幕間 《猛虎騎士団》

――王国騎士団の中でも最強と謳われ、あの聖女騎士団と双璧を為したと言われる「猛虎騎士団」その騎士団の団長であるロランは大将軍も兼任しており、幾度も獣人国からの侵攻を防いだ。


獣人国の間では彼を恐れ、同時に敬われており、実を言えば聖女騎士団が健在だった時も猛虎騎士団の方が恐れられていた。大将軍であるロランはバッシュやリノの指導を行っており、ドリスやリンも一時期は彼の配下に入っていた時期もある。


かつて獣人国は聖女騎士団が解散した後、これを好機と判断して王国に侵攻しようとしてきた。しかし、それを撃退したのが猛虎騎士団であり、大将軍であるロランは一騎打ちの末に当時の獣人国の軍隊を率いていた総大将を討ち取って勝利を収めた。


ロランの名声は獣人国ではジャンヌよりも有名であり、彼が健在の限りは獣人国の軍隊は王国の領地に足を踏み入れる事さえも出来ないと言われている。そんな猛虎騎士団だが、現在は王国にとっての重要拠点である国境を離れ、王都へ向けて進行していた。



「ロラン大将軍、この調子ならば明日には王都へ辿り着けるでしょう」

「……そうか」



部下からの報告を受けてロランは顔を上げ、彼が率いる猛虎騎士団は王都から馬で半日ほど離れた場所で野営していた。夜が明ければ出発を再開し、明日の夕方までには王都に辿り着ける予定だった。


ちなみにロランは50代であるが、その肉体は未だに衰えを知らず、身長は2メートル近くは存在し、筋骨隆々とした肉体を誇る。それでいて父親のシンとは目元がよく似ていた。



「それにしても急に我々に王都へ引き返せとは……いったい何が起きたのでしょうか」

「余計な事は考えるな、王命である以上は戻らなければならん」

「そ、そうですね……失礼しました」



猛虎騎士団の団員は今回の王都への帰還理由は国王からの命令であると聞かされており、実際は宰相がロランを呼び寄せたのだが、彼はあろう事か王命と偽ってロランに帰還するように命じている。


当然ではあるが国王の許可なく、王命として軍隊を動かすなど反逆罪に当たり、これが発覚すれば宰相であろうと許される事ではない。しかし、ロランは気付いていた。宰相の目的は自分を反逆者に仕立て上げ、息子である自分に討たせようとしている事を。



「ふうっ……お前達はもう休んでいい。少し、一人になりたい」

「分かりました。では何かありましたらお呼びください」

「失礼します」



ロランの言葉を聞いて騎士達は下がると、幕舎の中に一人残ったロランは昔の事を思い出す。まだ彼が若く、王国騎士になる前の頃、マジクとの会話を思い出す。



『ロラン、お前はもっと自由に生きたいとは思わぬのか?』

『それは……どういう意味でしょうか、マジク殿?』



ある時にマジクがロランの元に訪れ、奇妙な事を訪ねてきた。いきなり自由がどうのこうの言われてもロランには何の話だか分からなかったが、マジクは彼に告げる。



『今のお主はまるで父親の操り人形のように見えてな……』

『操り人形……俺が?』

『そうじゃ。お主の父親とは儂も長い付き合いだが……あれの父親は親として最低だった。子供を道具だとしか思わず、自分の言いなり通りに従えさせる教育しかしてこなかった』

『俺は父の操り人形などでは……!!』

『そう、言い切れるのか?』



マジクの言葉にロランは言い返す事が出来ず、彼が王国に兵士として入隊したのも、王国騎士になれるように努力をし続けてきたのも全て父親の指示だった。そこにロランの意志などなく、彼は父親に言われるがままに行動していた事に気付く。


シンとマジクの付き合いは長く、マジクはシンの父親の事を軽蔑していた。シンと彼のが自由に生きていけなかったの父親のせいだと思い、そしてシンが自分の息子にも父親が自分にしたように都合の良い道具として育てようとしているように見えた。



『ロラン、お前は本当にこのままでいいと思っているのか?父親の言う事に従い続けて生きるのに満足できるのか?そして自分の子供が出来た時、お前の父親の様に自分の都合の良い道具として育て上げるのか?』

『それは……』

『よく考えろ、ロラン……お前は自由に生きてもいいのだ』

『……俺には分かりません』



マジクの言葉を聞いてもロランの考えはまとまらず、結局は彼はその後も父親の指示に従い続けて生きてきた。しかし、マジクの言われた言葉が忘れられず、結局彼は誰かと結婚する事もなく、子供も作らなかった。


もしも子供が生まれれば父親が自分にした様に、自分の子供を都合の良い道具として育てるかもしれない。そう考えたロランは誰とも結婚する事はなく、養子を取る事もしなかった。



(父よ……もうこんな事は俺の代で終わらせよう)



自分達の一族は影から国を支え続けてきた事はロランも知っていた。しかし、そのせいで一族の人間は「自由」に生きる事は許されず、国のために尽くすという理由で「不自由」に徹してきた。ロランはもうこれ以上、自分達の子孫にそんな思いをさせたくはないと悟り、彼は自分の代で全てを終わらせようと考えていた。


しかし、父親であるシンの最後の願いだけは聞き遂げなければならず、それが

自分が父親に出来る最後の親孝行だと信じて彼は王都へ向かう――





※マジクは宰相側の人間でしたが、宰相のやり方に疑問を抱き続けていました。国のために自分の子供さえも都合の良い道具に仕立て上げるやり方に彼は気に入らず、まだ若いロランに忠告した感じです。

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