第781話 テンの戦慄

――最強の武人、リョフが蘇った瞬間に意識を失っていたテンは目を覚ます。彼女は白猫亭にて治療を受けていたが、嫌な夢を見て彼女は起き上がる。



「うぁああああっ!!」

「きゃあっ!?な、何々!?」

「だ、大丈夫!?」

「どうしたの急に!?」

「はあっ、はあっ……」



テンの傍にはモモとヒナとクロネが待ち構えており、テンは自分の部屋のベッドで横たわっている事に気付く。自分が気絶した事を思い出したテンは顔に手を伸ばし、脂汗を拭う。



「くそっ……なんて夢を」

「だ、大丈夫?水飲みます?」

「……ああ、頼むよ」

「テンさん、目を覚まして良かった。急に倒れるから心配していたのよ」

「悪かったね……」

「私の魔力を分けてあげたからもう大丈夫だよ〜」



強化術の反動でテンは意識を失っていたが、倒れている間にモモが治療してくれたらしく、彼女は体調が戻っている事に気付く。すぐにヒナが水を汲むと、テンは水分補給して落ち着く。


夢の内容は思い出せないが、嫌な夢を見た事は間違いなく、しかもジャンヌに関わる事であった。テンは頭を抑えながらも自分が気絶している間に何も起きていないのかを問う。



「そういえばあたしが気を失っている間、何かあったかい?あいつらは何処にいるんだい?」

「それが……聖女騎士団の人たちは王女様の救出のためにリノ王女が捕まっている場所に向かったの」

「何だって!?」

「王女様を救うために向かったんだよ、だからここにいるのはエリナちゃんとガロ君とゴンザレス君だけで……」

「くそっ、あいつら……!!」



自分を残して騎士団全員がリノ王女の救出のために出向いた事を知ったテンは急いで追いかけるため、クロネが用意してくれた仙薬と水を飲み込む。仙薬を飲んだ途端に一気に回復し、薬の効果に驚く。



「何だい、この薬……味はともかく、すごい効き目だね」

「ナイ君の知り合いの医者が作ってくれた薬よ。一応、あとこれだけは残ってるけど……」

「なるほど、それなら貰っていくよ!!」

「あ、ちょっと!?」

「何処へ行くの!?」



テンはヒナから仙薬が入った硝子瓶を受け取ると、懐にしまって壁に立てかけてあった退魔刀を背負い、そのまま外に駆け出す。


ガロとゴンザレスとエリナが見張りを行っていたらしく、外に抜け出した途端に彼女は嫌な予感を覚えた。それは他の者達も一緒であり、外に出た瞬間に彼等は脂汗が身体中に湧き出す。



「な、何だいこれは……」

「あ、あんた……起きたのか」

「くっ……」

「は、肌がぴりぴりするっす!!これ、絶対にやばい奴ですって!!」



外に出た瞬間にテンは異様な感覚を覚え、他の人間も同様であった。テンの後を追ってきたヒナと何かを感じ取ったように顔色が悪くなり、平気そうなのはモモだけであった。



「テンさん、ちょっと待って……うっ!?」

「な、なに……これ!?」

「え?ど、どうしたの皆?」

「モモ、あんたは平気なのかい?」

「な、なにが?」



モモだけは全員が感じた違和感に気付かず、不思議そうな表情を浮かべていた。その彼女の態度を見てテンは疑問を抱き、同時に先ほどの夢の内容を思い出す。


テンが見た夢はジャンヌが死んだ日の事であり、この時の彼女は王城の外で暮らしていた。しかし、王城の方にて騒ぎが起きたと聞いて彼女が駆けつけて来た時にはジャンヌが王城内の花壇で倒れている姿を発見した。



『団長!?どうして……』

『駄目だ、近づくな!!』

『動かすと死んでしまうぞ!!』



ジャンヌの傍には既に他の騎士達が集まっており、ジャンヌの胸元には深い切り傷が存在した。誰がどう手見てもジャンヌはもう手遅れの状態であり、彼女は震えながらもテンに気付くと、手を伸ばす。



『テン……』

『だ、団長……誰が、誰がやったんです!?あたしがそいつをぶっ殺してやります』

『その必要はないわ……あの人はもう、死んだの』

『そんな……』



ジャンヌを襲った相手は既に彼女が始末したらしく、ジャンヌはテンの手を掴むと、彼女は涙を流しながら告げる。



『後の事は貴女に任せるわ……私の分まで、騎士団の皆の事をお願いね』

『そんな、あたしには……あたしには無理だよ団長!!』

『貴女にしか出来ない事なの……だから、お願いね』

『団長!!』



最期の時まで団長は他の人間の事を想い、テンに自分の想いを託して死んでいった――





――現実へ意識を取り戻したテンは頭を抑え、何が何だか分からないが彼女の本能が危険を知らせていた。その危険の内容までは分からないが、ジャンヌの夢を見た時にテンは聖女騎士団を任された事を完全に思い出し、歯を食いしばりながら駆け出す。


他の人間の制止の言葉を振り切り、彼女は聖女騎士団の元へ向かう。ジャンヌの言い付けだけは破った事がなく、彼女はを守るために行動を開始した。

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