第791話 漆黒の雷

『ふうっ……ふうっ……シャドウ、邪魔をするなっ!!……おいおい、それは約束が違うだろ……あんたはもう、俺には逆らえないんだよ……くそっ!!』



シャドウは教会の中で一人で佇み、唐突に独り言を行うかのように語り始める。その様子を雷から逃れたルナは観察し、戸惑う。



「な、何だあいつ……一人しかいないのに何言ってんだ?独り言か?」

「シノビ、しっかりしてシノビ!!」

「ううっ……」



ルナの隣では電撃を受けて気絶したシノビにリノが語り掛けるが、彼は目を覚ます様子はない。リノは彼に触れようとしたが、黒色の電流は未だに彼の身体から迸り、下手に触れると感電する事は明らかだった。


ゴウカのドラゴンスレイヤーと打ち上げるリョフの武器が魔剣の類だとはリノも気づいていたが、まさかこれほどの凶悪な能力を持っているとは思いもしなかった。しかもリョフの攻撃によってゴウカは倒れ、動かない。



(噂ではゴウカの身に付けている鎧は「アダマンタイト」と呼ばれる魔法金属のはず……高い魔法耐性を誇ると聞いていますが、金属である以上は電撃に弱かったんでしょうか)



シノビの事を心配しながらもリノは他の人間の様子を観察し、誰も死んでいない事を祈る。その一方でルナはどうすればいいのか分からず、焦りを抱く。



(み、皆がやられた……戦えるのは私だけか?ど、どうすればいい……!!)



いつもの彼女ならば仲間がやられれば怒りのあまりに敵に突っ込むが、今のリョフは得体が知れず、下手に近付く事すら出来ない。それに無防備に飛び込んでも先ほどの雷撃で返り討ちにされるのは目に見えており、ルナは怯える。


死ぬ事など怖くは無いと思っていたルナだが、今の彼女はリョフに心底を恐怖を抱いていた。精神面が幼いルナではリョフに立ち向かうのは厳しく、しかもリョフはシャドウによって操られていた。



『はあっ、はあっ……何だ、身体が思うように動かん。何をした、シャドウ!?……おいおい、俺のせいじゃねえよ。馬鹿みたいにあんなに魔剣の力を使えばそうなるのは当たり前だろう。お前さんの死霊石に送り込んだ俺の魔力だけじゃ限界があるんだよ……何だと!?』



独りごとの様にぶつぶつと語るリョフの様子をリノとルナは隠れながら伺い、話の内容から察するに先ほどの雷戟の攻撃によってリョフも相当な負担だったらしく、魔力が尽きかけていた。


現在のリョフはシャドウによって蘇ったが、そのシャドウの魔力がなければ動けない。事前に死霊石に取り込んだ魔力量だけでは限界があり、何処かでシャドウに魔力を補給してもらう必要があった。



『ぐうっ……聞こえている、決着は後だ!!必ず、戻ってくるからな!!』

『ぐううっ……ま、待てっ!!何処へ行く……!!』



ゴウカに対してリョフは怒鳴りつけると、その声を聞いたゴウカは感電して身体が痺れた状態でありながらも起き上がり、必死にリョフを止めようとした。だが、リョフを操るシャドウはこれ以上の戦闘を許さず、そのままリョフは教会から出ていく。


残されたリノとルナは逃げ去っていくリョフを見て安堵するが、周囲の光景を確認して顔色を青ざめる。先ほどのリョフの放った雷によってルナを除いた聖女騎士団の王国騎士は戦闘不能、シノビも動けない状態だった。



「これ、どうするんだ……?」

「わ、私に聞かれても……」



倒れている者達にルナとリノはどうすればいいのかと悩んでいると、ここで遠くの方から無数の足音が聞こえてきた。それは警備兵の包囲を突破した冒険者達の姿もあった。



「お、おい見ろ!!あそこに人が倒れているぞ!?」

「この人達、聖女騎士団じゃないのか!?どうしてこんな場所に……」

「何でもいい、とりあえず運び出すぞ!!」

「あっ……ま、待ってください!!私達も手伝わせてください!!」

「ルナも運ぶぞ!!」



冒険者達の姿を見てルナとリノは安堵すると、二人も彼等と共に聖女騎士団を安全な場所に運び出すために手伝う。しかし、この時に別の方角からも駆けつける足音が鳴り響き、それを見たリノとルナは目を見開く。



「待て!!その方達に気軽に触れるな!!我々が保護する!!」

「け、警備兵!?」

「くそっ、また俺達の邪魔をするつもりか!!」

「上等だ、掛かってきやがれ!!こっちはアッシュ公爵のお墨付きだぞ!?」

「アッシュ公爵?どういう事ですか!?」

「ああ、もう……何が何だか分からないぞ!?」



警備兵も現れて更に混乱が深まり、いったい何が起きているのかとルナは混乱しかけた時、更に街道に大量の馬の足音が鳴り響く。


冒険者も警備兵も馬の足音を聞いて振り返ると、そこには猛虎騎士団の旗を掲げた騎馬隊が駆けつけ、それを見た者達は驚愕の表情を浮かべた。一番に驚いたのはリノであり、猛虎騎士団が王都にまで訪れている事に彼女は初めて知る。

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