異伝 《擬態》
――ゴノの街はトロールの群れの襲撃を受けて以降、現在は他の街から派遣された警備兵や冒険者も加わって復興が行われていた。トロールが再び襲撃してくる可能性を考慮し、破壊された城壁の修繕と街周辺の地域の見回りが強化されていた。
「こいつは思ってたよりも酷いな……直すのにどれだけ時間が掛かる事やら」
「泣き言を言っている場合じゃないだろ、こうして話している間にも奴等が戻ってくるかもしれねえんだぞ」
「大丈夫だろ、あの弓使いの魔導士様が何とかしてくれるって」
「あれ?そっちは弟子じゃなかったか?確か小さい方が魔導士様だったような……まあいい、まずは瓦礫の撤去からだな」
城壁に集まったのは兵士達はまずは瓦礫の撤去を行い、破壊された城壁の修繕を急ぐ。少し前までは魔物の襲撃に怯えていた彼等だったが、現在は他の街からの援軍が到着して警戒が緩んでいた。
現在のゴノの街は大勢の警備兵と冒険者、更には王国内で一番の魔術師と謳われるマホも滞在している。そのために彼等はトロールの集団が再び現れたとしても、魔導士のマホが何とかしてくれると勝手に信じていた。しかし、その油断が悲劇を引き起こす。
「おいしょっと……ふうっ、巨人族の人手があればもっと楽に作業が進むんだがな」
「我慢しろ、これも俺達の仕事だ……ん?」
「どうかしたか?」
「いや、気のせいかな……この瓦礫、人の顔みたいな皺が浮き上がったような……」
「はあっ?」
破壊された瓦礫の撤去作業中、一人の兵士が瓦礫に異変を感じ取って他の人間も瓦礫を覗き込む。すると瓦礫には確かに人間の顔のような物が浮き上がっており、それを見た兵士達は不気味に思う。
「お、おいおい……何だこれ?誰かの悪戯か?」
「ぐ、偶然だろ……人の顔に見えるだけだ」
「不気味だな……さっさと運び込むぞ!!」
人面のような物が浮き上がった瓦礫を前にして兵士達は戸惑う中、一人の兵士が意を決したように瓦礫を運び出そうとした。しかし、次の瞬間に人面の目元の部分が赤く光り輝き、瓦礫が人の形へと変形して近付こうとした兵士を殴りつける。
「ゴォオオオッ!!」
「へっ……ぐへぇっ!?」
「うわぁあああっ!?」
「な、何だぁっ!?」
「ば、化物だっ!!」
瓦礫だと思われた物体の正体は「ゴーレム」である事が判明し、肉体の表面に張り付けていた瓦礫を引き剥がすと、内部から岩石の肉体で構成されたロックゴーレムが出現する。
ロックゴーレムは破壊された城壁の瓦礫に擬態して隠れていたらしく、自分の身体に張り付けていた瓦礫を引き剥がし、自分に近付いた兵士達に攻撃を仕掛けた。
「ゴオオッ!!」
「ひいいっ!?」
「うわぁっ!?」
「ち、近寄るなっ!!」
兵士達は混乱して冷静に対処ができず、次々とロックゴーレムに殴り飛ばされる。しかし、ここで撤去作業を手伝っていた巨人族の冒険者が駆けつけてくれた。
「下がっていろ!!そいつは俺が何とかする!!」
「た、助けてくれぇっ!!」
「ゴオオッ……!!」
巨人族の冒険者が駆けつけると兵士達は彼に助けを求め、ロックゴーレムは自分と同じぐらいの体格の巨人族の冒険者と対峙する。冒険者はロックゴーレムに対して背中に抱えていた棍棒を構え、全力で叩き付けようとする。
「喰らえっ!!」
「ゴオオッ!!」
「な、何だと!?」
ロックゴーレムの頭部に目掛けて冒険者は棍棒を叩き付けようとしたが、その攻撃に対してロックゴーレムは冷静に1歩だけ下がって攻撃を躱す。まるで武芸者のような立ち回りで最小限の動作で攻撃を躱したロックゴーレムに冒険者は驚愕した。
しかもロックゴーレムは攻撃を躱すだけではなく、攻撃が空振りした巨人族の冒険者に向けて近付き、地面に振り下ろされた棍棒をロックゴーレムは踏みつける。棍棒を踏みつけられた冒険者は反撃も防御も封じられ、ロックゴーレムは冒険者の顔面に拳を放つ。
「ゴガァッ!!」
「ぐふぅっ!?」
「ああっ!?そ、そんなっ……」
「巨人族が一発で……!?」
巨人族の冒険者はロックゴーレムの一撃を受けて吹き飛び、その光景を目にした兵士達は顔色を青ざめる。その一方で一撃で冒険者を打ち倒したロックゴーレムは他の兵士に視線を向け、冒険者が手放した棍棒を持ち上げる。
「ゴオオオオッ!!」
「嘘だろっ!?」
「ぶ、武器まで……うわぁあああっ!!」
「馬鹿、逃げるな!!」
攻撃を躱して反撃を繰り出しただけではなく、冒険者から奪った棍棒を利用してロックゴーレムは兵士達を蹴散らす。慌てて城壁に集まっていた他の兵士や冒険者が対処しようとするが、ここで別の場所からも悲鳴が上がる。
『ゴォオオオッ!!』
「ひいいっ!?」
「こ、こっちにも現れやがった!!」
「何がどうなってるんだ!?」
他の場所からもロックゴーレムの鳴き声が響き、どうやら瓦礫に化けて潜んでいたのは1体だけではなく、数体のロックゴーレムが瓦礫に擬態して待ち構えていた事が判明した――
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