第636話 剣聖の一撃
『ジュラァアアアッ!!』
「わあっ!?」
「こいつ、また……ナイ、発て!!」
「くっ……!?」
女王蜂が死んでも魔樹はまだ残っており、再び魔樹は枝をしならせると、今度は二つの巨大な枝を振り下ろす。ナイ達が逃げ切れない様に左右から挟み込むつもりらしく、倒れているナイは立ち上がろうとした。
このままいれば左右から押し潰される事は間違いなく、地面に突き刺さった旋斧に手を伸ばす。しかし、ここでコウカが遂に動き出し、全員に声を掛けた。
『伏せろっ!!』
『っ……!?』
彼の声を聞いた瞬間にナイもリーナもゴンザレスもエルマも反射的に従い、ここでマリンだけはゴウカの準備が整ったのを確認すると、彼女は杖先を構える。そしてゴウカの掲げる「竜殺しの大剣〈ドラゴンスレイヤー〉」に向けて魔法を発動させた。
マリンが掲げた杖先から魔法陣が展開され、これまでと比べても巨大な火球が出現した。ゴウカと同じくマリンも魔力を集中し、彼の持つ大剣へと放つ。
(あれは……!?)
ナイの旋斧は魔力を吸収し、魔法剣へと変化させる事が出来るが、どうやらゴウカの所持するドラゴンスレイヤーも同様の能力を持っているらしく、彼の大剣にマリンの放った火球が衝突した瞬間、大剣の内部に吸収されるように消え去ってしまう。
旋斧と異なる点はゴウカの大剣は魔力を吸収した瞬間に赤みが更に増し、全体が発熱する。その状態でゴウカは魔樹に視線を向けると、彼は勢いよく大剣を振り払う。
『ぐおおおおおっ!!』
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
「ぬおっ!?」
ゴウカが大剣を円を描くように振り抜いた瞬間、刀身から火属性の魔力が放出され、まるで「炎の輪」が周囲へと広がる。その結果、ナイ達は事前に身体を伏せていたので輪に当たる事はなかったが、魔樹は大地に根を生やしているので避ける事は出来ず、そのまま炎輪は魔樹に衝突した。
――ジュラァアアアッ……!?
100メートルを超える魔樹の巨体はゴウカが放った一撃によって切り裂かれ、炎が燃え広がる。まるで火竜の吐息を受けたかのように魔樹は燃え盛り、焼け崩れていく。ナイ達に迫っていた二つの上だも巻き込まれ、その場に焼け崩れていく。
不幸中の幸いだったのは魔樹の周囲は栄養を吸いつくされた事で植物が生えておらず、他の植物に炎が燃え広がる事だけは避けられた。やがて魔樹の全体が炎に包まれ、瞬く間に灰と化して崩れ去る光景を見てナイ達は呆気に取られた。
(なんて力だ……!!)
仮に旋斧が火竜の魔力を帯びた状態だとしても、ゴウカのように炎を操る事は出来ない。マリンの協力があったとはいえ、ゴウカは自分の何十倍もの体格差を誇る敵を一撃で葬った。
この男こそが国内に存在する黄金冒険者の中でも最強の剣士と謳われ、剣聖の異名を持つ最強の冒険者だとナイは思い知る。やがて切り裂かれた魔樹の肉体が崩れ去り、灰の中から樹石の破片が周囲に散らばる。
『――任務完了、だな』
「……は、ははっ、そう、ですね」
『ふははははっ!!』
ゴウカの言葉にナイはもう愛想笑いを浮かべる事しか出来ず、彼は久々に全力を出して戦えた事に満足したのか、背中にドラゴンスレイヤーを戻すと大笑いをした――
※最強の黄金冒険者の異名は伊達ではありませんね……(;´・ω・)短めですが、ここまでにしておきます。
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