第514話 格が違う

――数十秒後、街道には多数の盗賊が倒れ込み、残されたのは身体を震わせて地面に腰を抜かしたガルスの姿だけだった。彼の前には両手に岩砕剣と旋斧を構えたナイの姿が存在し、あっという間にガルスの配下達は倒された。



「ば、馬鹿な……全滅、だと!?我が盗賊団が!?」

「ふうっ……ホブゴブリンの方がまだ手応えがあったな」



ナイは両手の大剣を背中に戻すと、改めて腰を抜かしているガルスに視線を向け、彼に顔を向けられただけでガルスは恐怖を抱く。


ガルスが集めた盗賊達は殆どがレベル30近くの人間であり、この地方でここまでのレベルを上げた人間はそうはいない。それに彼等一人一人が対人戦には慣れており、この街の冒険者であろうと戦える力は持っているはずだった。


それなのに目の前に立つ少年ナイはたった数十秒で50人近くの盗賊を倒した。そもそも戦闘にすら成り立たず、圧倒的な力で盗賊達は打ち倒された事にガルスは恐怖を抱く。



(何なんだ、こいつはいったい……何者だ!?)



ここまでの圧倒的な実力者ならば話題になっていないはずがなく、ガルスは何者なのかと動揺を隠せない。実力がある冒険者や武人ならばガルスは把握していないはずがないが、ナイの姿が二つの大剣を扱う剣士の噂など聞いた事もない。



「貴様、何者だ!?」

「何者と言われても……」

「冒険者か、傭兵か!?いや、まさか王国から派遣された騎士か!?」



王都から派遣された飛行船の事はガルスも耳にしており、彼はナイの正体が王国騎士かと考えた。しかし、その考えも間違いであり、ナイは考えた末に答えた。



「強いて言うなら……旅人、かな」

「ふ、ふざけるな!!」



ナイの言葉を聞いてガルスは激高し、これほどの強さを持つ人間が冒険者や傭兵や騎士ではないなど有り得るはずがない。自分をからかっていると判断したガルスは腰を抜かした状態でナイに短剣を構える。


しかし、そんなガルスの行動を見てナイは冷静に岩砕剣を振り払い、短剣の刃を弾き飛ばす。最後の武器を失ったガルスは慌てて眼帯に手を伸ばし、義眼を見せつけようとしたが、その前にナイは旋斧をガルスの首に構えた。



「降参して下さい、もう貴方に勝ち目はありません」

「ぐうっ……!?」



首元に刃を押し付けられたガルスは顔色を青くさせ、必死に頭を回らせて生き残る術を考える。そして宿屋の主人の事を思い出し、交渉を行う。



「お、俺を殺せば宿の主人も部下が殺すぞ!?それでもいいのか!?」

「そいつはこいつの事か?」

「えっ……?」



何処からか聞こえてきた声にナイとガルスは振り返ると、そこには初老の男性とシノビとクノの姿が存在した。どうやら二人とも無事だったらしく、しかも既に宿屋の主人を救い出していたらしい。



「き、貴様等!?まさか、シノビ兄妹か!?」

「そういう事だ……もうお前の仲間は残っていないぞ。宿屋の外で潜伏している部下達も助けに来るとは考えない方が良い」

「ほら、こうして話している間にも警備兵が駆けつけてきたようでござるよ」



クノが街道を示すと馬に乗り込んだ警備兵が数十名駆けつけ、どうやら宿屋の煙を見て火事が発生したと思い込んでここまで駆けつけてきたらしい。警備兵は倒れている盗賊達を見て驚き、ナイ達に事情を尋ねた。



「こ、これはいったい……何が起きたんだ!?」

「ナイ殿、拙者の冒険者バッジを」

「あ、うん……」



ここでナイは事前にクノから借りていた冒険者バッジの事を思い出し、それを取り出して見せつける。警備兵は彼が取り出したのが金級冒険者の証である事に気付き、慌てて態度を改めた。



「こ、これは冒険者殿ですか!!しかも金級とは……」

「俺達はこの街で活動している冒険者だ。ここにいるのは街に侵入していた盗賊団だ。緊急事態なのでお前達に連絡を入れる前に倒してしまった」

「な、なるほど……そう言う事でしたか」

「ぐぐぐっ……!!」



相手が階級の高い冒険者だと知ると警備兵の対応が打って変わり、彼等はすぐに盗賊の捕縛を行う。この際に救出した宿屋の男性も警備兵に引き渡して保護してもらう。


ガルスを筆頭に盗賊達は警備兵に連行され、この際に先に避難していたはずのビャクが馬車を連れて戻って来た。この時に人質にされていた母娘は宿屋の主人と合流し、再会を果たす。



「貴方!!無事だったのね!?」

「お父さん、良かった!!」

「お前達!!逃げられていたのか……ああ、良かった!!」



3人の親子は感動の再会を果たし、抱擁を行う。その姿を見てナイは嬉しく思う一方、自分にはもう抱きしめてくれる家族がいない事を思い出して少し寂しく思う。



「いいな、あの子……抱きしめてくれる両親がいて」

「ウォンッ……」



ナイの気持ちを察したのか、ビャクは彼の元に近付いて自分も同じだとばかりに顔を摺り寄せる。そんなビャクの態度にナイは苦笑いを浮かべ、両親がいない者同士で慰め合う――





※予約投稿ミスりました(´;ω;`)

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