襲撃。(2)
煙の中で銃撃戦をしてるのが音と硝煙の僅かな光でわかるんだけど、ソレ以上どういう状況なのかわからず手出しができない。
「…っ!」
その状態の煙にアイが向かおうとしたのが見え、引き止める。
「つっこむ気かよ!」
「だって、あれ!」
アイが指を指した先には先程のテロリストカップルの女性が、低重力を利用して、天井部分に登ろうとしているのが煙の切れ目から見て取れる手に持ってるのは…爆弾だ。
「マジかよ!?」
「止めんと!」
アイが今度こそ飛び出していった、自分も物陰から出て狙いを定める、既に女性は天上のガラス部分に爆弾を貼り付けようとしているのがわかる。
「当たれっ!」
咄嗟に撃った銃弾はテロリスト女性の手首に当たり爆弾を落とす、良かったまだ張り付いてなかった…爆弾は真下に落ちていって、アイがソレをキャッチする。
「うっわヤバ!」
アイは爆弾を見た瞬間青ざめるが、そんなアイに向かってテロリストの女性は勢いよく飛びかかる。
「こっの! それを渡しなさい!」
「渡せるかアホ!!」
飛びかかってきた女性をアイは咄嗟に蹴り飛ばし、抑えつける。
「アイ!」
それを手伝おうと駆け寄ろうとすると、アイがなにか…って爆弾かよ、爆弾を投げつけてきやがった。
「ソレなんとかして!」
「くそぉ! くそぉくそぉくそぉくそぉ!!」
怨嗟の声を出し続けるテロリストを尻目に爆弾を咄嗟に受け取り、ソレを確認して俺も青ざめる…タイマーが起動している残り時間は約一分。
「どうしろってどうするのさ!」
「知らへん!」
アイはアイで必死にテロリスト女性を組み伏せて押さえつけようと格闘している。
「くそぉ!」
咄嗟に窓に拳銃を全弾放つけど、小さなヒビしか入らない、畜生さすに頑丈だな。
「手が開いてるやつは協力しろ!」
誰かがそう言うと、周りにいた数人が一緒に割ろうと銃弾を浴びせようとするが、防弾性能がかなり高く設定されていてヒビぐらいしか入らない。
「時間は!」
「あと30秒」
辺りに絶望感が漂う、他に廃棄する様な場所も見つからない、非常階段はまだ煙だらけで更に銃撃戦も終わっていない、もし投げ込めてもどうなるかわからない、エレベーターは動いてないので今からこじ開けるのは時間も足りないし論外、通路で爆発なんてさせれば最悪ここに居る全員が全滅することだってありえる。
「アンタ達はココで私と死ぬのよ!」
女テロリストが狂ったよう笑いながら叫んでいるが、そうなるつもりはない。
八方塞がりだ、そう思っても諦めきれず必死にガラスに椅子を投げつけようとしたところだった。
「全員どけえええええええ!」
大きな叫び声とエンジン音が背後から聞こえる、なんだと思いながら後ろを振り向くとスポーツカーが走ってくる!
「なっ!」
急いで進路をあける前にスポーツカーは既に全力で走ってきた。
ガシャァァァアァァッァアァン!!
強烈な音と一緒に強化ガラスをスポーツカーは突き破る!
スポーツカーは、強化ガラスをボンネット部分だけ突き破って止まっている、ガラスは粉々に砕かれて爆弾を投げ込めるスペースがあく。
「早くソイツを投げろ!」
「あぁ!」
全速力で助走をつけながら窓の外に手を出す急いで爆弾を斜め下に放り投げる、残り時間はあと5秒だった、外に出せさえすれば上部のドームにはRKSも付いている筈だし大丈夫なはずだ。
「全員伏せろッッ!」
車の運転手が車から飛び降りながら伏せる、辺りの全員も咄嗟に身を伏せ始めた。
「ッ!」
自分も見を伏せて頭をカバンで隠す。
―――瞬間、物凄い爆風がココを襲う、爆風は爆弾側にあった防弾ガラスを尽く破壊し、タワーの壁に突き刺さっていく、炎が斜め下からガラスがあった場所を通ってスグ上を駆け抜けていく。
一瞬だった、その一瞬で静寂が訪れ、辺りは砂埃に包まれる。
「っ……」
辺りを見回して確認する、多少高さがあったせいで車は爆風をモロに浴びて横転して壁に激突している、幸いソレ巻き込まれた人はいなさそうだが、爆風によるガラスを防ぎきれなかった人に怪我人が出ているのがわかる。
スモークグレネードは既に煙を発してなかったので、爆風は煙をあらかた吹き飛ばしていたが、アッチはアッチで銃撃戦の跡が凄く、テロリストがどうなったのかわからない。
「っアイ…?」
起き上がって自分の怪我を確認する、カバンに大きなガラスが刺さっていてゾッとするが、幸いにも後は左腕にかすり傷があるだけで大きな怪我はなかった。
「アイ、無事か?」
アイの方を見ると、血が流れている。
「アイ…? アイ…!」
びっくりして駆け寄り、砂埃の向こうのアイを確認しに行く。
「…ぁ…っ」
まず目の前に現れたのは血まみれの女性、一瞬それがアイかと絶望する。
「っ…何度も呼ばへんで大丈夫やって」
その後ろからアイが出てきてホッとする、ということはこの血まみれの女性はテロリストだ。
「怪我は…?」
「多分ないで…うちマウント取ってたから、一回離して伏せたんやけど、そこのテロリストが反撃しようとして立ち上がってきてん…おかげで壁になって無傷」
「なるほど…自業自得だけど助けてはくれたな」
「はは、ええ冗談やわ」
落ち着いて気絶しているテロリスト女性の脈を確認する。
「どうや?」
「生きてる、火傷もあるしガラスまみれだから治療次第だと思うけど」
ほうって置いたら死ぬだろうけど、さすがにこの状況だとガラスを抜くほうが出血が多いだろうし、怪我の箇所が多くてどう止血していいかわからない、そもそもコイツがこの惨事の元凶だからここで殺されても文句は言えないのだろう。
「他の怪我人は?」
「見た感じ、重症なんは…見当たらへんけど」
じゃあコイツが一番重症なのか。
「すいません、いいですか? ここの医療スタッフです」
一人の眼鏡の男性が近づいてきて診断を始める、医療スタッフが来たならこのテロリストにすることは無いだろう、その男性に後は任せて今度は二人で窓ガラスの会った場所に近づく。
「あーあ、このガラスめっちゃ高いのに」
「だよなー、って最初にお金の心配かよ」
いつもの調子に戻りつつあるアイに少しホッとするけど、むしろ強がってるようにも見えて心配になる。
「それならあの車だってかなり高かったよ」
「せやなー」
そこには横転してプスプスと煙が上がっているスポーツカーがある、見るからに破損具合が激しく廃車は確定だろう、オイルが漏れてないのだけが幸いだ。
「よお、助かったぜ」
そこに、筋肉質でスキンヘッドの色黒の男性が近づいてくる、スポーツカーで突撃してた男だ、この人は無傷のようで良かった。
「こちらこそ、助かりました」
実際この人がいなければテロリストごと全滅だし、シールドが貼られてないタワーの上面ガラスが破壊されて宇宙空間剥き出しになっていたことだろう。
「ウチに欲しい人材だよ…所属は?」
「俺たち二人はオモイカネ所属です」
「オモイカネの…? あぁってことはお前さん達が獅子座のエースキラーか」
そこまで情報が伝わっているのか。
「えっと、どうして?」
「オモイカネの男女コンビのパイロットがやったってリヒトから聞いてたからな」
「リヒトさんから?」
「あぁ、俺はパンゲアの第二艦隊エース、ベッグだ、よろしく」
「スノウです、よろしくお願いします」
「アイです」
三人でそれぞれ握手を交わしあう、ここにパンゲアのエースも遊びに来てたのか。
「まったく、噂通りいい度胸してるよ」
「アハハ、おおきに」
アイは力なく笑う、結構今回のは精神的にも疲れてるようだ。
「ベッグさんはどうしてここに?」
「相棒と観光にだよ、メカニックなんだが来てみたいと言われてね」
「あぁ、俺と同じですね」
「なるほど、奇遇だな」
暫くしてエレベーターが復旧し、大量の正規軍と医療スタッフが入ってくる。
「おっと、警察と軍人のお出ましだ、じゃあここでな、行こうロニー!」
ベッグさんは待たせていた相方の男性の肩を叩きながら去っていく、それからの軍が手動で場は仕切られて、怪我人はスグに搬送され俺達はあとで事情聴取されると言われて連絡先と軽い調書取られただけで解放された、それでも2時間ぐらい時間を奪われたけど。
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