最終章 《奇襲》

――シノビ一族の隠れ里に辿り着いた討伐隊は飛行船から拠点を移し、物資を運び出す。場合によってはこの隠れ里に撤退する可能性を考慮し、次々と必要物資が運び込まれる。



「これで荷物は積み終えたよ」

「じゃあ、これを運んだらまた戻ってきますね」

「ウォンッ!!」



荷車に荷物を運び終えると、騎士達の代わりにビャクに乗ったナイが物資を隠れ里に届けに向かう。飛行船には馬などの類は載せておらず、荷物の運搬に一番役立つのはビャクだった。


現在の飛行船は聖女騎士団が残っており、この飛行船を守るために彼女達は留守役を任されていた。無論、牙竜討伐の際は聖女騎士団の何名かは同行する事になっているが、飛行船の守備を疎かにするわけにはいかず、大半の騎士はここへ残る。飛行船から去っていくナイとビャクに手を振て見送ると、テンは改めて他の者に振り返って話し合いを行う。



「テン、調べてみたがこの近くに人が居た形跡はない」

「そうかい……アンとやらは本当にここへ来るのかね」

「もしかしたら私達が飛行船で追い抜いたかもしれません。仮に既に訪れていたとしても、飛行船を見て私達がここへ来た事に気付いているはずです」

「レイラの仇……絶対に見つけ出して殺してやる!!」

「落ち着きな、ルナ……皆、気持ちは同じだよ」



魔物使いのアンがシノビ一族に伝わる古文書を盗み出し、牙山に封じられている妖刀を狙いにムサシノ地方へ来る事は間違いなかった。実際にアンの行方を追っていた聖女騎士団はアンが異様な速度で街を転々と移動している事は判明しており、明らかにムサシノ地方へ近付いていた。


仮にアンが空を飛べる魔獣を従えていた場合、既にムサシノ地方へ移動している可能性はある。しかし、今の所は聖女騎士団が調べた限りでは森の中には人が居た形跡は残っていない。



「それにしても……気になるのはアンとやらがどうやってレイラを殺したかだ」

「レイラの死因は鋭い刃物による失血死です。ですが、聖女騎士団一の剣士である彼女が後れを取るなんて……」

「魔物使い如きにレイラが殺されるはずがない……もしかしたら協力者がいたのかもしれないね」

「凄腕の暗殺者か、あるいは剣士か……」



レイラは聖女騎士団の中では剣士の中では団長であるテンを除けば一番の腕前を誇り、彼女に勝てる人間など王都の中でも数えるほどしかいない。魔剣の力を使わないのであればドリスもリンもレイラには及ばない。


そんなレイラがアンに殺されたとは考えられず、彼女を殺したのは何者なのか未だに判明していない。レイラが死んだ後にテンは闇ギルドの連中を探し出して彼女を殺した犯人を捜そうとしたが、闇ギルドの人間達は何も知らず、少なくともアンと闇ギルドの間には何も関りはなかった。



「レイラは王妃様と最も近い剣士だ。実際、騎士を辞めた後もレイラは鍛錬を続けてより強くなっていた……そんなあいつが殺されるとは未だに信じられない」

「くそっ!!魔物使いめ!!きっと卑怯な手を使ってレイラを殺したんだ!!絶対に見つけ出してやる!!」

「だからあんたは落ち着きなって……といってもここでじっとしていても埒が明かないね。もう一度この近くを調べて……」



テンが指示出そうとした時、何処からか奇妙な音が聞こえた。その音はまるで虫のは音を想像させ、聞いているだけで変な気分を抱く。



「何だい、この音は……」

「虫か?いや、だがそれにしては……」

「う〜……うるさいぞ!!どっか行け、虫!!」

「待ってください、上の方から音が……!?」



エルフであるアリシアは他の者よりも聴覚が優れているだけに音が鳴る方向にいち早く気付き、彼女は驚いた表情を浮かべて空を見上げる。他の者たちも彼女に連られて上空に視線を向けると、そこには想像を絶する存在が浮かんでいた。




――キルルルッ!!




空を浮かんでいたのは巨大な「蟷螂かまきり」を想像させる姿をした化物であり、羽根を羽ばたかせながら飛行船の上空に浮かんでいた。その姿を見たテン達は呆気に取られ、すぐにイリアが正体を見抜く。



「あ、あれは……!?どうしてこんな場所に!!」

「昆虫種だって!?」

「まさか、あれがそうなのか!?」

「で、でかっ!?虫なのか、あれ!?」



昆虫種という言葉にテン達は驚き、名前は聞いた事があるがテンでさえも見るのは初めてだった。昆虫種はこの王国には本来生息しない魔物であり、しかも飛行船の上空に現れた蟷螂型の昆虫種は色合いが緑ではなく黒だった。


飛行船に現れたのは蟷螂型の昆虫種のであり、唐突に現れた昆虫種にテン達は戸惑うが、彼女達も歴戦の猛者なので冷静さを取り戻すと迅速に対応する。



「気を付けな!!こいつ、もしかしたら魔物使いが使役している魔物の可能性もある!!いや、きっとそうだ!!」

「本当か!?」

「ただの勘さ!!だけどこういう時のあたしの勘は……外れた事がないんだよ!!」



テンは漆黒の蟷螂を見て魔物使いが使役する魔物だと判断し、彼女は躊躇せずに空を飛ぶに対して近くに置いてあった木箱を放り込む

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る