第633話 特攻

『――よし、行くぞ!!』

「声が大きい……静かに近付いて下さい」

『あ、すまんっ……』



作戦が決まったナイ達は全員が匍匐前進で大樹との距離をゆっくりと詰めていく。出来る限りは敵に気付かれぬように移動を心掛け、慎重に進む。


近付けば近づく程に大樹と巨大蜂が作り上げた蜂の巣の巨大さを思い知り、本当にこんな物をゴウカは破壊できるのかとナイは疑問を抱くが、もう後戻りはできない。出来る限り距離を詰めた後、ナイ達は攻撃を仕掛けるしかない。



(近くで見ると本当に大きいな……)



接近してナイは改めて大樹の全長を確認し、その大きさに冷や汗を流す。身長は4メートルはあるゴウカの何十倍もの大きさを誇り、少なくともナイが旋斧で火竜の魔力を利用した魔法剣の攻撃を繰り出したとしても焼き尽くせる自信はない。


しかし、この大樹をゴウカは30秒程度の時間とマリンの協力があれば焼き尽くせると言い放った。黄金冒険者にして鋼の剣聖の異名を誇るゴウカ、魔導士に並ぶ実力を持つと言われているマリン、この二人が出来るというのであればナイは信じて挑む。



「キィイイイッ……!!」

「ギチギチギチッ……!!」

「プギィイッ……!?」



上空には大量の巨大な蜂が浮かんでおり、中には獲物を捕まえて運び出す個体もいた。捕まった獲物はオークであり、どうやら逃げ遅れたオークは捕まって昆虫種の餌にされているらしい。



「大分近付いてきましたね……ですが、ここまでが限界のようです」

「雲が切れる……月の光で明るくなるぞ」



月の光を遮っていた雲が切れかかり、大樹の周囲が月の光に照らされる。この時にナイ達は大樹の周囲の大地が枯れ果てている事に気付き、どうやら大樹が周囲の大地の栄養を吸いつくしたせいでこの一帯には植物が生えなくなった事が判明する。


これまでは暗くてよく分からなかったが、月の光によって照らされた瞬間、巨大蜂がナイ達の存在に気付いて鳴き声を放つ。



『キィイイイッ!!』

「いかん、来るぞ!!」

「皆さん、走って下さい!!ここは私が時間を稼ぎます!!」



エルマは起き上がるのと同時に3本の矢を同時に番え、射出する。彼女のお得意の魔弓術で矢の軌道を変化させ、更に鏃に纏った風の魔力を拡散させて衝撃波を生み出す事で複数の巨大蜂を同時に仕留める。



「ギエッ!?」

「キイイッ!?」

「ギアッ!?」

「今です、走って下さい!!」

「ありがとうエルマさん!!」

『私も援護する』



エルマによって巨大蜂が怯む中、マリンはゴウカの肩に乗り込み、彼女は杖を出して魔法陣を展開すると、次々と火球を生み出す。彼女が作り出す火球は小さいが、その正体は圧縮された火属性の魔力であり、衝突すれば爆発を引き起こす。



『ギエエエッ!?』

「おおっ!?奴等、大分数を減らしたぞ!!」

「この調子なら大樹のところまで……うわっ!?」

「リーナ!?」



先頭を走っていたリーナが突如として悲鳴を上げ、彼女にナイは視線を向けると、そこには気の蔓のような植物が地中から出現してリーナの足に絡みつき、彼女は慌てて振り払おうとしたがびくともしなかった。



「な、なにこれ……くっ、凄い力で締めて付けて……!?」

「これは……まさか!?」

『魔樹め、マリンの攻撃で目が覚めおったか!!』



ナイ達は大樹に視線を向けると、いつの間にか人面が怒りの表情へと変貌し、ナイ達を見下ろしていた。目元を怪しく光り輝かせ、あちこちから蔓のような根っこが出現し、ナイ達の身体を拘束しようと近づく。


迫りくる無数の蔓に対してナイは両手の大剣を振りかざし、切り裂く。ゴウカも同じように大剣を振り払うが、いくら切りつけようと新しい蔓があちこちから生えてくるため切りがなかった。



「このっ!!」

『ふんっ!!』

「うおおっ!!」

「くぅっ……いい加減にしてよっ!!」

『ジュラァアアアッ!!』



大樹が鳴き声を上げると、更に蔓の数が増加してナイ達の元へ迫る。いくら切りつけても新しい蔓が生えて襲い掛かってくるため、ナイ達は逃げ場を失う。しかも蔓は一度絡みつくと簡単には引きちぎれず、ナイも腕に絡みつかれる。



「うわっ!?くそっ……!!」

「駄目だ、数が多すぎる!!」

「くっ……援護が追いつかない!?」

『キイイイッ!!』



エルマはナイ達の危機に助けようとしたが、巨大蜂の群れが襲い掛かって彼女の援護を阻む。このままで巨大蜂の餌食になるが魔樹の蔓に絞殺されるかの二つに一つであり、ナイは思い悩む。



(どうすればいいんだ!?こんな時に……待てよ、植物ということは……)



ナイはある事を思い出し、蔓に拘束されかけているリーナの元に近付き、彼女の身体に巻き付く蔓を切り裂く。



「リーナ!!」

「うわっ!?ナ、ナイ君……ありがとう!!」

「お礼はいいから、こいつ等を凍らせる事は出来ない!?」

「えっ!?う、うん……やってみるよ!!」



リーナはナイの言葉に驚くが、彼女はすぐに蒼月を振りかざし、能力を発揮させた。その瞬間、ナイ達を取り囲む蔓に異変が生じた。

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