異伝 《城壁での攻防戦》

「ゴオオッ!!」

「ぐううっ!?」

「くそ、こいつら何体いるんだ!?」

「抑えろ!!何としても街の中には入れるな!!」



城壁を上り詰めようとしてくるロックゴーレムに兵士達が槍を突き出すが、いくら突こうと岩石の外殻で覆われたロックゴーレムには刃が通らない。


既にロックゴーレムの何体かは城壁を上り詰め、冒険者と戦闘を繰り広げていた。冒険者の中にはロックゴーレムと戦闘した経験がある者も居たが、彼等が戦ってきたゴーレムと比べても今回の敵は戦い方が異なる事に戸惑う。



「ゴオオッ!!」

「くそっ、何でだ!?どうして躱せる!?」

「な、何なんだよこいつら!!」

「ちょっと、退きなさい!!私の魔法で吹き飛ばしてやるわ!!」



剣士と槍使いの冒険者の攻撃をロックゴーレムは回避すると、見かねた魔術師の女性が杖を構える。照準を定めてロックゴーレムに向けて砲撃魔法を発動させた。



「フレイムランス!!」

「ゴオッ!?」



魔術師の杖から魔法陣が展開されると、それを見たロックゴーレムは腕を交差して片膝を着く。相手の攻撃魔法が発動する前に防御の態勢に入ったロックゴーレムをマホは上空から確認する。


魔法陣から槍状の火炎の塊が発射されると、その攻撃に対してロックゴーレムは正面から受ける。火属性の魔法は火力が高く、並のゴーレムならば吹き飛ばしてもおかしくはない。



「ど、どう!?粉々にしてあげたわ!!」

「おおっ、流石だな……うわっ!?」

「ゴオオッ!!」



ロックゴーレムが爆炎に飲み込まれた光景を確認して女性は勝利を確信したが、黒煙の中からロックゴーレムは姿を現すと、近くに立っていた冒険者の頭を掴む。



「うぎゃあああっ!?」

「そ、そんなっ!?」

「魔法が……効かないのか!?」

「ゴォオオオッ!!」



火属性の砲撃魔法をまともに受けたにも関わらず、ロックゴーレムは両腕の岩石の外殻が少し剥がれた程度で殆ど損傷はなく、それどころか爆炎で加熱した肉体を利用して冒険者の一人を掴む。


過熱した腕に掴まれた冒険者は悲鳴を上げ、高温を放つ岩石を直に当てられたに等しく、ロックゴーレムが手放した時には冒険者は酷い火傷を負っていた。しかもロックゴーレムは倒れた冒険者の背中を踏みつけようとした。



「ゴオオッ……!!」

「ひいいっ!?」

「や、止めろっ!!」

「いやぁっ!?」



仲間を助けようと他の冒険者が動く中、魔術師の女性は悲鳴を上げるだけで何もできなかった。そんな彼等の様子を見てマホは見ていられず、ロックゴーレムに向けて急降下する。



「ふんっ!!」

「ゴアアッ!?」

『えっ!?』



飛行魔法を発動している状態のマホは周囲に「風の膜」のような物を纏っており、その状態で突っ込めばロックゴーレムに直接触れずに攻撃を行える。ロックゴーレムは予想外の攻撃で城壁から吹き飛ばされて落下してしまい、それを確認したマホは冒険者達に声をかけた。



「大丈夫か、お主等?」

「あ、ああ……」

「ありがとう……けど、君は誰だ!?」

「待って……この人、何処かで見た事が……あっ!?」



自分達を助けてくれたマホを見て冒険者達は戸惑うが、魔術師の女性はマホの事を知っていたのか驚いた表情を浮かべる。そんな彼女にマホは近づき、一言だけ注意を行う。



「魔術師は常に冷静でなければならん、悲鳴を上げる暇があれば次の行動を取れ」

「え、あっ……は、はい!!」

「うむ、では儂は行くぞ」



仲間の危機に何もできなかった女性にマホは注意すると、彼女は城壁の様子を確認して既にロックゴーレムの大半が乗り込んでいる事を知る。この数を相手にするのはきついが、それでも街を守れるのは彼女しかいない。


冒険者達は野生のロックゴーレムとは異なる戦法を取るロックゴーレムに手間取っており、兵士達に至ってはロックゴーレムとの戦闘が初めてらしくて上手く対応できていない。このままでは大勢の犠牲者が生まれる可能性が高く、マホは無理をしてでもロックゴーレムと戦う。



(儂の魔力がどこまで持つか……やるしかあるまい)



ここまでの戦闘でマホは何度も飛行魔法を使用しており、正直に言えば魔力はもう余裕がない。一応は魔力回復薬は持ち込んでいるが、生憎と回復薬と違って魔力回復薬は即効性はない。即ち、魔力が切れればマホはロックゴーレムに対処はできない。


再び杖の先端に風属性の魔力で形成した「渦巻」を纏わせ、戦闘態勢に入ったマホはロックゴーレムの集団と向き合う。しかし、先ほど仲間が城壁から叩き落されたのを確認したロックゴーレム達はマホを警戒し、防御の態勢を取る。



『ゴォオオオッ!!』

「こ奴等……儂の魔力が切れるまで粘るつもりか」



マホは冷や汗を流しながらロックゴーレムの集団と向き合い、早くエルマかフィルが援軍に訪れるのを期待しながら杖を構える。

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