閑話 〈冒険者社会の厳しさ〉
「――全く、お前はどうして揉め事を起こさずにはいられないんだ」
「うるせえな……依頼は達成しただろうが、だったらもう仲間面するなよ」
「あ、おい待て!!まだ話は終わって……」
冒険者ギルドに引き返したガロ達は依頼物を引き渡しを終え、これで一応は依頼を達成した。依頼人は出来ればボアを生け捕りの状態で捕獲して欲しいという内容だったが、別に倒しても素材さえ回収すれば問題ないという内容だった。
ガロはボアの素材を引き渡すと、冒険者集団を組んでいた隊長格の男が説教をしようとした。だが、ガロは彼を無視してギルドを立ち去る。依頼さえ終えればガロからすれば彼等に用はない。
「ま、待って!!ガロ君!!」
「何だよ、まだ文句があるのか……」
「そうじゃなくて……その、ありがとうね」
「は?」
ギルドを抜け出したガロの元にアリスという名前の女性冒険者が駆けつけ、彼にお礼を告げた。何の話か分からずにガロは顔を向けると、アリスは少し恥ずかしそうな表情を浮かべていた。
「ボアに襲われそうになった時、本当は私達を助けてくれたんでしょ?お陰で皆は助かったわ」
「ちっ……」
「だいたい、この依頼自体が無理があったのよ。鉄級冒険者にボアの生け捕りなんて出来るはずがないのに……きっと、階級の低い冒険者を安く雇って無理な仕事をさせて、依頼が失敗すればギルド側に抗議するつもりだったのよ。さっき、冒険者の先輩からも教えられたわ」
アリスによれば今回のガロ達が引き受けた依頼は悪質な商人の依頼である可能性があり、わざわざ一番階級の低い鉄級冒険者でも引き受けられるように仕向け、もしも仕事が失敗すればギルド側に責任を取らせる。
依頼が失敗していた場合、ギルド側は違約金を支払うかあるいは冒険者を斡旋して依頼を果たすしかない。当然だが依頼を達成しても商人側は支払う料金は最初の依頼の金額分しか渡さない。商人からすれば依頼を失敗しても損は無く、仮に依頼を成功したとしても安い報酬で素材を得られるのだから得しかしない。
「昔と比べて冒険者も仕事が増えてきたけど、未だに冒険者の事を甘く見る人は多いの。だから、ガロ君も気を付けてね。どんなに態度の悪い依頼人だろうと機嫌を損ねるような真似をしたら駄目よ」
「依頼人の顔を立てて仕事しろと言ってんのか?くだらねえ……」
「でも、それが冒険者なのよ。私達のように階級が低い冒険者なんかは特に下積みが大切なんだからね……それじゃあ、また仕事を一緒にする機会があったら頑張りましょう」
「……おせっかいな女だな」
「誉め言葉として受け取っておくわね。それじゃあ、今日は本当にありがとう」
アリスは立ち去ると、ガロは彼女に言われた言葉を思い返し、確かに冒険者という仕事はガロが思っていた以上に難解な職業だった。冒険者になる前のガロは適当に魔物退治の依頼を引き受けて魔物を倒し、自分の実力を見せつければ階級を昇格できると思った。
しかし、冒険者に必要とされるのは実力ではなく実績であり、階級が低い冒険者では討伐系の仕事は殆ど回ってこない。理由としては討伐系の仕事は危険を伴い、まだ未熟な新入り冒険者には仕事を任せられない。
今回の依頼も大人数で受ける事を前提としており、階級を昇格させない限りは討伐系の依頼を一人で受ける事は出来ない。その事にガロは苛立つ一方、金を稼ぐ事の厳しさを思い知る。
(そういえば今までは老師に世話になりっぱなしだったな……)
ガロは自分の財布に視線を向け、もうあまり余裕はない。冒険者になると言って飛び出した以上、まさかマホに助けを乞うわけにもいかない。自分の食い扶持は自分で稼がなければならず、ガロは拳を握りしめる。
(畜生……何やってんだ俺は)
冒険者の厳しさを身を以て実感しながらもガロは明日からの食費を稼ぐため、嫌々ながら鉄級冒険者として仕事を行う事に集中した――
※ガロは根は良い子なんです。
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