第648話 白面の長
『悪いな、あんたとも付き合いは長いが、こっちの人の方が付き合いが長くてね……いきなり招いた事は許してくれ』
「う、くぅっ……!?」
「お前の事は昔から知っていた。その気になれば我々は何度でもお前を消す事は出来た。だが、それをしなかったのはお前達の存在がこの国のためにも必要不可欠だから見逃してきたのだ」
「な、何だと!?」
白面を被った老人の言葉に闇ギルドの長は理解が追いつかず、この国のためという言葉に引っかかった。そんな彼の前で老人は椅子に座り込み、語り掛ける。
「光ある所に闇があるのは当然の事……国が栄えればそれに応じて国を脅かす存在が現れるのも仕方はない。しかし、国を脅かす存在が居る事で人々は結束し、力を合わせる事でより良き豊かな国を築き上げる事が出来る。お前達という害悪がいるからこそ、この国はここまで発展したといっても過言ではない」
「が、害悪だと……!!」
「そう怒るな、儂はお前達の存在には感謝している。だからこそあの王妃を始末させる機会を与えたのだ」
「なっ……!?」
王妃という言葉に長は愕然とした表情を浮かべ、老人が語る王妃とは「ジャンヌ」の事で間違いはない。ジャンヌは聖女騎士団を率いてかつて闇ギルドを壊滅寸前にまで追い込んだ存在であり、そして長がシャドウと出会う切っ掛けを作った人物でもあった。
かつて闇ギルドの勢力を集結させて長は聖女騎士団の統率者であるジャンヌの抹殺を試みた。しかし、計画は失敗に終わって逆に闇ギルドの勢力が激減し、一時期は王都からの撤退を考えた。しかし、そんな彼の前にシャドウは現れ、長の依頼を引き受けて彼は王妃ジャンヌの暗殺の依頼を引き受ける。
結果から言えばシャドウは暗殺を成功させ、当時は最強の冒険者として謳われたリョフを利用し、彼はジャンヌの暗殺に成功する。この時にリョフも姿を消したが長は彼がジャンヌと相打ちになって死んだと思い、聖女騎士団はジャンヌの死後に解散した。
しかし、それらの出来事も全て目の前の老人が計画した事ならば長は彼の掌の上で転がされた事になり、シャドウと老人が結託して自分を嵌めたのかと憤る。
「だ、騙したのか!!儂を、儂等を騙したのか!?」
『騙したとは人聞きが悪いな……確かに俺はあんたの依頼を引き受け、それを果たしただろう。今更文句を言われる筋合いはないぞ?』
「き、貴様……」
「落ち着け、我々は敵ではない。最も味方とは言えないがな……」
老人は取り乱す長を相手に冷静な態度で話しかけ、そんな彼に対して長は冷や汗を流す。何者なのかは分からないが、シャドウ以上に得体が知れない老人に長は身体を震わせる。
「貴様は何者だ!!答えろ、昼間に現れた者達はお前の差し金か!?」
「良かろう、ここまで来た以上はお前にも色々と協力してもらうぞ」
「な、何だと……」
『おいおい、あんたそう簡単に正体を晒していい立場じゃないだろう?』
白面を被った老人はゆっくりと顔に手を伸ばし、仮面を引き剥がす。闇ギルドの長はその顔を見た瞬間、目を見開き、腰を抜かした。
「お、お前は……!?」
「これからもお前達には力を貸してもらうぞ……この国のため、裏から支え続けてもらうぞ」
長の前に現れた人物の正体、それはこの国の人間の中でも重要な地位に就く人物と瓜二つの顔をしていた――
――同時刻、王都では国王は宰相と共に玉座の間にて報告書の確認を行う。国王は王都内に出現した白面を纏った暗殺者なる存在に頭を悩ませ、宰相も険しい表情を浮かべた。
「白面……奴等がまた現れたというのか」
「現在、確認した限りでは発見された暗殺者全員が獣人族である事が判明しました」
「ふむ……では、獣人国の送り込んだ刺客か?」
「その可能性もありますな」
国王は宰相の言葉を聞いて頭を抑え、次から次へと訪れる問題に嘆く。しかし、そんな彼に宰相は告げた。
「国王様、お気を確かに……白面の正体が何者であろうと我々のやるべき事に変わりはありませぬ」
「やるべき事に変わりはない?」
「この国のため、全力を尽くす……それだけではありませぬか」
「ふむ……その通りじゃな」
宰相の言葉に国王はもう少しまともな励まし方は無いのかと苦笑いするが、宰相は真剣な表情を浮かべたまま窓の外に視線を向ける。本日は曇り空であり、まるで王国の情勢を現しているかのような空模様だった――
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