第783話 最強VS最狂

――壁を崩壊させて出現した漆黒の剣士を見た瞬間、聖女騎士団もシノビもリノも即座に距離を置く。ただ一人だけ漆黒の剣士の登場に大きな反応を示さなかったのはゴウカであり、彼だけは堂々した態度で立ち尽くす。


ゴウカの視界に出現したのは全身に闇属性の魔力を纏い、漆黒の鎧と雷を想像させる紋様が刻まれた戟を持つ男だった。体躯は巨人族のゴウカの半分程度だが、それでも人間にしてはかなり大きい。


漆黒の鎧を身に付けた男の顔を見た瞬間、聖女騎士団には衝撃が走る。その男の顔は一度見たら忘れられず、特に古参の騎士達は彼を見た瞬間に驚愕の声を上げた。



『リョフ!?』

『…………』



姿を現したのはかつて王国最強の武人と謳われた「リョフ」で間違いなく、彼は10年以上も前に行方不明になったと聞いているが、その顔を見た瞬間に聖女騎士団は彼が本物のリョフである事を見抜く。


圧倒的な威圧感を誇るリョフを見てゴウカは歓喜し、一目見ただけで自分にも匹敵するか、あるいはそれ以上の力を誇る相手だと知る。その一方でリョフの方もゴウカを見ると、黙って戟を構えた。



『ほう……この時代にもこれほどの猛者が居たか』

『ふはははっ!!何者か知らんが、これは面白い!!』

「お前達、離れろ!!」

「きゃあっ!?」



ゴウカとリョフが向かい合い、最強の冒険者と蘇ったの武人が武器を構える。それを見た瞬間にシノビはリノを抱き上げ、その場を離れた。


聖女騎士団の者達も二人が向かい合ったのを見た瞬間、嫌な予感を覚えて距離を置こうとした。だが、既にゴウカとリョフは武器を振りかざし、お互いに放つ。



『ぬぅんっ!!』

『ふんっ!!』



ドラゴンスレイヤーと雷戟の刃が同時に重なった瞬間、激しい金属音と共に周囲に軽い衝撃波が広がり、地面に亀裂が走る。二人の攻撃の衝撃だけで廃墟は崩れ去り、派手な土煙が舞う。



「うわぁっ!?」

「いかん、すぐにここから離れろっ!!」

「巻き込まれるぞ!!」



廃墟が完全に崩壊する前に他の者達は抜け出し、その一方でゴウカとリョフがお互いに笑みを浮かべ、好敵手と巡り合えたと判断した。



『うおおっ!!』

『がああっ!!』



再び刃が交わうと、今度は地面に振動が走り、完全に廃墟は崩れてしまう。天井から無数の瓦礫が降ってくるが、それに対してゴウカもリョフは武器を振りかざして瓦礫を破壊する。


やがて崩落が終えると、二人の周囲には建物の瓦礫だけが残り、ゴウカとリョフは向かい合う。ゴウカは自分の攻撃を正面から受けたリョフに身体を震わせ、その一方でリョフもジャンヌ以来の強敵に歓喜した。



『は、ははっ……はっはっはっはっ!!』

『くくくっ……ははははっ!!』



お互いに強すぎるが故に自分が手こずるような強敵と戦う事も難しい立場であったが、こうして時を越えて好敵手と巡り合えた事にゴウカもリョフも感動を覚える。


二人はひとしきりに笑い合うと、やがて表情を一変させ、獰猛な表情を浮かべて刃を振りかざす。ゴウカは全力の一撃を放つために力を籠め、その一方でリョフの方も意識を集中させるかの様に戟を強く握りしめる。



『はああっ!!』

『ぐぅうっ!?』



大型の魔物を一撃で屠る程の破壊力を誇るゴウカの全力の一撃に対し、リョフは正面から受け止める様に戟を構えた。結果から言えばゴウカの攻撃によってリョフは後退するが、決して倒れたりする事はなく、そのまま建物を取り囲む壁に衝突した。


壁に亀裂が走るがリョフはゴウカの一撃を受け止め、雷戟を振り払う。その光景を見てゴウカは驚愕し、これまでに自分の一撃を受けて無事だった存在は見た事がない。



『があああっ!!』

『ぬおっ!?』



それどころかリョフは雷戟を振りかざすと、ゴウカはその一撃を受けて逆に後退し、瓦礫に足が引っかかって尻餅をついてしまう。自分が押し負けた事にゴウカは身体を震わせ、即座に立ち上がる。



『何という膂力……信じられん!!こんな人間がいたとは!!』

『お前の方こそ大した男だ……ここまで骨がある相手は王妃以来だ』

『くぅうっ……これだ、この感覚だ!!これを求めて俺は今日まで生きてきた!!』



ゴウカは生まれて初めて自分の命を脅かすかもしれない圧倒的な存在と巡り合い、嬉しく思う。その一方でリョフはジャンヌ以外にも自分をここまで渡り合える敵がいた事に喜びを感じた。


二人の猛者はお互いに楽しむように武器を振りかざし、全力の一撃を繰り出す。その様子を聖女騎士団は遠目から見守り、動く事が出来なかった――

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