試行錯誤。(3)

 武器は、近接武器だけ見送って、実弾兵器のカスタマイズとエネルギー兵器を受注した、カスタム品なので後で郵送して三週間後には届くらしい、逆に機体用のパーツは在庫がまだあったらしく、今スグ用意してくれた。


「どうする?」

「とりま一回戻ってここにウチの機体送らなって思ったんやけど、さっきクガさんと相談したらやっといてくれるって」

「へー、良かった……っと」

 渡されたパーツを車の後部座席に放り込む、月だからと言っても数十キロあるようなパーツを運ぶのは結構腕と腰が疲れる。


「…そっか、じゃあ尚更どうする?」

「んー、わりと今日の目的終わったし、試験運転とかも出来ひんし」


「それじゃあデートでもする?」

 なんとなくだけど、冗談まじりに言ってみた。


「ええでー、どこ行くん?」

「どこに行きたい?」

「決めてなかったんかいっ!」

「ほら、買い物が早く終わると思ってなくて」

「あー確かにそやなぁ、ウチもこっから納品で一日潰すと思ってたし」


「だろ? だからよ」

「せやったらとりあえずご飯食べに行かへん?」

「いいね、ピザでも食べる?」

「ええやん、あん時食べれへんかったし」


 受けたようで良かった、こういう時は高い石窯のピザ屋にでも行くんだろうけど、普通の屋台ピザの方がいいだろう、あの店は避けて。


「着いたよ」

 最初にアイと会ったフードストリート、気の知れた仲で来るとまた違った感じがする、デートと言う感じは薄れるけど、というより最初からデートとは名ばかりで友人同士で食べ歩きする様な感覚だ。


「とりあえずピザから?」

「そうだな、イタリアンで」

 それから二人で食べ歩きながらブラブラと繁華街を歩き回ったりして、適当に時間を潰していく、途中でガンショップを見つけて入ってみたり。


「そういやスノウって銃って持ち歩いてるん?」

「いや、持ってないけど」

「持っといたほうが良いで、拳銃ぐらい」

 そうってショーケースを指差す、当然ソコには拳銃が並んでいる。


「そうか?」

「そうやで、ここ平和に見えるけど銃社会やし、なにより最前線やねんで?」

「言われてみれば」


 そうだった、こんな重力以外は地上と変わらない町並みでも、ここは最前線基地がある月の中心都市の一つ、いつ敵が侵入してきてテロ攻撃をしてきてもおかしくない、地上よりも危険な場所だ。


「じゃあ、持っとく」

 軍人に人気の装填数15発のスタンダードで小型の拳銃を選ぶ。


 月面で武器を購入するのは実は難しい、

 まずその基地や都市の所有する国の国籍を持っているかどうか、…残念だけどこれは俺は持ってない。


 ただ、これがなくても特例で所持と購入が認められている例がある、それが前線での実戦経験があり、一定以上の戦果をあげているかどうかだ。


 普通、これのおかげで新兵は長い間銃を所持できないものだけれども、幸運なことに最初の実戦経験で自分は一定以上の成果を上げれている。値段も手頃だしホルスターも一緒に購入して腰につける、けどできれば一生使いたくないもんだな…と心のなかで苦笑いする。


「ええやん、実際ウチも使ったことはないんやけどね」

「できれば使いたくないさ、というかそういう場面にオフで遭遇したくない」

「あはあ、そりゃごもっともや」

 二人で冗談を言いつつガンショップを後にした頃には、標準時刻ではもう夕方は過ぎている、そろそろいい時間だ。


「さて、そろそろ艦に戻る?」

「んー、そう言えば後一箇所行きたい所あるんやけどいい?」

「いいよ、どこ?」

「あっこ」

 アイが指した方向には、月面のドームシティーを支えるタワーがあった。


「タワー?」

「せや、タワー」

「いいけど、またなんで」

 タワーと言えばデートスポットの代名詞みたいな場所で、夜景だとか高級レストランがあるし要するにカップルだらけだ。


「いっぺん夜に行ってみたかったんやけど、あそこって一人で行きづらいやん?」

「確かに」


 特に、月は1日が600時間以上あり、夜も300時間以上あるのだが一応生活サイクルに配慮して人工灯や天上にあるガラスの遮光化で朝昼晩に配慮してくれている、今の時期は月は夜に入った頃で人工灯は消えて天然の夜からの夜景が見える、特に人気のある時期だ。


「特にこっからカップルも増えるんやし」

「なるほどね、じゃあ行ってみるか」

 自分も興味がなかったわけではないので車をタワーに走らせる、ついでに食事もそこでとろう、今なら多少お金もあるし。


 タワーには人が多かった、さすが一番高いセントラルタワーだけあって6基あるエレベーターに乗るのに30分待ちだ。


「結構待つんやね」

「だな」

「手っ取り早く階段使う?」

「それはやめとこ」


 階段は待たずに登れるけど2800段もある、低重力で地上よりもちょっと楽だとは思うけど、流石に登る気にはなれないかな…。


 30分待って1分ちょいのエレベーターに登ってタワーの頂上につく、最上階のフロアは真ん中に大きな大黒柱を囲んで360度どころか頭上もガラスになっている。

「うっわー、これが例の夜景」

 アイはつくなり外周のガラスに駆けていき、手を付き夜景を楽しみ始める。


「さっすが高いとこはちゃうねぇ、あっこ晴れの海まで見える」

「あー、あの遠くに見えるドームか」

 晴れの海は、静かの海の隣りにあるドーム都市で直接ドーム同士は隣接していないが、6車線道路がある通路で繋がっている。さすがにここからだと、かなり小さく見えるだけだけど。


「静かの海基地は…こうみると普通に上からやとわからんね」

「でっかい倉庫だからなぁ、見た目は」

 静かの海基地は正規軍の機密事項もある関係で屋内ドックになっていて、外からだと全く中の様子がわからない、とは言え寄港待ちの宇宙船が整列しているのを見るのは中々綺麗だとは思う。


「逆に工場地帯って結構綺麗やね」

「うん、なんか月面で一番SFって感じする」

「今思いっきり昔のSFの世界やねんけどね」


 言われるとそうなんだけど、やはり工場夜景というのはスケール感や独特な雰囲気があってまた違った迫力がある、勿論眼下にある都市の夜景も綺麗だ。

「あれ一個一個が残業の光…」

「急に現実に戻すのやめない?」


 オフィス街の光は仕事の光だと言われてしまうと元も子もない、一応実は各種企業に夜景のために規定時間まで点灯すると補助金が出るらしいから残業とは限らない、観光のための灯りと言うとそれはそれで雰囲気ぶち壊しな気がするけど。


「うん、でもやっぱ見に来れて良かった」

 そう言って夜景を見るアイの目は優しく、可愛く見えてくる、うんやっぱり黙ってれば可愛いんだよなアイって、黙ってれば。


「…なんか失礼な事考えてへん?」

「別に」


 ジッと見てたせいか、アイにあらぬ疑いをかけられてしまった、アイからすれば失礼かも知れないけど、中身はロマンたっぷりのだし。

「それじゃあウチに見惚れてたとか?」


 確かにその通りといえばその通りなんだけど、素直にそう伝えるのは恥ずかしいし、からかわれるのが目に見えている。

「いやー、あれやで、いくらウチが美人やからって…」

 ほら、何も言ってないのに調子に乗り始めてる。


「ダメやでー? あれー、おーいスノウさーん?」

 何を言おうか考えてたら勝手に盛り上がってる、普通に鉄砲玉って思ってたとう伝えたほうが良いんじゃないかな?


「なに?」

「ほんとにウチに見惚れてたん…?」

「いや、アイって鉄砲玉なんだよなーって思ってた」

「失敬な!」

 あぁ、うんなんかいつもの様子の方が安心する、怒られてるけど。


「もー、ウチやって好きで鉄砲玉言われてるんとちゃうんやって」

「あはは、知ってる」


「ウチにだってちょっとぐらい魅力はあるんやで?」

「自分でちょっとしかないって自覚してるの?」

「なにをー! 否定できひん!」

 こうして軽口を言い合ってる方が気が楽でいいなと思う。


「…ちょっとかどうか見てみる?」

 ただそれでも少し調子に乗って聞いてくる、ここで見れるわけないだろ。

「場所を考えろよ」

 周りには大量の人が、カップルだけじゃなく当然スタッフや警備員だっている。

「あはは、せやなー朝あのシチュエーションで手を出してこーへんスノウにはそんな度胸なかったわー」


 仕返しとばかりにアイが今朝のことを引き合いにからかってくる。

「…悪かったな」

「まー、そんなスノウやからウチも安心して無防備でおられるから」

 やーいやーいと、これみよがしに胸元の布をパタパタとしてアピールしてくる、さすがにここまでされたらちょっと反撃したくなってくる。


 ―――ドン


「ほんとに手を出すよ?」

 両手でアイの肩を持ってガラスに押し当てジッと見つめる、効果はあったようで、騒がしかったアイは「ひゃうっ!」と小さく声を上げて黙る。


「あれ? 本当にその気になってもうた?」

 目を点にしながら、アイは引きつった笑いを浮かべる。

「だとしたら?」

 あまりに見ないアイの表情に、もう少しからかってやろうという気持ちが湧く。


「………そっか」

 アイはコッチを見つめて、ゆっくり目を閉じた。


………あれ、これって覚悟決められた?


 さすがにこうなると引き下がれない、急に恥ずかしくなってきて心臓が脈打ち始める、もうちょっとアイならからかってきたりすると思ったけど、すんなりと受け入れ体制になっている、背後の夜景の効果もあってアイが凄くかわいい。


 これはもう、キスするしかない。

 そう思い、自分も目を閉じ、ゆっくりと顔を近づけようとする―――。



 ドガン!!



 その瞬間、無視できない程の轟音がガラスの向こう側から聞こえる。

「な、なんや!」

「っ!」


 二人共慌てて外の様子を確認する、これは惜しかった言うべきか、助かったって言うべきかどっちなんだろう。

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