第765話 シャドウの実力
「うおおおおっ!!」
「テン!?」
落下するヒナを見て駆け出したのはテンであり、彼女は強化術を発動させて肉体を限界まで強化すると、落下中のヒナに向けて跳び込む。
ヒナは空中でテンに抱きかかえられると、そのまま建物の窓に突っ込み、中に飛び込む。幸運にも二人とも部屋の中に存在したベッドの上に衝突し、落下の衝撃を和らげた。
「きゃあっ!?」
「あいたぁっ!?」
「二人とも、無事か!?」
「なんて荒業を……」
ヒナを救い出すためにテンは病み上がりの状態で危険を冒し、それでも彼女を救い出す事に成功する。ヒナは目を回しながらも命に別状はなく、それを見たテンは安堵した。
「良かった、無事だね!!」
「ぶ、無事じゃないわよ……骨が折れそうなんですけど」
「たくっ……助けてあげたのに文句を言うんじゃないよ」
テンに強く抱きしめられたヒナは苦し気な表情を浮かべ、そんな彼女を見てテンは安堵するが、ここで破壊された窓から人影が現れる。それは先ほどヒナを突き飛ばしたシャドウであり、それを見たテンが睨みつける。
「シャドウ!!」
『おっと……その剣だけは流石に勘弁だ』
退魔刀で切りかかろうとしてきたテンに対し、彼女が刃を振り下ろす前にシャドウは外へ飛び出す。地上に向けてシャドウは音もなく着地すると、それを見た他の者達が動き出す。
目の前に現れたシャドウに対してルナが真っ先に動き出し、即座にガロも駆け出す。ガロは愛剣を握りしめ、攻撃を仕掛けた。
「牙斬!!」
「おりゃあっ!!」
『ふんっ』
ルナが上段から刃を振り下ろすと、ガロもそれに合わせて彼はシャドウの脇腹に目掛けて不規則な軌道の斬撃を放つ。しかし、二人の攻撃に対してシャドウは避ける素振りもなく、正面から受けた。
「当たった!!」
「倒したのか!?」
「いや……まさかっ!?」
二人の攻撃は的中し、ルナの戦斧はシャドウの頭部を捉え、ガロの放った剣も脇腹を斬りつけたはずだった。しかし、攻撃を仕掛けた二人は目を見開く。
(何だ、こいつの身体!?)
(思いっきり振り抜いたのに吹っ飛ばない!?)
ガロは確実に切り付けたにも関わらずに手応え感じられず、ルナの方も全力で行く斧を振り下ろしたにも関わらず、シャドウの頭部が割れていない事を知り、激しく動揺した。
全身が闇属性の魔力に覆われたシャドウは自分の頭部に乗っかった戦斧に手を伸ばし、それを掴み取って退かす。その様子を見ていた者達は信じられず、特にルナの腕力を知る人間ほど目の前の状況が信じられない。
「そ、そんな馬鹿なっ……あの一撃を受けて無傷だと!?」
「有り得ない……」
「何なんだ、てめえは!?」
『……奥の手を出す必要もないか?』
シャドウは周囲の人間を見まわし、小馬鹿にした態度を取る。そんな態度を見て何人かは憤るが、ここで白猫亭を守護していたはずのゴンザレスが駆けつける。
「ぐおおおおっ!!」
「ゴンザレス!?」
『ちっ、鬼人化か……面倒な事を』
ゴンザレスは鬼人化を発動させ、限界まで聖属性の魔力を活性化させる。この際にゴンザレスの肉体に僅かだが白炎が纏われ、それを見たシャドウは一瞬だけ警戒した動きを見せた。
鬼人化を発動させたゴンザレスは効果が切れる前にシャドウに接近し、攻撃を仕掛けようとした。だが、彼が拳を叩きつける前にシャドウは何処からか杖を取り出すと、突如として全身を覆う闇属性の魔力が変化を果たす。
『いいだろう、ならこっちもちょいとばかし本気を出してやる……
「な、何だっ!?」
「うおっ!?」
「こ、これは……巨人族!?」
シャドウの全身を纏う闇属性の魔力が増大し、最終的にはシャドウの肉体が膨らんだかのように巨人のような姿へと変わり果てる。純粋な巨人族のゴンザレスよりも一回りは大きく、それを見たゴンザレスは呆気に取られた。
膨大な闇属性の魔力を使用してシャドウは自分の魔力を実体化させ、巨人族を模した人形を作り出す。そして巨人と化した彼はゴンザレスに向けて腕を伸ばし、掴みかかった。
『どうした、チビ?その程度の力で俺に勝てると思ってるのか?』
「うぐぅっ!?」
「ゴンザレス!?くそっ……救い出せ!!」
「ウォオオンッ!!」
影の巨人に掴まれたゴンザレスを見て他の者が救い出そうとするが、真っ先にビャクが動いてゴンザレスを掴む腕に抱きつこうとしてきた。しかし、それに対してシャドウはゴンザレスを掴んでいる腕とは別に脇腹の当たりから全く新しい腕を作り出し、それをビャクに放つ。
『邪魔だ、犬コロ』
「ギャインッ!?」
「なっ……う、腕が増えた!?」
『お前等は馬鹿か?影はどんな形にも変化できる……こういう風にもな!!』
「うわぁっ!?」
「な、何だぁっ!?」
「これは……!?」
影人形の全身から触手のような物が誕生し、影人形の周囲に立っていた者達の元にまで伸びていく。ガロもルナも駆けつけてきたランファンも捉えられ、触手から免れたのはモモだけであった。
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