第416話 ガロの真意

「ガロ、どうして一人で突っ走ったんだ。君が強い事は知っている、だけど今は僕達の仲間だ。なら、仲間と共に戦うべきだろう」

「仲間だと?仕事を一緒に受けただけでもう仲間扱いか?勘弁しろよ」

「何だと!?」

「ね、ねえ……もういいんじゃないの?その、色々と言いたい気持ちは分かるけどガロ君のお陰で私達は無傷でボアを倒せたのよ?」



冒険者集団の隊長格と思われる少年がガロに突っかかろうとしたが、少女がそれを引き留める。彼女だけは先ほどからガロの行動を咎めず、他の者を落ち着かせようとした。その事に隊長格の少年は戸惑う。



「アリス、どうして止めるんだ?彼が勝手に行動しなければ僕達は作戦通りにボアを捕まえる事が出来たんだ。生け捕りの場合は報酬も倍額になるはずだったのに……」

「で、でも……私達、ボアと戦うのは初めてでしょ?なのに最初から生け捕り目的で捕まえるなんて無理があったのよ。実際にボアを見た途端に私は怖くて魔法も発動させる事も出来なかったし……もしもあの時にガロ君が助けてくれなかったら今頃は死んでいたかもしれないし」

「助けた?俺はお前が邪魔だから突き飛ばしただけだ」

「そ、そうだぞ!!こいつは俺達の事なんて何とも思ってないんだ!!」



アリスという少女はどうやらガロにボアから救われたらしく、彼を庇おうとするがガロ本人は悪びれもせずに助けた事を否定する。その態度に他の冒険者も反発した。



「作戦通りにいけば俺達はボアを生け捕りにして倍の報酬も貰えたんだ!!けど、ここまで痛めつけて殺したらどうやって運ぶんだ?ここで解体して素材を持ち帰るしかないだろうが!!しかもこれだけの大きさだと全部持ち帰るのも無理だし、傷が多いと素材も安く買い取られるんだぞ!!」

「そうだそうだ!!」

「ちっ……うるせえ奴等だな、俺の分の報酬を渡してやるから文句言うんじゃねえよ」

「そういう問題じゃない!!君は冒険者集団を何だと思って……」

「いい加減にしてよ!!喧嘩している場合じゃないでしょ?もしも他の魔物に見つかったらどうするのよ!?」



今にも喧嘩しそうなガロと他の冒険者達をアリスと呼ばれた少女は必死に宥め、結局は彼女の意見が最もなので黙ってボアの解体を始める。その様子を見ていたナイはガロに声を掛けようとしたが、ガロは不機嫌そうに告げる。



「ちっ……とっとと消えろ、お前は邪魔なんだよ」

「ガロ……」

「クゥ〜ンッ」



ガロの言葉を聞いてビャクはナイの服を引っ張り、ここから離れる様に促す。他の冒険者達はナイとビャクを見て驚くが、ナイは仕方がないのでビャクの背中に乗り込み、その場を離れた。


去っていくナイの姿を見てガロは悔しさのあまりに歯を食いしばり、今の自分の姿を一番見られたくない相手に見られてしまった。その事に彼は心底悔しく思うが、アリスが語り掛ける。



「ガロ君……解体、手伝ってくれる?私達、こういうのも碌にやったことないから」

「……ちっ、仕方ねえな」



アリスに言われてガロは面倒そうにボアの死骸に近付き、ボアの死骸に集まっている冒険者達を押し退ける。



「くそっ……何て硬い肉だ」

「解体なんてどうすればいいんだよ……」

「退け、解体した事がない奴は下がってろ」

「なっ……偉そうに言いやがって、お前は出来るのかよ?」

「当たり前だ、いいから離れてろ」



ガロは手慣れた様子でボアの解体作業を行い、その手つきに冒険者達は驚く。マホの弟子としてガロは昔から魔物を相手に戦い、解体などの作業は手慣れていた。


冒険者達はガロが身勝手にボアを仕留めたと思っているが、実際の所は新米の冒険者である彼等にボアの生け捕りなどあまりにも難易度が高すぎた。ガロがボアを仕留めたのはアリスが殺されそうになった事だけではなく、彼等の命を救うためだった。



(何でこんな足手まとい共と一緒に行動しなきゃならないんだ……くそがっ)



どうして彼等とガロは冒険者集団を組んだのかというと、今回の依頼が鉄級冒険者の場合だと5名以上じゃないと引き受けられないという内容であり、仕方なくガロは他の冒険者と組むしかなかった。


ボアを倒す事ならばガロ一人でも十分だが、依頼条件を満たさなけれ仕事を引き受けられず、仕方なく彼は他の人間と組んで仕事を行う。今は我慢するしかなく、階級が昇格するまでの間はどうしてもガロは仕事を失敗できない。だからこそ足手まといと思いながらも他の冒険者と共に活動を行う。


今までは一人で何でも出来ると思ってきたガロだったが、予想以上に冒険者の仕事は彼に厳しく、彼の目標である1年以内に黄金級冒険者への昇格はあまりにも険しい道のりだった――

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