第530話 大穴

「何だ、この穴は……」

「わ、分かりません……ですが、状況的に考えても恐らくはゴブリンが掘り起こした物だと思われます」

「どうしてこんな物を……」



要塞の奥には大穴が存在し、相当な深さまで掘り起こされているらしく、穴の底が見えない程に深い。どうしてこんな物をゴブリンが作り出したのかは不明だが、ここでクノは何かに気付いた様に呟く。



「この穴は……」

「クノさん?」

「いや、何でもないでござる……拙者の気のせいでござる」



穴の底を見てクノは何かを感じ取った表情を浮かべるが、すぐに首を振る。そんな彼女の態度にナイは気になったが、この穴を調べるためにアッシュは様子を伺う。



「一応は内部も確認せねばならんが……これは時間が掛かりそうだな」



底が見えない程に穴は深く、調査するにも事前に準備が必要だった。しかし、ここまで来た以上は引き返す事は出来ず、討伐隊は穴の底へ向かって移動を開始する――






――幸いにも穴を降りていくのはそれほど困難ではなく、岩壁が削り取られて穴の底まで続く螺旋状の通路が存在した。その通路を降りる事でナイ達は穴底へ向かうが、途中で暗くなってきたので灯りを用意する。



「ちょっと暗くなってきましたね……光球ライト

「おおっ、ナイ殿は光球の魔法も扱えるのでござるか!?」

「うん、陽光教会にお世話になった時に覚えたから……」

「それは助かるな、ならば先導を頼む」



ナイは光球の魔法を扱えた事にクノは驚き、この光球の魔法は陽光教会に世話になっていた頃に回復魔法と同じようにナイが教わった魔法だった。


光球という名前通りにナイは聖属性の魔力で光の球体を作り出し、その光で周囲を照らす。これによって灯りが手元になくても暗闇を照らす事は出来るが、降りる途中でナイはアル事に気付く。



「あれ、これって……地属性の魔石?」

「何だと……確かにこれは魔石だな」

「地中を掘り進んでいるのですから別に珍しくもないのでは?」



穴を降りる途中でナイは岩壁に地属性の魔石が埋まっている事に気付き、他の者も魔石の存在に気付く。だが、地属性の魔石は基本的に地中に埋まっているため、別にそれほど珍しい代物ではない。


ちなみに地属性の魔石は地中深くにある者ほど高純度の魔力を宿している事が多く、どんな場所でも地面を掘り進めれば手に入る代物である。だから魔石の価値は低いが、地属性の魔石は大地に栄養を与える効果もあるため、あまりに魔石を掘り起こすと大地に栄養が無くなって土地が枯渇すると言われている。



(確かにこれだけ深い穴なら地属性の魔石が見つかってもおかしくはないけど……どうして、こんなに色が薄いんだろう?)



ナイが地属性の魔石を発見して気になったのは魔力の色合いであり、不思議な事に穴の中に存在する地属性の魔石はどれもこれもが色が薄く、内部に蓄積されている魔力が少ないように感じられた。


基本的には魔石は魔力を消耗しなければ色が薄まるはずがなく、しかも地面に埋まっている状態の魔石が色を失うなど普通は有り得ない。誰かが魔石を使用し、岩壁の中に埋め直したのならばともかく、わざわざゴブリンが支配していた場所に魔石を岩壁に埋め込むはずがない。



(どうなってるんだ……ここいらの魔石は魔力が奪い取られている?)



基本的には地属性の魔石は地中に深く埋まっている代物ほど高純度の魔力を宿しているはずだが、何故か穴の底に移動するほどに魔力を失った魔石が岩壁に埋まっている光景を確認し、ナイは嫌な予感を抱く。



「ナイ殿、気づいているでござるか?」

「……何か、感じるの?」

「先ほどから途轍もない大きな気配を感じるでござる」

「……底の方からか」



クノの言葉を聞いてアッシュは表情を一変させ、既に他の者達も異変には気づいていた。討伐隊の全員が武人で構成されており、彼等の中には気配感知の技能を身に着けている者も少なくない。


遂に穴の底に到着すると、そこには異様な光景が広がっていた。それは穴の底に存在したのは巨大な剣だった。あまりにも大きく、その身の丈は巨人族をも上回る巨大な剣が大地に突き刺さっていた――





※先が気になる所ですが、ここまでにしておきます。

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