第489話 運命に打ち勝て
「せいりゃああっ!!」
『アアアアッ――!?』
右膝に巨大な氷の刃が振り落とされ、完全に巨人の右足が切り裂かれる。その光景を見ていたナイは右足を失った巨人を見て今が攻めるのが最大の好機だと判断し、ビャクに声を掛けた。
「ビャク、今だっ!!」
「ウォオオンッ!!」
「うおおっ!?」
ビャクも巨人を仕留める絶好の好機だと判断し、巨人に向けて駆け出す。この際にガオウは振り落とされてしまい、ナイだけを乗せた状態でビャクは駆け出す。
右足を失った巨人は体勢を崩し、倒れ込もうとする。しかし、どうにか体勢を立て直そうと両腕を地面に伸ばした。だが、この時に巨人は先のドリスとリン、そしてアッシュの攻撃によって左腕を負傷していた事を忘れていた。
『オオッ……!?』
「跳べ、ビャク!!」
「ガアアッ!!」
身体を支えようとした左腕に力が入らず、巨人は地面に倒れ込もうとした。それに対してビャクは牙を剥き出しにすると巨人へ目掛けて飛び込み、ナイも旋斧を振りかざす。
「うおおおおおおっ!!」
「ガァアアアアッ!!」
『ッ――!?』
倒れ込む自分に顔面に目掛けて突っ込んできたビャクの姿を確認した瞬間、ここでかつて白狼種の子供の事を思い出す。まだ巨人がこの姿に至る前、白狼種の親子と対峙した。
――白狼種の親子と遭遇した際、巨人は両親を殺したが子供は取り逃がしてしまった。そして数年の時を経て成長した白狼種の子供が目の前に現れ、親の仇を討つために自分の前に現れた事を知る。
しかし、気づいた時には既にビャクの牙は巨人の首元に食い込み、刃物の如き切れ味で首元を切り裂く。鋼鉄を上回る硬度を誇る皮膚だが、ビャクの牙はそれ以上の硬さと切れ味を誇り、巨人の首に鮮血が舞う。
『アガァッ……!?』
ビャクの牙によって巨人は首筋に血飛沫が舞い上がり、決して浅くはない傷口が誕生する。しかし、それでも致命傷には至らなかった。
「――おぉおおおおっ!!」
『ッ――!?』
ビャクが攻撃を仕掛けた直後、背中に乗っていたナイは上空へ跳躍すると、巨人の頭上で旋斧を構えていた。先ほどは岩砕剣を叩き込んだ時は碌な損傷は与えられなかったが、今回の狙いは頭部ではなく、ビャクが与えた首に目掛けて旋斧を振り下ろす。
(ここで決めるんだ!!)
ヨウからは自分を殺す存在だと言われた巨人、ここで仕留めなければナイは自分が殺されると判断し、確実に仕留めるために強化術を発動させて更に魔法剣を発動する。
旋斧の内部に蓄積された膨大な火属性の魔力を利用し、確実に仕留めるためにナイは更に魔法腕輪の火属性の魔力を全て注ぎ込む。その結果、旋斧の刀身は真紅の炎に包まれ、この時に巨人はあり得ぬ幻影を見た。
――飛行船に乗っていた者達は巨人を見つけた時、決して「人に倒せる存在ではない」と感じた。だが、ナイの旋斧には人知を超えた存在である火竜の魔力が宿っていた。
巨人の目にはナイの旋斧が纏う炎が竜種の姿に変化し、自分に牙を食い込ませようとしているように見えた。しかし、その直後に炎の幻影を振り払い、ナイは刃を放つ。
「ああああああっ!!」
『ッ――――!!』
火炎を纏った刃が巨人の首筋の傷口に食い込んだ瞬間、体内に炎が流れ込み、巨人は断末魔の悲鳴を上げる事も出来ずに内側から焼き付くされる。その光景を見た者達は慌てて離れ、やがて巨人の全体が煙を噴き出し、内側から焼かれていく。
渾身の一撃を放ったナイは巨人の首に突き刺さった旋斧を手放した瞬間に地上へ向けて落下し、地面に倒れ込む。激痛が走るが、強化術のお陰で肉体は限界まで身体能力を高めていた事により、どうにか耐え切れた。
(倒したっ……!?)
旋斧の一撃によって巨人は確実に仕留めたはずであり、ナイは勝利を確信した。しかし、全身に炎を纏いながらも巨人は確かにナイに顔を向けた。
――オォオオオオオオッ!!
だが、身体中から焼かれながらも巨人は咆哮を放つと、左足を振りかざす。その光景を見てナイは目を見開き、迫りくる左足を見てヨウの言葉を思い出す。
(踏みつぶされる……!?)
右足が引きちぎれ、背中も抉り抜かれ、左腕は動かす事も出来ず、更に体内に炎を送り込まれたにも関わらずに巨人は左足を動かす。それは最早、巨人の意志というよりもまるで見えない何かが巨人を動かしているように見えた。
ヨウの予知夢の運命の話を聞いていたナイは右足が崩れた時点で運命は免れたと思われた。まさか、片足だけでしかも全身が焼かれながらも自分に左足を振り下ろすなど思いもよらず、死を覚悟した。
だが、ナイは背中に硬い感触を覚え、まだ自分には武器が残されている事を思い出す。咄嗟にナイは背中に手を伸ばし、岩砕剣を掲げる。
「死んで、たまるかぁあああっ!!」
『ッ――――!!』
巨人の左足が振り下ろされた瞬間、岩砕剣が突き刺さり、そのまま地面に土煙が舞い上がった――
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