど~」

 そういうと、イチゴさんは渡された資料をコッチに回してくれる。


「いいんです?」

「私は全部覚えちゃったし、クガと共有するから」

 なるほど、確かにコッチもアイと一緒に資料を見た方がスムーズに情報を共有できるし、見た所資料の予備はなさそうだ。


「いえ、こちらもパイロットの意見が増えたほうが助かりますし」

 ちなみに、リヒトさんとベッグさんは代表ではあるが艦長ではない、どちらかと言うとパイロットの方をメインにやっており、両方ともエースパイロットの称号を得ている、ただしそんな立場の人が前に出れる事は少なくもっぱら後方で直接所属のArche部隊に指揮を執ることがメインになる。


「ソレは良いんですけど、ヤタさんは?」

 パイロットの意見なら俺みたいな新人と、エースではあるけど新入りでもあるアイよりも古参で経験も豊かなヤタさんが居たほうが良い。


「ヤタはこういう会議苦手でな…色んな意味で、それにこっちのラウンジよりも自室のほうが寛げるから任せただってさ」

「なるほど」


 一ヶ月ぐらい前なら疑問に思っただろうけど、あの恋愛話を聞いてからなら納得できてしまうから困る、なんかダメな事を天然で言いかねない。

「とりあえず大まかな方針は決まりはしたんだ」

「お聞きしても」

「あぁ」


 リヒトさんの説明によると、大隊を4グループに分けての常時攻撃を開始する、隊列を組んで最初は常にドローンを破壊、Archeが出てくるのでそれを各部隊で対処しながら、コロニー内へ侵入するという作戦だ。


 4グループに分ける必要があるのは理由があり、魚座はふたご座と並んで珍しい二つで一つのコロニーであり大型コロニーが二つ並んでいる、名前は

『アフロディーテ』と『エロース』。


 その二つを同時に攻略するには両方を攻める必要があるため、2グループずつ、休憩で交代しながら戦うためには部隊を4つに分ける必要がある。


「途中でエースパイロットが出てくるのは確定だけど、それもできる限りこちらで対処したいが難しいと思う」


 資料によると、エースと言われるパイロットは魚座には5人、『アルレシャ』『霹靂へきれき』『レーヴァテイン』『リネン』『アルファ』。

 その中でも特色があり


『アルレシャ』はリーダー格であり魚座の統治者にしてトップエース。


『霹靂』と『レーヴァテイン』はアフロディーテ側のコロニーの守護者。


『リネン』と『アルファ』はエロース側の守護者。


 とそれぞれ役割が分かれている


 先にどちらか片方でも落とせれば楽にはなるが、どちらの方が戦力が高いかわからない、そこでオモイカネの出番というわけだ。


「私達は遊撃部隊、戦線にスキを見つけ次第突撃、エースの撃破かコロニーへの打撃、もしくは戦線の穴をあける事が目的だよ」

 なるほど、少数精鋭で高速船を持っている利点を活かしてる。


「それで、問題点もここにある」

 当然スキを見つけても敵エースの相手をするのは難しいし、むしろ負ける可能性のほうが高いまである、なにせ機体性能は基本的に少数精鋭の分予算を命がけで注ぎ込んでいるコロニーの方が性能も高いし、常に宇宙空間にいるおかげで訓練も積んでいる。


「結局、アルレシャの相手は私達は出来ないと思うんだよね」

「それに関してはこちらにも考えがあります」

「その考えを話してってば」

「すいません」


 揉めている部分はここか、相手に話せない作戦があるが、それを隠してる相手を信頼することは難しい、恐らくどうしても話せない事情があるんだろうけれどソレを証明する手段もないのだ。


「…アルレシャに対して作戦があるんですか?」

「あります」

 即答だ、しかも力強く断言して、目に力も入っている。


「それじゃあ、確約することはできますか?」

「確約とは」

「アルレシャの相手は、パンゲアが行うって」


 正直無茶な確約を提案しているのは自覚している、相手も思考して考えて動く人間だ、その人間がコロニーが攻められてる状況で、他にも攻めてる人間をスルーするわけにもいかないし、戦場でそんな区別なんてしてくれるわけがない。


「確約しましょう、なんなら片方のコロニーにアルレシャが出てきてから、アルレシャが居ない方のコロニーを攻めてもらって構いません」

 なのに、リヒトはソレを確約した、それもさっきと同じく即答であり自信に溢れいる事がわかる。


「本当にできるの?」

「できます、なんならパンゲアだけでエースを相手取る可能性も想定してますし、スキがないと判断すれば動かなくても結構ですし、それを責めることは一切致しません、ご安心を」

 最大手ギルドが自信を持って、ここまで断言する。


「なあ、もしかしてなんだけど…リヒトさん」

「言わないでください」

 クガさんが何かを察したようでリヒトさんの目をジッと見続ける。


「イチゴ、信用しよう」

「いいの?」

「あぁ、大丈夫だ、俺の方なら信用できるだろ?」

「う~………わかった」


 イチゴさん自体は納得いかないという様子だが、クガさんにここまで言わるとイチゴさんもソレ以上反対しなかった。


「すいません、それではよろしくおねがいします」

「こちらこそ、よろしくおねがい」

 イチゴさんとリヒトさんが握手をすると会議は終わる。


「ところでもう一つ、今回の作戦に関係ない個人的な質問をしてよろしいでしょうか?」

「なんでしょう?」


「最近、個人的にですが強く違和感を感じていますが、そちらは」

「え~っと、得には」

「その件につきましては、原因の調査と解決策を模索中です」

 そのリヒトさんの質問に対して、イチゴさんはよくわからずに首を傾げたのだが、代わりにクガさんが答える。


「わかりました、信じます」

 そうして、リヒトさんとベッグさんは席を離れていった。


「ねぇ、本当に大丈夫なの?」

「あぁ、予想通りならだけどな」

 そう言ってクガさんはイチゴさんに持っていた資料を一枚手渡す。


「……そゆこと?」

「多分な」

 会議が終わって、イチゴさんとクガさんは二人で話し合いを続ける、さすがにこれ以上は自分達が居ても邪魔になりそうな雰囲気だ。


「おっと、すまん、もう大丈夫だぞ」

 クガさんは気まずそうにしてる俺に気づいてか、もう戻っていいと促してくれる。

「だね~、あっ、そうだここお風呂あるから入ってきたら?」

「そうやお風呂!」

 バッとアイが立ち上がるとスタッフの人を探して駆け寄っていく。


「ウチお風呂入っくる!」

 その声が静かなラウンジに響き渡ると、アイは奥へと消えていく。


「あはは、アイはお風呂好きだよね」

「そうですね」

 アイは毎日すかさずシャワーに行くし、月面でも結構長めにシャワーを浴びる、お風呂が大好きなのは間違いないけど同時にゆっくり湯船につかりたいという欲望も溜まっていたんだと思う。


「お二人はどうするんです?」

「そうだな、後で俺達も入るよ、一緒に」

 一緒に?


「そだね~」

「なるほど、じゃあ自分は席で寛いできます」

「おう、お疲れ」

「お疲れさま~」


 2時間ぐらいして、アイが帰ってくる。

「すごかった」

「よかったね」

 十分お風呂を堪能したであろうアイが戻ってくる。


「やっぱり、お風呂はな、つからなアカンねん」

「そっかー」

「そうやねん…」

 ぐでーっと、アイはソファーに再び沈み込み無防備な姿を晒す、服装は浴衣姿になっている、持ってる様子は無かったので旅館のごとく貸し出しがあるようだ。


「ねえ、一個聞いていい?」

「ん、なにー?」

「答え、聞いてないから」

「…なんの答えやー?」

「好きの答え」


 だらけて足をブラブラまでさせていたリラックスモード中だったアイの動きがピタリ、と止まった、表情はソファーとクッションに隠れて見えない。


「それって、必要なん…?」

「必要」

「ほ、ほらでもアレって面と向かって言って貰ってないし、ノーカンやないかなーってアイさんはそ~思うんやわー?」


 焦って口調がおかしくなっているのがわかるけど、一度切り出した以上ここで『そうかなるほど』、と言って引き下がるつもりもない、だいたいコッチは一度ハメられて吐露してしまった以上色々と吹っ切っれたのだ。


「じゃあ改めて言えばいい?」

「えっ、いやそのやな?」

 バッとアイが自分の手で隠してるクッションを掴んで取り上げると、クッションの下からは真っ赤になった顔のアイが涙目でコッチを見ていた。


「好きだから、付き合って」

 アイの目を見つめながら、強い口調で迫る。


 暫く、長い沈黙の時間が流れる。

「……よ、よろしゅう…おねがいします」

 ようやく声を絞り出すように言うと、勢いよくクッションを取り返されて再びアイは顔を隠してしまった、けどいいや、良い返事が貰えたし。


 こうしてアイと俺は、付き合うことになった。

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