第746話 作戦決行

「――お、おい!!あんたら、大変だよ!!マホ魔導士が倒れた!!」

「えっ!?」

「魔導士が!?」

「ど、どういう事ですか!?」



白猫亭を取り囲んでいた警備兵に対してテンが慌てた様子で駆けつけると、彼女の後ろからヒナとクロネに抱えられたマホが運び出され、彼女は苦しそうな声を上げる。



「ううっ……む、胸が痛い……儂はもう駄目かもしれん」

「何を弱気な事を言ってるんですか!!すぐに医者の所に連れて行きますからね!!」

「ま、待て!!勝手に外に出る事は許さんぞ!!」

「何を言ってんだい!?あんたら、魔導士が死んだらどうするんだい!!あんたら如きに責任が取れるのかい!?ああんっ!?」

『ひいっ!?』



テンの気迫に警備兵は怖気づくが、彼等はこの中に居る人間は誰一人通さないように宰相から命じられていた。しかし、マホが倒れて一刻を争う状態だと告げられると彼等も対応に困り果てる。



「お願いします、そこを通してください!!早くマホさんを王城に連れて行かないと……マホさんを治す事が出来るのはイリアさんだけなのは知ってるでしょう!?」

「隊長!!マホ魔導士を回復させる事が出来る薬を作れるのはイリア魔導士だけだと伺っていますが……」

「う、うむっ……」

「何がうむだい!!あんた等、このマホ魔導士の顔色が見えないのかい!!」



一向に道を開けようとしない警備兵に対してテンは怒鳴り付け、ランタンをマホの顔の近くに翳す。この際にマホは確かに顔色が悪く、息を荒げていた。その様子を見て警備兵は顔を青ざめる。




――宰相は今回の騒動で出来る限りは有能な人材を失いたくはなく、この国の将来のためにも聖女騎士団を筆頭にした王国騎士団の団員達を殺さぬように監視しているのは、彼等を生かすためでもある。




闘技場の地下に閉じ込めたアッシュ達の命さえも宰相は奪うつもりはなく、この国のために優秀な人材をこれ以上に失うわけにはいかず、特に魔導士のような存在は王国騎士団よりも重要な存在だった。


マホはこの国のために数多くの功績を残しており、人を才能を見抜く目を持っている。ゴーレムキング討伐の際にマジクを失ったばかりなのにマホまで死なれでもしたら王国にどれほどの損害が生まれるかも分からず、ここで彼女を死なせたら警備兵も後で宰相にどのような処罰を受けるのかも分からない。



「さっさとマホ魔導士を王城まで連れて行きな!!あんたら、マホ魔導士を見殺しにする気かい!?」

「わ、分かりました。では我々がマホ魔導士を……」

「ちょっと、そんな乱暴に扱わないでよ!!マホ魔導士だって女の子なのよ!?」



警備兵はマホを抱えるヒナとクロネから彼女を受け取ろうとしたが、それに対してヒナは怒鳴り付け、決して引き渡そうとしない。


彼女達の態度に警備兵は困り果て、このままマホが死なれたら困るため、警備隊長は悩んだ末にマホを連れて行く際にヒナとクロネの同行を認める。



(この二人の従業員は聖女騎士団ではないはず……仮に逃げようとしても女二人を取り押さえる事などわけもないか)



事前に警備隊長は白猫亭の従業員の事を調べ上げ、ヒナとクロネが一般人である事は知っていた。そのため、彼は仕方なくマホを運ぶ役目は二人に任せて馬車を用意させた。



「仕方あるまい……ならば王城まで我々が案内する。それでよろしいですか?」

「あたし達は一緒に行けないのかい?」

「駄目です!!連れて行くのはそこの二人だけです!!」

「ふざけんじゃねえっ、俺達はマホ魔導士の弟子だぞ!?」

「そうだ!!俺達も一緒に行かせろ!!」



ここでマホの弟子であるガロとゴンザレスが騒ぎ立てるが、警備隊長は決して承諾せず、あくまでも馬車に同行させるのはヒナとクロネだけだと言い張る。



「駄目だ!!ここから先はマホ魔導士を運ぶ者しか外に出す事は許さん!!おい、早く馬車を出せ!!」

「は、はい!!」

「マホ魔導士、もう大丈夫ですからね……」

「うむ……すまんのう」

「…………」



馬車の中にマホの上半身を抱えたヒナが先に乗り込み、その後にクロネは続く。この時に警備隊長は違和感を覚え、クロネが一言も言葉を発していない事に気付く。だが、それを問い質す前に3人は馬車に乗り込むと、馬車は王城へ向けて出発した。



「行けっ!!」

「ヒヒンッ!!」



御者が馬を走らせると、王城へ向けて馬車は移動を開始する。その様子をテン達は内心は笑いを堪えながら見送り、これで作戦は成功した――






――王城に向けて馬車が出発した後、馬車の中にてマホに膝枕をしていたヒナはクロネに振り返り、顔を頷く。馬車の中には当然だが警備兵も同席しており、ヒナとクロネの行動を見て疑問を抱く。


馬車内には警備兵が3人存在し、お互いに向き合う様に座っていた。それを確認したヒナはマホとクロネに合図を出す。



「今よ、二人とも!!」

「ぬんっ!!」

「はっ!!」

『ぐへぇっ!?』



マホは身体を起き上げると手にしていた杖を突き出し、正面の兵士の喉元に叩きつけ、ヒナとクロネは同時に掌底を左右の兵士に叩き込み、兵士達は車内にて倒れ込んだ。



「ふうっ……上手く生きましたね」

「ええ、クロネさんの変装も気づかれずに済んでよかった」

「ほっほっほっ……儂の演技も悪くないであろう?」



車内の警備兵を倒したヒナは額の汗を拭い、その一方でマホは顔にハンカチを押し当てて化粧を落とすと、先ほどまで青ざめていたはずの顔色が戻り、一方でクロネの方も顔を拭うと化粧を落とすと別人の顔が露わになった。

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