第744話 白猫亭の包囲

――同時刻、聖女騎士団を匿っている白猫亭の方でも動きがあった。建物の前に王都の警備兵が駆けつけ、一般区の警備隊長が宿の中に入り込み、一方的に告げる。



「我々は一般区の警備を任されております!!こちらに聖女騎士団の方々が治療を受けているという報告が参り、その警護に参りました!!」

「何だい、あんた達は……」

「テンさん、無茶をしたら駄目よ!?」



意識を取り戻したテンがヒナの肩を借りながら警備隊長と対峙すると、警備兵達は自分達が建物の警護を行う事を一方的に告げた。



「ご安心ください、何があろうと皆様をお守りします。なので皆さんはこちらで治療に集中してください!!」

「ちょっと待ちな、警護なんていらないよ。そんな事よりも街の警備を……」

「いいえ、そういうわけにはいきません!!我々は宰相の命令を受けてこちらへ参りました!!」

「宰相だって……!?」



宰相から派遣されたという警備兵の言葉にテンは目を見開き、一方で警備隊長は背中を向けると、建物を出る際にテンに警告を行う。



「申し訳ございませんが、ここからどうしても出たいという時は……覚悟して下さい」

「あんたねっ……それがどういう意味なのか分かっているのかい?」

「我々も……逆らえないのですよ」



警備隊長の言葉は暗に聖女騎士団に建物の外から出ない様に告げ、彼等は聖女騎士団の警護のためではなく、彼女達が建物の外から出れない様に派遣された兵士だと判明する。


兵士達の数は一般地区の警備を任されている全ての兵士が駆けつけているらしく、総勢で1000名近くの兵士が建物の周辺に配置され、これでは抜け出す事は出来ない。


万全な状態ならばともかく、現在の聖女騎士団は負傷者が多く、治療が間に合っていない。しかもこの状態では薬の類も調達出来ず、一歩も外に出る事は許されなかった。



(くそっ……宰相め、私達をここへ釘付けにして何をする気だい!?まさか、この機会を利用して反乱でも引き起こすつもりじゃないだろうね!!)



宰相の考えが読めずにテンは悔し狩り、建物の外を取り囲む兵士達の姿を見て歯がゆく思う。この状態では抜け出す事は出来ず、それでも何もしないわけには行かなかった。



「ヒナ、今すぐに全ての部屋の窓とカーテンを閉めて外から様子を見れないようにしな。それと、動ける奴は地下の酒場に集めな」

「ど、どうするつもり?」

「まずはなにをどうするのかを話し合う必要があるんだよ」



ヒナはテンの言葉に従い、指示通りに外部から見られないように全ての部屋の窓とカーテンを閉め、その後に身体が動かしても問題無い者を地下の酒場に集めた――






――現時点では聖女騎士団の中で動けるのはテン、ルナ、エリナだけであり、テンの場合は重傷ではあるが治療のお陰で動けるまでには回復していた。ルナとエリナは軽傷であり、最低限の治療も終えている。


エルマの場合は自分で所持していた回復薬のお陰で完治し、ガロとゴンザレスも既に怪我から回復していた。そして隊長は万全ではないとはいえ、マホも会議に参加する。ヒナが全員分の飲み物を用意すると、彼女も会議に参加した。



「動ける人間はこれだけかい……情けないね、天下の聖女騎士団が冒険者一人になんて様だい」

「仕方あるまい、あのゴウカという男は間違いなくジャンヌ王妃やリョフに匹敵する猛者……むしろ、誰も死ななかった事が幸いじゃ」

「ちっ……情けないね、手加減されて生き残るなんて生き恥だよ」

「手加減!?あれで手加減してたのか!?」

「し、信じられないっす……」



テンの言葉にルナは驚き、エリナもゴウカが自分達を殺さない様に力を抑えていたと知って衝撃を受けた。だが、状況的に考えてもゴウカならばいつでもテン達を殺す事は出来た。


ゴウカが誰も殺さなかったのは彼が非道な人間ではない事を証明しており、確かに自分の目的のためならばゴウカは他人の都合など考えずに行動するが、それでも最低限の配慮は行う。


ガオウにしろ、聖女騎士団にしろ、彼は誰一人として殺してはいない。その理由は彼の目的は人殺しではなく、自分を脅かす「強者」を追い求めているだけに過ぎない。だから人殺しには拘らず、むしろ伸びしろがあるような人間と遭遇すると殺さずに見逃す。



「ゴウカの目的はただ一つ、自分の命を脅かす存在との再戦……そのためならば奴は何でもするじゃろう。敵はそれを利用したが、今度は儂等がそれを利用するぞ」

「ど、どういう意味ですか?」

「今回の事件の発端、その理由はリノ王女様じゃ。宰相の狙いはリノ王女の命、ならばリノ王女の元に刺客を送り込むじゃろう。それを儂はゴウカに伝え、リノ王女の傍に居ればゴウカの命を脅かす存在も現れるかもしれんと伝えておいた」

「なら、今はあいつがリノ王女を守っているという事かい?」

「そんな無茶苦茶な……いや、あの人ならありえそうね」



マホの言葉にヒナは呆れたが、ゴウカの性格と態度を思い出したら有り得ない話ではない。

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