第450話 魔斧
「くっ!?何だ、この武器は……」
「こ、これでは近付けませんわ!!」
「このっ……!!」
大男を守るように高速回転しながら手斧は周囲を移動し、迂闊に近づく事も出来ない。ナイは咄嗟に刺剣を取り出し、大男に放つ前に風属性の魔石を利用して貫通力と速度を高める。
「これならどうだ!!」
「ぬおっ!?」
風属性の魔石によって刺剣は手元を離れた瞬間に加速し、弾丸のように高速回転しながら放たれる。衝突すればトロールの肉体だろうが貫通する威力を誇るが、大男は手斧を操作して刺剣を防ごうとした。
二つの手斧が大男の元に迫る刺剣の前に移動し、金属音が鳴り響く。結果から言えば手斧は刺剣を食い止める事は出来なかったが軌道を変更させる事に成功し、大男の傍に控えていたグリフォンの胴体へ的中する。
「ガアアッ!?」
「な、何だと!?くそ、よくも俺の相棒を!!」
グリフォンの胴体に刺剣は深く突き刺さり、大男はそれを見て怒りの表情を浮かべると、ナイに向けて手斧を放つ。それを見たナイは咄嗟に旋斧を構えると、意識を集中させた。
(下手に攻撃を仕掛けても駄目だ!!弾こうとしても攻撃の軌道を変化されたら意味はない……だったら!!)
先ほどドリスが手斧を弾こうとした際に失敗した事を思い出したナイは、下手に攻撃を受けるよりも敢えて前に踏み出す。この時に既にナイの付与魔法の効果は切れていたが、ここで剛力を発動させて脚力の強化を行う。
(手加減する余裕なんてない……これで仕留める!!)
これまでの攻防からナイは手斧の軌道を大男が変化させている事は見抜いており、それならば大男が考える暇もなく近付けば手斧に邪魔をされる事はないと判断して足元に力を込める。
床に亀裂が生じるほどに強く踏み込むと、ナイは大男の元へ向かい、一気に加速して突っ込む。剛力は腕の筋力だけを強化するのではなく、足の筋力を強化させれば高速移動も可能とする。
「うおおおおっ!!」
「なぁっ!?」
手斧が繰り出される前にナイは大男の元へ接近すると、旋斧を振りかざす。慌てて大男は手斧を引き戻そうとしたが間に合わず、ナイは大剣を放つ。
「だああっ!!」
「ぐはぁああっ!?」
「ガアッ……!?」
大剣の腹の部分で大男を吹き飛ばすと、位置的に大男の後ろに立っていたグリフォンも巻き込み、そのままグリフォンと大男は壁に激突する。その様子を見届けたナイは冷や汗を流し、旋斧を背中に収める。
「ふうっ……勝った、か」
「ウォオオンッ!!」
ナイの勝利を確信したようにビャクは咆哮を放つと、この時に空中に浮かんでいた手斧が二つとも床に落ちる。どうやら使用者が意識を失うと手斧も勝手に効力を失うらしく、地面に落ちたまま動かなくなった――
――その後、飛行船はどうにか地上に流れている川へ着水すると、捕まえた空賊たちを下ろす。残念ながら全員を拘束する事は出来ず、何人かは逃げられてしまったが、空賊の頭は生け捕りに成功した。
「さあ、吐いてもらうぞ!!貴様等は誰の命令を受けて襲ってきた!!」
「……殺せ」
縄で拘束した大男に対してアッシュは尋問を行うが、大男は答えるつもりはないらしく、潔く自分を殺す様に促す。その態度にアッシュは眉をしかめ、大男に問い質す。
「お前はただの空賊だろう。既にお前の部下は情報を吐いた、お前が何者かの依頼を受けてこの飛行船を襲うように指示されたとな」
「…………」
「何者だ!!誰に我々を襲うように言われた!?」
「さあな……」
大男は自分が殺されるかもしれないというのに依頼人の事は口にせず、話すつもりはない様子だった。他に生き残っていた部下達も彼が依頼を受けて船を襲うように指示を出したとしか言わず、この大男から情報を聞き出すしかないのだが断固として答えるつもりはないらしい。
ただの小悪党なら自分の命の危機が迫れば誰に襲うように指示されたのか明かすはずだが、この大男は自分が本当に殺される事を理解した上で何も語らない。そこまで依頼人に義理立てする理由が分からず、アッシュは訝しむ。
(この男、闇ギルドに派遣された暗殺者か?いや、だが飛行船の襲撃を仕掛けるとなると我々が何処に居るのかを正確に把握せねばならん)
飛行船の順路に関してはアッシュが判断しており、彼は船の状態と地図を頼りに移動速度を計算した上で船を何処に止めるのかを決める。そのため、事前に飛行船が出発する事を知っていても何処に停泊しているのか正確に知らなければ襲う事は出来ない。
今回の襲撃は飛行船の移動中ではあったが、実を言えば出発直後に空賊が襲い掛かった事で船は加速する前の段階だった。現在地も昨晩過ごしたリュウ湖からそれほど離れてはおらず、恐らくは船が離陸する瞬間を狙って空賊は攻撃を仕掛けてきたとしか考えられない。
空賊が飛行中に襲ってきたのは彼等が有利だからであり、空中に浮かんでいる間は攻撃威力の高い魔法や魔法剣の使用は出来ない。実際にドリスの爆槍も下手に扱うと船を燃やす危険性もあり、彼女は戦闘では使用できなかった。
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