第529話 檻の中のゴブリン

「ナイ君、大丈夫?回復薬、分けてあげようか?」

「いや、大丈夫だよ。モモが渡してくれた煌魔石のお陰で身体の痛みは引いたし……少し休めば平気だと思う」

「へえ、モモちゃんが……」



休んでいる最中のナイの元にリーナが心配した様子で近付くが、ナイ本人は少し疲れただけで特に身体は平気だった。モモが用意してくれた煌魔石は普通の聖属性の魔石よりも効果が高く、魔力に溢れていた。


通常の聖属性の魔石だと強化術と再生術を続けて発動すると魔力が切れてしまうのだが、モモが用意してくれた煌魔石の場合はまだ余裕があった。この調子ならばあと数回は強化術を発動させても問題ないと思われ、彼女の贈り物にナイは喜ぶ。



(これ、凄く助かるな。後でモモにお礼を言わないと……)



返ったら真っ先にモモに礼を言う事を決めてナイはそろそろ自分も調査に参加しようとした時、ここで要塞の奥の方から騎士の驚いた声が上がる。



「ア、アッシュ公爵!!こちらへ来て下さい!!」

「どうした!?何か見つかったのか!?」

「檻です!!中に……ゴブリンが閉じ込められています!!」

「何だと……まだ生き残りがいたのか?」



声が聞こえた者達はすぐに騎士が発見した檻の元へ向かい、ナイとリーナも向かう。騎士が発見したのは木造製の檻であり、恐らくはホブゴブリンが作り出した物だと思われた。


檻の中は血塗れで死臭が漂っており、この臭いだけで檻に近付いた者達は鼻を抑え、特にガオウのような獣人族は臭いだけでも辛いのか鼻を摘まみ、距離を置く。



「うっ……臭いな」

「何だこれは……この死骸は、ファングか?」

「ゴブリンも倒れているぞ……」



檻の中には複数のファングとゴブリンの死骸が倒れており、そして1匹だけ生き残ったゴブリンが存在した。そのゴブリンは床に伏せ、最初は気絶しているのかと思われたが、すぐに死骸を貪り食っている事が判明する。



「アガァッ……!!」

「な、何だこいつは……死骸を食っているのか!?」

「おい、こいつ……昼間に村で見かけた奴じゃないのか?」



床に散らばった死骸に喰いついているゴブリンは全身の体毛が通常種のゴブリンも濃く、ファングの死骸に喰らいついていた。そして死骸を喰らう程に体毛が増えて行き、やがて全身に灰色の毛皮が覆われていく。



「まさか、こいつは亜種か……!?」

「どうなっている……」

「いったい何が起きてるんだ!?」



ゴブリンは死骸を喰らうのに夢中で檻の周りに居る人間達に気付いておらず、熱心に魔獣の死骸を食い散らかす。基本的にゴブリンは雑食で他の生物の死骸を喰らう事は珍しくはないが、このゴブリンの場合は明らかに異常だった。


ファングの死骸を喰らう度にゴブリンの体毛が増えており、その毛皮の色はファングと全く同じだった。昼間にナイの村に現れたゴブリン達も赤毛熊やコボルトなどの毛皮を想像させる体毛を生やしていた事をナイは思い出し、目の前で魔獣の死骸を喰らうゴブリンを見て呟く。



「まさか、死んだ魔獣の肉を喰らって……強くなっている?」

「いや、強くなるというよりは……その魔物の特徴を受け継いでいるように見えるな」



ナイの言葉を聞いてアッシュは言葉を付け加え、確かに彼の言う通りにゴブリンは殺したファングの死骸を喰らう事で、ファングの毛皮を生やしているように見えた。しかも変化しているのは体毛だけではなく、その牙も魔獣のように徐々に伸びて尖っていく。



「ア、アッシュ公爵……この魔物、どうしますか?」

「……このまま殺すのは簡単だが、こんな風に魔獣の死骸を喰らって変異するゴブリンなど見た事も聞いた事もない。連れ帰って調べる必要がある」

「連れ帰る!?この化物をですか?」

「そうだ、逃げない様にしっかりと取り押さえておけ……もしかしたら、新種かもしれん」



アッシュの言葉に全員が驚愕するが、彼はゴブリンを調べる必要があると判断し、殺さぬように連れ帰る事を命じる。闘技場を経営しているアッシュは普段から様々な魔物を取り扱っているので魔物の知識は豊富だが、ただのゴブリンが魔獣の死骸を喰らう事でその魔物の特徴を得るなど聞いた事も見た事もない。


この地にゴブリンキングが現れた事、そして得体の知れないゴブリンの亜種が発見された事からアッシュはこの2体に何か関係があるかもしれないと判断し、連れ帰る事を決める。しかし、ここで更に要塞の奥の方から騎士達の驚愕の声が上がる。



「ア、アッシュ公爵!!こちらへ来てください!!」

「どうした!?今度は何事だ!!」

「そ、それが……と、とにかくこちらへ来てみてください!!」



騎士達はアッシュの言葉には応えられず、自分達の元へ来るように促す。何事かと思いながらもアッシュと他の者達は向かうと、要塞の中に巨大なが存在した。

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