第790話 ジャンヌの仇

「奴め……今まで何処に隠れていた!!」

「もう死んだかと思っていたが……生きていたのか」

「いや……あれは本当に生きているのか?」



遂に見つけたジャンヌの仇に対してアリシア達は怒りを抱くが、同時にリョフの今の姿に戸惑いを隠せず、どう見ても今のリョフは普通ではない。


言動はリョフで間違いないが、その姿はかつての彼とは大きく変わっており、まず昔のリョフはあんな漆黒の鎧など纏っていなかった。しかも現在の彼は全身から闇属性の魔力を放ち、あれでは先日に聖女騎士団が遭遇した「イゾウ」と同じ姿だった。



「あれではまるでイゾウとやらと一緒ではないか……」

「一緒、というよりも同じじゃないのか?」

「という事は……やっぱりい奴は死霊人形か?」



3人はリョフの変貌ぶりを見せつけられて戸惑い、今現在のリョフはどう見ても普通の状態ではない。そもそもリョフに闇属性の魔力の適正があるなど聞いた事もなかった。


リョフの変貌ぶりを見て3人は彼が「死霊人形」と化したと判断し、既にリョフが故人である事に驚く。ジャンヌが死亡してから3人は秘密裏に行方不明となったリョフを探したが、手がかりすら掴めなかったため、彼がもう既に死んでいるのではないかと予想はしていた。


しかし、目の前に死んだと思われたリョフが現れ、彼女達はジャンヌを殺された恨みを思い出す。武人としてはゴウカとリョフの戦闘に介入するなど無粋だとは理解しているが、それでも慕っていたジャンヌを殺した男が現れて冷静でいられるはずがない。



「……隙を見て奴を討つ、お前達も力を貸してくれるか?」

「本気か?」

「私達だけでどうにかできるのか?」

「できるできないの問題じゃない……やるんだ」



レイラの言葉にアリシアとランファンは黙り込み、リョフを討つ絶好の機会を逃すわけにはいかなかった。ゴウカとリョフの実力は拮抗しており、このまま戦えばどちらが倒れるのかは想像できない。


だが、ゴウカがリョフを打ち破った場合、3人はジャンヌの仇を討つ機会を永遠に失う。それぐらいならば戦闘に介入し、リョフが隙を見せた瞬間に狙うのが良いと考えた3人は教会に近付こうとした。



「テンがこの場に居なくて正解だったな……」

「ああ……あいつにジャンヌ様の死の真相を知らせなくてよかった」

「死ぬのは私たちだけでいい」



3人はジャンヌを殺した相手はリョフだと見切りは付けていたが、それをテンに教えなかったのは彼女が復讐の道を辿るのを良しとしなかった。3人ともテンよりも年上であり、テンの事は彼女が小さい頃からよく知っていた。


テンの姉貴分として3人は彼女だけは真っ当な道を生きてほしいと願い、彼女が聖女騎士団を再結成させると聞いた時は心の底から喜んだ。しかし、一方でテンのために3人は手を汚す覚悟を抱き、彼女のとして代わりにジャンヌの仇を討つ覚悟を決める。



「行くぞ……合図を出したら、突っ込め」

「分かった」

「ああっ……」



各々が武器を構えながら教会に近付こうとした瞬間、ここでゴウカと打ち合っていたリョフが何かに気付いた様に立ち止まり、身体から魔力を噴き出す。



『うぐぅっ……!?』

『むっ!?どうした、いったい何の真似だ!?』

『ぐうっ……邪魔をするな、シャドウ!?』



シャドウの名前を口にしたリョフは身体を震わせながら雷戟を構えると、この際に雷戟にが迸り、苦しむ声を出しながらリョフは振り払う。



『ガアアッ!!』

『ぬあっ!?』

「うわっ!?」

「くぅっ!?」

「これは……ぐああっ!?」



リョフが雷戟を振りかざした瞬間、漆黒の雷が周囲に拡散し、それを浴びたゴウカは感電して倒れ込み、ランファンも避け切れずに電撃を受けた。


二人とも身体から黒色の電流を迸らせながら倒れ込み、どちらも巨人族であったが故に他の人間と比べて体躯が大きすぎて雷に当たってしまう。それを確認したアリシアとレイラは慌てて倒れたランファンに近付く。



「大丈夫か、ランファン!?」

「しっかりしろ……うあっ!?」

「レイラ!?」



ランファンにレイラが触れた途端、電流は彼女の身体にも伝わり、その場に倒れ込む。その様子を見て残されたアリシアは戸惑うが、リョフの方は更に雷戟を振り回す。



『ウガァアアアアッ!!』

「いかん!?避けろ!!」

「シノビ!?」

「わああっ!?」



リョフは雷戟を振り回し、あちこちに漆黒の雷を放つ。咄嗟にシノビはリノを守るために突き飛ばし、ルナは戦斧を手放してその場で身体を伏せる。この際にリノを庇ったシノビは雷を受け、他の聖女騎士団も何人かが雷を受ける。



「がはぁっ!?」

「きゃああっ!?」

「うああっ!?」



無差別に漆黒の雷が周囲に拡散し、やっと収まった時には教会の周囲に存在した殆どの人間が感電し、動けない状態に陥っていた。

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