第459話 最悪の事態

――イチノを襲撃したゴブリンの軍勢、飛行船がではまだイチノは健在だった。それどころかここ最近の間は襲撃すらなく、街を守る銀狼騎士団も兵士も休む事ができた。



「奴等……いったい何を考えている?」

「分かりません……ですが、今日も恐らくは攻めてくる様子はありませんね」



第二王子であるリノは城壁から外の様子を伺い、街を包囲していたはずのホブゴブリンの軍勢は姿を消した。少し前まではこちらの様子を伺うホブゴブリンが何体か残っていたが、それさえも消えてしまう。


ホブゴブリンの軍勢の包囲が解除された事で街の住民達は歓喜したが、リノはホブゴブリンの軍勢の行動が信じられず、油断せずに警戒を行う。しかし、既に包囲が解除されてからかなりの時間が経過したが、ホブゴブリンは姿を見せない。



「あ、あの……王子様、あいつらもういなくなったんじゃないですか?」

「きっと、ここは落ちないと思って他の街に向かったんですよ!!」

「もしかしたら他所の街の冒険者か傭兵団がやってきて戦ったとか……」

「…………」



民兵の間ではゴブリンの軍勢は逃げ出し、もう街の安全は確保されたと思い込む者も多く、すぐに彼等は街の封鎖を解除して他の街に救援を求める様に促す。



「王子様、今の内です!!奴等が戻ってこない間に逃げましょう!!」

「この街はボロボロだ……次に襲われたら守り切れません」

「いや、駄目だ……罠の可能性もある。もうしばらく、様子を見るんだ」

「あんた、昨日もそう言っていたけどいつまでここにいるんだ!?俺たちはもう戦い何て懲り懲りだぞ!!」

「貴様等!!誰に向かってそんな口を!!」



民兵の言葉にリノは同意できず、もうしばらくだけ残るように指示を出す。しかし、そんな彼に対して民兵も我慢の限界だった。


彼等がここに残ったのは街を守るためではあるが、その街も既に被害が多く、もう街として機能するのも難しい状態だった。東西南北の城壁は度重なる襲撃で損害が酷く、しかも街の中にまで何度も侵入を許した事で住民も被害を受けている。


このままでは街を守るどころではなく、ゴブリンの軍勢が消えた今の内に他の街に避難する事を民兵は訴えた。しかし、リノはどうしても不安を感じてならない。



「あと1日、あと1日だけでいいんだ……もしも明日になってもゴブリンの軍勢が現れなかった場合、お前達の言う通りにしよう」

「よし、約束だぞ!!」

「本を正せばあんた達のせいでこうなったんだからな!!あんた達が不用意に奴等の住処に踏み入らなければこんな事にはならなかったのに……」

「ふざけるな!!我々はお前達を守るために……」

「いや、いいんだ」



民兵の中にはゴブリンが拠点としていた場所に銀狼騎士団が攻め入り、しかもこの街に逃げ帰ったせいでゴブリンの大群に襲撃されたと思い込む輩も多い。


実際の所はリノが率いる銀狼騎士団がゴブリンの軍勢が潜む拠点に奇襲を仕掛けたのは街を守るためであり、既にゴブリンの軍勢は街に襲撃を仕掛ける準備を整えていた。だからこそリノは無謀でありながらもゴブリンの軍勢に奇襲を仕掛ける。


しかし、ゴブリンの軍勢が住処にしていた山は外敵への対策も講じられ、逆にリノ達は罠を嵌められて最初の襲撃の時に戦力が半減してしまう。どうにか街に戻る事は出来たが、その後にゴブリンの軍勢が強襲してきた。民兵からすればリノが街に逃げ帰ったせいでゴブリンの軍勢が街に襲ってきたようにしか思えない。



「すまなかった、本当にお前達には悪い事をした」

「ふ、ふん……なら、明日だ。明日までは待ってやるからな!!」

「約束、忘れるなよ!?」

「貴様等……」

「私なら平気だ……行かせてやれ」



あまりの民兵の態度に銀狼騎士団の騎士は激高するが、そんな彼等をリノは抑える。もしも逆の立場だったらリノだろうと怒るはずであり、理屈はどうであれ街の住民からしたらリノは厄介者だろう。


それでもゴブリンの軍勢が襲撃を仕掛けて来た時はリノに頼るしかなく、実際に今日まで生き延びる事が出来たのはリノの存在が大きい。王子である彼がここにいれば必ず救援が派遣され、王国に忠誠を尽くす兵士は命懸けで戦う。


しかし、度重なる襲撃で騎士と兵士が減った事で民兵に頼るしかなく、彼等は王国に真の忠誠を誓っているわけでもなく、戦う事にも慣れていない。それなのに連日に無理やり戦わされ、さらにゴブリンの軍勢が消えたのに街を離れる事を許さないリノに我慢の限界を迎えようとしていた――





※時間軸は飛行船が出発した日です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る