第793話 大将軍の実力
王国騎士の中でも最強と謳われ、聖女騎士団の初代団長ジャンヌと渡り合う実力を持つと呼ばれた男、それがロランである。ロランは目の前に現れたナイに対してその力を見計らうため、自分の魔剣「双紅刃」を取り出す。
ナイは初めて見る魔剣に戸惑い、柄の両端に刃が取り付けられた武器など今までに見た事がない。だが、すぐに彼は考えを切り替えて旋斧と岩砕剣を構える。
(この人に下手な小細工は通じない……やるしかない!!)
もう戦闘は避けられる雰囲気ではなく、ナイは旋斧と岩砕剣を構えると、ロランは笑みを消して真剣な表情を浮かべる。二人の迫力に周囲の人間は慌てて距離を取り、リノも吹き飛ばされたルナを担いで距離を取る。
「ルナさん、離れましょう!!」
「う、う〜んっ……」
気絶したルナをリノは急いで運び込み、改めてナイはロランと向かい合うと、まずは最初に仕掛けたのは彼の方だった。
「やああっ!!」
「ふんっ!!」
『うおっ!?』
両手の大剣を同時に振り下ろしてきたナイに対し、ロランは正面から受け止めた。激しい金属音と軽い衝撃波が周囲に広がり、冒険者、警備兵、騎士達は驚愕の表情を浮かべた。
ナイは全力の一撃を叩き付けたにも関わらず、ロランはそれを正面から受け止めた事に驚く。まさか人間の剣士の中でナイの攻撃を正面から受け止める者などテンやルナ以外にはいなかった。しかも今のナイは二人よりも遥かに力を増しており、それにも関わらずにロランは正面から受ける。
(この人、強い!?)
(何という剛力……!!)
自分の全力の攻撃を受け止めたロランにナイは驚くが、その一方でロランは自分の痺れた腕を見て目を見開く。ナイの腕力は巨人族に匹敵、あるいはそれ以上の力を誇り、ロランは即座にこのままでは力負けすると判断してナイの腹部に蹴りを放つ。
「離れろっ!!」
「ぐふっ!?」
ロランに蹴り込まれたナイは距離を取り、ミスリルの鎖帷子が壊れていたので生身の状態で受けてしまった。だが、耐え切れない程ではないのでナイは両手の大剣を今度は交互に繰り出す。
「やああっ!!」
「ふんっ!!」
旋斧と岩砕剣の連続攻撃に対してロランは手元で双紅刃を振り回し、彼の攻撃を弾き返す。その攻防を見ていた者達は呆気にとられ、あまりの二人の激しい動きに目で追いつくのがやっとだった。
大剣の攻撃を受ける度にロランは手元が痺れ、ナイの予想以上の腕力に驚くが、それでも彼は一歩も引かない。一方でナイの方はどんな攻撃を繰り出しても弾き返すロランに対して焦りを抱く。
(この人、強い……多分、今まで戦った誰よりも!!)
流石に大将軍というだけはあり、その実力はナイがこれまでに戦ってきたどんな武人よりも技量は高く、圧倒的な強さを誇る。下手をしたらゴウカにも匹敵する力を持っているかもしれず、少なくとも正攻法で勝てる相手ではない。
(こうなったら!!)
ナイは岩砕剣を地面に突き刺すと、その様子を見てロランは訝し気な表情を浮かべるが、ここでナイは掌を構えて魔法を発動させる。
「
「むっ!?」
『うあっ!?』
陽光教会で世話になっていた頃に教わった魔法を発動させ、ナイの手元に光球が誕生すると、閃光の如く凄まじい光を放つ。その結果、ナイとロランの戦いを見守っていた者は視界を封じられた。
光球を利用した目眩ましでロランの動きを封じ、岩砕剣を再び手にしたナイは彼に向けて両手の大剣を放つ。しかし、目元を閉じた状態でロランはナイの攻撃を受け流す。
「甘い!!」
「うわぁっ!?」
瞼を閉じた状態でロランはナイの繰り出した二つの大剣の攻撃を防ぐと、それに対してナイは驚愕し、確かにロランは目を閉じているのにまるでナイの動きを読み切ったように攻撃を防いだ。
ナイは目が見えているのかと思ったが、ロランは完全に目を閉じた状態で対応しており、その様子を見てナイはある予想を立てる。
「まさか……心眼!?」
「下らん真似をしおって……かああっ!!」
リンダやナイと同様にロランは特殊技能の「心眼」も習得していたらしく、双紅刃を持ち上げて振り回すと、回転する事に両端の刃に変化が起きた。
双紅刃には地属性の魔石が取り付けられており、回転する度に両端の刃の部分に地属性の魔力が宿り、やがて紅色の魔力に刃が包み込まれる。それを見たナイは嫌な予感を覚え、距離を取ろうとしたがロランは攻撃を繰り出す。
「がああっ!!」
「うわぁあああっ!?」
「ナイさん!?」
まるで猛虎の如く、凄まじい咆哮と気迫を放ちながらロランは回転させて勢いを増した双紅刃を振り下ろし、ナイに向けて刃を放つ。その攻撃に対してナイは咄嗟に瞬動術を発動させて後ろに跳ぼうとしたが、いつの間にか建物の壁を背にしていた。
どうやらロランはナイが逃げる事を予測して誘導していたらしく、背後を絶たれたナイはロランの一撃を受けるしかなく、両手の大剣で防ぐしかなかった。
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